連休には、読書でリフレッシュや新たな発見をしてみませんか。
グロービス経営大学院の教員が、「休みにこそじっくり読みたい・考えたい」オススメ書籍をご紹介します。
※これまでの長期休暇にオススメの書籍シリーズはこちら。
※この夏、「いま」知りたいテーマの3冊編はこちら。
名著100冊からリベラルアーツのエッセンスに触れる
推薦者:嶋田 毅(グロービス経営大学院 教員)
リベラルアーツが重要だと言われて久しい。たしかにリベラルアーツを学べば、幅広い視点が身につくとともに、クリティカル・シンキングの能力も鍛えられる。また、倫理観を高めたり、人間というものを深く理解したりするうえでもリベラルアーツは非常に役に立つ。実は通常の専門分野や実学以上に「よく生きる技術」として身近で使えるのがリベラルアーツなのだ。
一方で、これまでの(特に日本における)リベラルアーツの議論は人文科学や社会科学に偏りすぎ、自然科学の視点が抜けているというのが筆者の主張である。これは小職も同感である。
それを踏まえたうえで、「西洋哲学」「政治・経済・社会学」「東洋思想」「歴史・アート・文学」「サイエンス」「数学・エンジニアリング」の6つのカテゴリーで世界的名著100冊を取り上げ、それぞれについて平均6ページ程度にまとめたのが本書である。欲を言えば原著をじっくり読むのが好ましいのだろうが、それは現実的ではない。そこで、各書籍のエッセンスの中から特にビジネスパーソンにとって役に立つ、あるいは知っておくべきパートを抜き出したというのが本書のコンセプトだ。
「はじめに」でも触れられているように、本書は最初から順に読んでいくという類のものではない。関心のあるところから読んでいけばいいというのは、多忙なビジネスパーソンにとっては有難い。
知っている書籍のパートは飛ばしてもいいが、むしろ筆者がどのような解釈をしたか、自分の考え方と比較するのも面白いだろう。リベラルアーツは対話や思索によって鍛えられる部分も大だからである。小職も、「この書籍は自分ならこう解説するかな」などと考えながら読むパートも多かった。リベラルアーツをより身近に感じる上でも役に立つ1冊といえそうだ。
『世界のエリートが学んでいる 教養書必読100冊を1冊にまとめてみた』
著:永井 孝尚 発行日:2023/11/29 価格:2,970円 発行元:KADOKAWA
愛と働き方の究極の技術論
推薦者:森 暁郎(グロービス経営大学院 教員)
世界中で共働きカップルが主流になっていく中、キャリア(仕事)とカップル(恋愛や結婚)をどう両立させるかについては、様々なアドバイスが世にあふれている。
そんな中で本書の特徴は、カップルが岐路に立たされた際に、どんな選択をすべきか、あるいはどんな人生設計をすべきかよりも「どうすればうまく切り抜けられるか」に焦点を当てている点にある。
2人に訪れる3つの転換点
本書では、デュアルキャリア・カップル=2人とも自分の職業生活が人生に大切で、仕事を通じて成長したいと考えている2人の間には、以下3つの転換点が訪れると捉えている。
- 第1の転換期:各々が独立したキャリアからお互いを頼る状態
- 第2の転換期:自分たちがキャリア・人生に何を望むのかを追求しはじめる状態
- 第3の転換期:それまでの2つの転換期で築いてきた大事な役割を失った喪失感を埋めることを考え始める状態
各々の転換期について、「引き金」「陥りがちな罠」「向き合うべき問い」「解決する手法」につき、読者が感情移入しやすい身近な実例を多数交えながら、示唆を出していく。
未来予想図を描く一助に
多くのカップルが、様々な選択を迫られた際に何かを得るためには何かを失うゼロサム思考に陥っているが、筆者は、諦めずに二兎を追うポジティブサム思考の重要性を解く。
これは一例に過ぎず、愛と仕事を良い形で両立させることは「技術」であり、技術を磨けばどのカップルも3つの転換期を乗り切れるはずであるというのが、全編を通して一貫したメッセージである。
