アクセラレータープログラムとは
アクセラレータープログラムとは、スタートアップの成長を短期間で加速させることを目的とした支援プログラムを指します。プログラム中には、メンタリングやネットワーキング、講義を通じてビジネスモデルや事業戦略を磨き、スタートアップ各社は次の成長ステージに進む成功確率を高めていきます。
グロービスでは2019年から「ユニコーン企業を100社輩出するプラットフォーム」を掲げたアクセラレータープログラム、「G-STARTUP」を開始しました。将来日本を代表するベンチャー企業へ成長することが期待されるスタートアップの起業家を採択し、著名な起業家・VCによるメンタリング、資金調達やネットワーキングの支援を実施。プログラム最終日には、プログラムを経て磨き込んだプロダクトや事業計画についてプレゼンするピッチイベント、「DemoDay」が実施され、優勝者を決定しています。
今回は6th Batchから8th Batchまでで優勝した3名の起業家、そしてG-STARTUP事務局長の田村菜津紀の4名で鼎談を実施。プログラムの特徴や今後のビジョンについて語り合いました。
*本記事は、2024年10月29日に実施されたインタビューをもとに編集しています。肩書きは当時のものになります。
G-STARTUPに参加したきっかけと課題感
田村:まずは、自己紹介をお願いいたします。6th Batchの永原さんから。
株式会社ネクスタ 代表取締役 永原宏紀氏(以下敬称略):ネクスタの永原です。私は学生時代からエンジニアとして勤怠管理ソフトの開発などをしており、卒業後はキーエンスに入りました。そのあと、父親が経営しているシステムの受託開発の会社で勉強した後、独立してネクスタを立ち上げました。事業としては、製造業向けの生産管理クラウド、バーティカルSaaSのシステムを手掛けています。オンプレカスタマイズが多い業界でクラウドのSaaSで頑張っています。
RENATUS ROBOTICS株式会社 最高執行責任者 COO 安藤奨馬氏(以下敬称略):7th BatchのRENATUS ROBOTICSの安藤です。物流倉庫における出荷、配送、保管などを効率化する自動走行のシステムや、ハードウェア開発の仕事をしています。私は創業メンバーですけれども、CEOではなくてCOOという立場です。
AstroX株式会社 代表取締役CEO 小田翔武氏(以下敬称略):8th BatchのAstroXの小田です。ロケットをつくる宇宙ベンチャーを立ち上げ、Rockoon方式(ロケットをより高い高度から発射するために、気球とロケットを組み合わせたロケット打ち上げ方式)で効率良く安価で打てるロケットを開発しています。もともとはソフトウェア畑の出身で、IT系の会社を何社かやっていたのですが、それを売却して2年半ほど前にAstroXを立ち上げました。
田村:では最初の質問です。G-STAを知って、参加しようと思ったきっかけと、その当時の課題感について教えていただけますか。
永原:5th Batchに参加されたイクラ不動産の坂根大介社長や他の参加者から「G-STAはレベル高い」という話を聞いたのがきっかけです。
また応募を検討していたときに、6th Batchのメンターが同じバーティカルSaaS業界のアンドパッドの稲田さん(代表取締役)だとわかり、参加を決めました。

田村:当時の課題感としては、どんなことがあったのでしょう。
永原:プレシリーズAの調達は終わっていたのですが、まだPMF(Product Market Fit)の状態ではなく、これからストーリーを描いて大きくしていく段階でした。そこをどう描くか解像度を上げていくことが課題でした。あわせて私自身も成長したいという思いもありました。
田村:安藤さんはどうでしょうか。
安藤:我々は米国法人が発行するSAFE(Simple Agreement for Future Equity)を用いてノーバリュエーションキャップ(企業価値評価額の上限を設定しない条件)による調達をずっと進めていました。そこにたまたまアクセラの情報が入ってきて、G-STAのホームページを見ると、ノーキャップの条件での出資が入っていたので、これはマッチするかもしれないと考えました。G-STAのスタートアップのプラットフォームをつくり、ユニコーン企業を輩出するという姿勢に賛同するところもありましたし、「ファイナンスのリテラシーをあげたい」といったモチベーションもありました。
田村:安藤さんは面接が終わって、メイントラックでお呼びしたあとも、参加を決定されるまでファイナンスについて4回くらい電話でディスカッションしたんですよね。具体的な調達の契約内容だったり、SAFEを使って出資が可能かといった相談だったり。シード期でアクセラ参加前に出資条件についてそこまで解像度の高い起業家も珍しいので驚いた記憶があります。
安藤:その節はご迷惑をおかけしました。でもそこで議論ができたのはすごくよかったです。
田村:あの議論はよかったですよね。アクセラに入ろうと思った時の課題感はどんなところだったんですか?
