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水は方円の器に随うのか?〜ゲロルシュタイナーの機会と課題〜

投稿日:2011/08/26更新日:2019/04/09

「ゲロルシュタイナー」(GEROLSTEINER)は、100年の歴史を持つドイツNo.1の天然炭酸水。強い炭酸性を持ち、しかも、カルシウム、マグネシウムといったミネラル類を豊富に含んでいる。ユニークな特性を持ち、私自身ヘビーユーザーでもある商品だが、拡販においては悩みもあるらしい。日本国内での販売を手がけるサッポロ飲料にお邪魔してみた。

導入当初は、チャネル確保に苦慮

「この商品の取り扱いを決めたのは、ほとんど勘でしたね」と、2004年当時を振り返るのは、同社ブランド戦略室長の古林秀彦氏。ドイツNo.1のナショナルブランドであり、海外展開の実績もある。だが、日本市場にはまだ並行輸入も含めて入ってきていないという希少性も魅力だった。当時日本はミネラルウォーターの成長期。その中で、ただのミネラルウォーターではなく、「次は炭酸水のブームが来る!」と直感が働いたという。

とはいえ、その直感の正しさが立証されるまでには、相応の歳月を要した。炭酸水という商材自体の認知が低く、チャネルの確保に地道な交渉を要したためである。

2004年の日本市場への導入時は、料飲店など外食での利用を視野に、まずはガラスびん入りの1リットルと330ミリリットルでスタート。その後、顧客が日常の中でより気軽に手に取れる形態として、500ミリリットルペットボトルのタイプを2007年3月に首都圏のコンビニエンスストアに配架、翌2008年5月に1リットルペットボトルが量販店に並ぶ運びとなった。「ドイツ本国や欧州、北米で流通しているのはガラスびん。ペリエ、サンペレグリノなど日本国内で先行していた炭酸ミネラルウォーターもガラスびんでの流通であったため、ペットボトルでの展開はチャネル拡大に奏功すると考えた」(古林氏)ことが効いた。

その後、さらなる販路拡充のため自動販売機への投入を検討したが、「ドイツ側に日本の自販機に合うサイズのペットボトルを作ってもらうのが、大変だった」と古林氏。ゲロルシュタイナーは、<購買物流>→<製造>→<出荷物流>→<営業・販売>というバリューチェーンのうち、<購買物流>→<製造>まではドイツで行うことが前提の商品である。「官報に掲載された特定水源より採水された地下水で、源泉から直接採取され、そのままボトリングされたもののみを『ナチュラルミネラルウォーター』と呼称できるとEUにより定義されている」(古林氏)ためだ。従い、なんとかしてドイツで日本用のパッケージを作ってもらわなければならないわけだが、ドイツ側からすれば、「どれほどの規模のなるかもわからぬ日本市場だけに特化して新しいパッケージの製品を作る必要性は感じられない」というのが正直なところだったのだろう。結局、約2年後となる2010年にようやく自動販売機に収納できるサイズのペットボトルが開発され、全チャネル展開が完了した。

割り材→直接飲用という消費者の変化が追い風に

ただ、古林氏らの「次は炭酸水が来る!」との直感は的中した。通常のミネラルウォーターと比べると市場規模はまだ5%程度と小さいものの、とりわけペットボトルでの展開を始めた効果は大きく、2007年の投入以来2010年までにゲロルシュタイナーは250%の急成長を遂げることとなった。この期間、日本のミネラルウォーター市場では輸送中のエネルギーロスが問題とされる「フードマイレージ」が注目され、輸入ブランドのシェアが低下していたにもかかわらずである。同商品の「天然炭酸水という特性と、同一カテゴリーの輸入ブランドがガラスびん入りなのに対し、ペットボトル入りで扱いやすく、加えて150円(税別)という手ごろな価格が消費者の支持を得た」と古林氏は説明する。成長をさらに確固たるものとするため、2009年には俳優・城田優を起用したテレビCMも投下しプロモーションも強化した。

また2009年頃を境に、日本市場では炭酸水の用いられ方に変化が現れていた。天然由来か否かは別として、従来、多くの炭酸水はカクテルやチューハイ、ハイボールなどを作るための、アルコールの“割り材”として用いられていた。それをストレートで飲用する消費者が増えてきたのだ。

では、この変化はなぜ起こり得たのか。「ビール会社のグループ企業にいながら、こんなコトを言うのも変な話なのですが・・・」と前置きし、古林氏は自身の仮説を説明してくれた。

「炭酸水という商品の物性的な価値を突き詰めていけば『のどごし』です。つまり、ビール系飲料に消費者が求めるものの大きな要素と同じ。おりしも市場はビール系飲料離れが進んでいる。また、2006年〜2007年にかけては『ゼロカロリー炭酸飲料ブーム』がありましたが、それも既に一巡しています。ビールや炭酸飲料から様々な要素を取り去ってみると、最後には『のどごし』が残る。それを直接的に求める層が、炭酸水のストレート飲用をしているのではないかと考えられるのです」。