家族や大切な人とゆっくり話したり、じっくり考えたりする機会のできる夏休み。そんなとき、現在パートナーがいる方々にも、パートナーと共に生きるか一人で生きていくかを考え中の方々にも、未来予想図を描く助けになると共に、各転換期を乗り切るための技術・方法論も授けてくれる良書である。
『デュアルキャリア・カップル――仕事と人生の3つの転換期を対話で乗り越える』
著:ジェニファー・ペトリリエリ 訳:高山真由美 序文:篠田真貴子 発行日:2022/03/25 価格:2,420円 発行元:英治出版
経営戦略の実行に必須の組織を動かすメカニズムを体系的に学ぶ
推薦者:河田 一臣(グロービス経営大学院 教員)
経営の根幹を成すマネジメントコントロール
「マネジメントコントロール」という言葉をご存知だろうか?管理会計の1テーマと言う人もいれば、マネジメントコントロールのための会計が管理会計だと言う人もいる。いずれにせよ、管理会計の領域で取り上げられる言葉である。
仮に言葉を知らなかったとしても、「組織が、組織全体の目標を達成するために、そこで働く人々を動機づけ、まとめあげていくための仕組みやプロセス」がマネジメントコントロールシステムだと聞けば、その重要性は理解できるだろう。
経営とは、他人を通じて事をなすこと(Doing things through others)だと言われることもあり、とすればマネジメントコントロールは経営そのものだと感じる方もいるのではないだろうか。
非常に重要な内容なので、海外ではマネジメントコントロールと名の付く書籍を目にすることが多い。日本でもその名の科目を開講するビジネススクールは増えているが、反面タイトルにその名の付いた書籍は意外なほど少なく、知名度は高くない。マネジメントコントロールを正面から扱った本書は、貴重な一冊なのである。
経営戦略の実行を支援する
組織は、目的やビジョンの実現という成果を目指して、目標や戦略を立案する。そして、成果をあげるために最も重要なのは、実行である。どれだけ美しく素晴らしい目標や戦略を立案しても、実行されなければ絵に描いた餅だ。マネジメントコントロールは、実行を支援するための考え方やツールを提供する。
企業は戦略を実行するために、以下のサイクルを実施する。
- 組織構造(分業体制と調整の仕組み)を設計する
- 細分化した組織(サブユニット)の役割と業績測定指標を決める
- サブユニットの目標とインセンティブを定める
- 実行後に目標と業績測定指標の結果をもとに業績を評価する
例えば、サブユニットは付与された役割によって測定すべき業績指標や評価方法が異なる。大きく分けると、収益センター・コストセンター・プロフィットセンター・投資センターの4種類に分類することができる。それぞれのセンターの特徴やそれに基づいた業績指標や評価方法について詳説されている。
人は測定されることで行動が変わる。業績指数は評価のためだけではなく、人の行動に影響を与えるツールでもあるのだ。だからこそ、うまく活用することで、他人を通じて事をなすことができるのである。
本書は、これらのプロセスの構築を検討する際に参考となる理論や考えるべきポイントを詳細に解説しており、マネジメントコントロールの全体像の理解に役立つ。
経営者やFP&Aに必須の知見
組織内でのポジションが上がれば上がるほど、直接働きかけて他人に動いてもらうことは難しくなる。様々な経営手法を使って間接的に他人に動いてもらう仕掛けを作っていくことになる。マネジメントコントロールとはまさにそのためのものである。また、昨今注目を集めているFP&A(Financial Planning and Analysis)を実施するために必要だと著者は述べている。
経営者にとって必須の知見であるマネジメントコントロールを知り、理解を深めたいに方にお薦めの一冊である。
『組織行動の会計学 マネジメントコントロールの理論と実践』
著:青木 康晴 発行日:2024/6/13 価格:3,520円 発行元:日経BP
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