安藤:経営上は粛々と開発を進めるしかなかったので明確な課題感はありませんでした。弊社はBerkeley SkyDeck(カリフォルニア大学バークレー校が運営する世界的に有名なスタートアップ・アクセラレーター)を経験していましたが、日本でアクセラに参加することは初めてで、アクセラ自体の社内ナレッジが必要だったので、そこも兼ねて割とライトな気持ちで参加させていただきました。
田村:小田さんはいかがでしょうか。
小田:ROCKET PITCHで声をかけていただいたのがきっかけです。課題感としては、まさにプレAの調達前だったので、自分たちのやりたいバリュエーションで進めるにはどうしたらいいかということがありました。シンプルに起業家としての視座を上げたい、さまざまなことを吸収したいという思いもありました。
実際にプログラムに参加して
田村:実際に参加してみてどうでしたか?
小田:最終のピッチまでのプログラムの質がとにかく高かったです。普段、話せないような人と交流もできましたし。講義系は動画で倍速視聴したいタイプですが、今回はリアルで参加して良かったと思えるプログラムが多かったと感じました。
田村:メンターは野本(グロービス・キャピタル・パートナーズ ディレクター)でしたが、どうでしたか?
小田:野本さんとはピッチの話は最後にしたくらいで、調達と事業をどう見せるかという話を主にしました。普段は野本さんもキャピタリストの立場から言いにくいこともあるかと思うのですが、今回はG-STAのメンターとして投資に必要なことを率直に教えてもらいました。おかげでG-STAの優勝が決まる前には調達がほぼほぼ決まりましたね。
田村:安藤さんも、初めてのアクセラだったという話ですが、実際はどうでしたか?

安藤:良かったことは2つあります。ひとつがメンターの左さん(DEEPCORE エグゼクティブディレクター)としたピッチや資本政策のディスカッションです。
もうひとつは、講義でispaceの袴田さん(代表取締役CEO)からリアルな話を聴けたところです。
特に左さんには、IVS(Infinity Ventures Summit:日本最大級のスタートアップのカンファレンス)で使われているスライドを参考にさせてもらったり、VCがどういう目線で見ているのか教えてもらったりと勉強になりました。
自分たちだけでは次のラウンド以降のエクイティストーリーの精緻化もできなかったと思います。そういう当時はできてなかった認知ができたことも含めて、メンターの左さんとのディスカッションはとても良かったです。
田村:左さんとは、最初に3か月間で取り組む課題を決めたんですか?
安藤:そうですね。最初に左さんと話して事業の方向性はいいから調達に3か月間フォーカスしようと決めました。最終のピッチ発表も大事は大事ですが、調達に主眼を置いた時間の使い方をしてくれたのはありがたかったです。
田村:その後、ピッチの観点ではIVSでも優勝されて。
安藤:ありがとうございます。でもG-STAに出ていなかったら、IVSにも出てないと思います。そもそも一番インパクトがあったといわれる、ユニコーンになるためのバリュエーションを説明するスライドは左さんの案です。そういうのも含めてダイレクトに効果がありました。
田村:ありがとうございます。では、永原さんは参加してみて何がよかったでしょうか。
永原:一番は目線が上がったことだと思います。もともとユニコーンを目指していましたが、より意識するようになりましたし、具体的にどう行動したら大きい会社になれるのかが全体を通して見えてきました。
という前提があって、よかったのが2つ。まずメンターの頼さん(当時UB Ventures)と最終ピッチに向けてストーリーをシャープにアップデートできたことです。どういう戦略でどう伝えていくと分かりやすく納得できるのか、どうストーリーをつくっていったらいいのかが身につきました。
もう1つは、最初のマッチングデーで講師やメンターの方全員とそれぞれ15分20分話す時間がありましたが、そこでSaaSを中心に本当に大きい会社になるためのエクイティストーリーを聞かせていただいたことです。短い時間でしたが、得難い情報を知ることができた、いい時間でしたね。
G-STARTUPの特徴は「質の高さ」
田村:今、皆さんに経験を振り返ってもらいましたが、改めて他のプログラムと比較して、G-STAの特徴について教えてもらいたいと思います。
小田:「基本、全部リアルで参加してください」と事務局が明示したのはよかったと思います。起業家は予定が詰まっているので、そこを言わないとオンライン参加になると思います。おかげで8th Batchはリアル参加率が高く、それによって普段ならあまり生まれないコミュニケーションが生まれたと思います。
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田村:8th Batchは本当に仲が良くて、勉強会も開いていましたよね。7th Batchの安藤さんはどうでしょう。
安藤:アクセラは初めてだったので、特徴を言うのは難しいのですが、同じく横のつながりや、その場で終わらない関係が構築できたのが良かったと思います。そこは意図的に設計されていましたよね。本プログラム外の飲み会や、SlackやXのコミュニティなど、いろんな仕掛けがありました。そういう“同期感”みたいなのが私は結構好きでした。
田村:6th Batchの永原さんどうですか。
永原:スタートアップのアクセラの中では、講師陣、メンター陣、集まっている起業家も含めて最もレベルが高いんじゃないでしょうか。GCP(グロービス・キャピタル・パートナーズ)のキャピタリストが入っているのもそうですが、講師の方も有名どころが揃っていて、レベルの高い方があれだけの人数でコミットしてくれることはなかなかない。後発のアクセラもどんどん出てきていますが、レベルの高さではかなわないと思います。
(後編につづく)