全てのビール系飲料や炭酸飲料ユーザーが「のどごし」だけを求めているとは限らないが、そうしたセグメントが存在するのも確かだろう。商品を手に入れることによって実現したい「中核的価値」を「のどごし」と考えると、それがどのように実現できるのかという「実体価値」はどうだろうか。ビール系飲料なら「ほどよい酔い心地」、炭酸飲料なら「爽快感」をもって実現できることが価値だ。さらに、中核的価値の実現に直接影響はないが、製品の魅力を高める要素である「付随機能」は、ビール系飲料なら「低カロリー」や「糖質ゼロ」、炭酸飲料なら「カロリーゼロ」がそれにあたる。

ビールの実体価値である「ほどよい酔い心地」はもはや不要として、アルコールゼロのビール系飲料を常用する人も増えてきた。そうした消費者ニーズの変化の中で、ゲロルシュタイナーは「のどごし特化飲料」というユニークなポジションが取れるのではないかと古林氏らは考えているという。

しかし「のどごし」だけでは機会損失が発生する・・・

古林氏の言う「のどごし」ニーズは確かに市場に存在し、ゲロルシュタイナーはそれに応えることができる。端的に考えれば、このニーズに向かって適切にマーケティング施策を打ち、一気に市場拡大、シェア獲得へ・・・となるのだろうが、「でも」と、同・ブランド戦略室の長谷川聡氏は、ことがそう単純ではないことを説明する。

ゲロルシュタイナーの特性は「のどごし」だけではなく、他にも多くの優れた特性があり、多様なニーズ開拓が可能、というのである。例えば、「硬度1310mg(1Lあたり)ph値6.5」という硬度は「スリミングウォーター」としての特性も持っており、健康志向の高い女性の支持を集めている。また、「カルシウム36mg、マグネシウム10mg(100mlあたり)」と理想的な配分、量で天然ミネラルを含有する特性は、妊娠中の女性に最適であり、爽快なのどごしと相まって、つわりが出る時期に飲みたい飲料のNo.1ともなっている。もちろん、主要販路であるコンビニエンスストアの主客層である男性の支持も高く、非アルコール飲用層からは「アルコール代わり」として、アルコール飲用層からは「お酒を飲んだ後に」というようなシーンで愛用されているという。

驚くべきは、リピート率の高さである。実に飲用者の81%が再購入をしているという。その理由は、「天然炭酸水だから」とミネラルの含有などが支持され、続いて「爽快な味わいが楽しめるから」と、強めの炭酸が支持されている。

これら特性、数値をサッポロ飲料、古林氏や長谷川氏の立場から眺めると、「『のどごし』ニーズに絞った訴求では、大きな機会損失を発生させてしまう」という悩みがリアルに感じられるのではないだろうか。

サッポロ飲料はこうした多様な消費者ニーズに対し、ゲロルシュタイナーの特性のどこかをフォーカスして訴求するのではなく、各種飲用シーンの提案を行う戦略をとっている。例えば、「目覚めの一杯に」「食事と共に」「お風呂上がりに」「スポーツに」「リフレッシュに」「就寝前に」などだ。ソーシャルメディアでの口コミ喚起など、コストをかけない施策を多く打つなど多々工夫をしているが、しかし結果として、マーケティング費用が散逸してしまう感は否めない。さて、この商品、皆さんだったら、どう売っていかれるだろうか?

フィリップ・コトラーのマーケティング理論の中核をなすのは「STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)」である。大量生産・大量消費の時代は誰もが同じモノを欲しがり、むしろ人と同じモノを所有することに喜びをおぼえた。しかし、市場が成熟し、消費は高度化した。ことに、米国のブラックマンデー、日本のバブル経済崩壊や、近くはリーマンショックなどの経済環境悪化の中、消費者は賢くなり、自らの「買う理由=KBF(KeyBuyingFactor)」をしっかり見極めるようになった。つまり、コトラーのSTP理論は消費者のニーズを見極め、ターゲットを的確に絞り、そのターゲットのKBFに合致するようなポジショニングを明確に提示することで顧客化を図ることを旨としている。

ところが更に、今日の消費者像は価値観が多様化し、多面性があり、状況による変化も激しい。対象とする消費者像を細かく規定しようとすればするほど、狙える市場が小さくなってしまう矛盾に直面する。従い、従来のSTP理論ですらとらえきれないと「ポストモダンマーケティング」がアンチテーゼを行っている。

特に商品の価値を自ら評価し、新たな用い方などを創造する消費者を「アクティブコンシューマー」と定義している。サッポロ飲料のゲロルシュタイナーに対する販売戦略は、このあたりにヒントがありそうに筆者は思うがいかがだろうか。

「水は方円の器に随う」と中国の思想家・韓非子は記した。人は交友・環境しだいで善悪のいずれにもなるという喩えである。このドイツ生まれの天然炭酸水を消費者はどのように今後扱っていくのだろうか。ゲロルシュタイナーはドイツ西部のアイフェル火山麓で、雨水が長い年月をかけて磨いたものだという。今度は日本の消費者に商品として磨くことが委ねられたのだ。

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