ペプシモンブランがくる〜
<「ペプシモンブラン」季節限定発売—人気のデザート「モンブラン」をモチーフにした、ペプシが新登場—>(9月21日サントリーニュースリリース)
栗のホッコリとした甘み。それを使ったスイーツ。その味を思うと思わずほほが緩む。ラ・プレシューズ、ラレーヌ、千疋屋などを筆頭に、「モンブラン」は大人気だ。
が、しかし、「ペプシモンブラン」は不味いはずなのだ。いや、不味くなくてはならないのである。その理由を説明する前に、変わり種ペプシの歴史を辿ってみよう。
変わり種ペプシは2007年夏、キュウリ味の「ペプシ・キューカンバー」で衝撃のデビューをしたと多くの人が認知している。キュウリ味というよりも、同じ瓜科のスイカの白い部分のような、薄甘く青臭いようなビミョー味がネット上で大きな話題となった。実際にはそれ以前にも、レッド、ゴールド、カーニバルなどの変わり種を投入してきたペプシ。だが、2007年頃、BlogやSNSなどでの口コミの情報量が増大したことも手伝って、それまでと一線を画す大きな話題となったのだ。
以降、2008年夏、カクテルからヒントを得た「ペプシブルーハワイ」。こってりとしたパイナップル味が甘く、ビミョーな苦みも少し感じる味わいだった。同年冬は、乳性炭酸飲料風の「ペプシホワイト」。少し飲むと普通に美味しいのだが、やがてビミョーなケミカル臭が感じられ、小児用シロップ薬が思い出される気がした。2009年は「和」がテーマだったといい、夏は「ペプシしそ」。
しその酎ハイを想起させるも、ホワイトに用いられていたケミカルさが強化された感が強かった。ホワイトとしそのケミカルさは、一部ドクターペッパーなどの味わいを好む人には好評であったが、多くの人は「1本飲み終えられない」と評した。
ところが、その不味い味に変化が起きたのが同年秋。「ペプシあずき」。「甘過ぎ」「なぜ、しるこのような粉っぽさを感じる?」といった声も聞かれたが、「意外に美味しい」との評が多かった。さらに、今年5月に発売された「ペプシバオバブ」。「アフリカに生育する樹木“バオバブ”をモチーフにした」という謎なコンセプトとは裏腹に、そのフルーティーな味わいは「美味しい!」と多くの人が衝撃を受けていた。
徐々においしさを増し、フツーに美味しくなった変わり種ペプシ。しかし、本来のその狙いはそれではダメなのだ。
ペプシモンブランが不味いと予想するワケ
ちょっと昔の記事になるが、変わり種ペプシの戦略的目標が、2009年10月7日付日経産業新聞で紹介されていた。記事タイトルは、「サントリー、ペプシPRへ話題作りシソ・アズキ…相次ぎ『奇策』」。
記事中でペプシブランドを運営するサントリー食品・食品事業部の石原圭子課長(当時)がインタビューに応え、「2本目を買ってもらうことは期待していない」「限定品は味わいの驚きでブランドの新しさや楽しさを発信する手段。商品自体がペプシのPRになっている」と言い切っている。
ペプシの最大のライバルといえば、コカ・コーラだ。会社規模で考えれば、総合食品企業のペプシコは、コカ・コーラより遙かに規模が大きい。また、世界各地の飲料市場でも、地域によってはペプシがコカ・コーラを上回るシェアを確保している例もある。しかし、日本市場では、ペプシを擁するサントリーは飲料業界第2位。第1位が日本コカ・コーラだ。
両社の飲料全体でのシェアはサントリーが20%なのに対し、日本コカ・コーラが30%以上と、サントリーは大きな差を開けられている。両者の戦力の違いで大きいのは、自販機の保有台数である。日本コカ・コーラが、全国にある清涼飲料用自販機約250万台の自動販売機のうち、約100万台保有するのに対し、サントリーは約45万台と劣勢なのだ。自販機での販売に劣るサントリーが注力するのは、昨今、自販機以上に重要な販売チャネルであるコンビニだ。自販機の飲料販売シェアはかつての50%から現在は35%まで低下している。それを奪っているのがコンビニなのだ。自販機は自社の都合で商品をラインナップできるのに対し、コンビニの棚を確保するには、チェーンの本部・マーチャンダイザー(MD)とフランチャイズオーナーが、「扱おう」という気にならなければならない。そして、その意志決定を大きく左右するのが商品の「話題性」なのである。
変わり種ペプシの狙いは、その話題性喚起を、マス広告などを全く用いずに口コミで伝播させることにある。発表された「ペプシモンブラン」の話題は、既にBlogやSNS、Twitterに記載されている。この記事もその一つになる。話題性を喚起して、変わり種ペプシをコンビニの棚に並ばせる。多くの店は、その限定期間中、ペプシのNEXなどのレギュラー商品も棚のフェイス数を増やす。それこそが、狙いなのである。
コカ・コーラに対するペプシ。日本コカ・コーラに対するサントリー。その構図はリーダー対チャレンジャーである。強大な力を持ち、全方位で戦うリーダーに対し、チャレンジャーは徹底して差別化を図る。リーダーがやらないこと、できないことを展開するのである。
「スカッとさわやかコカ・コーラ」というキャッチコピーは実は登録商標されている。それだけに、「さわやかさ」はコカ・コーラにおいて重要なブランド資産なのである。故に、「変わり種コカ・コーラ」は絶対に発売しない。そこでチャレンジャーであるペプシが差別化をかけるのだ。
本来、変わり種ペプシは「さわやか」だったり「美味しい」だったりしてはいけないのである。「ビミョー」だったり、「不味い!」だったりすることが、差別化のキモなのだ。衝撃のキューカンバーの不味さで大成功し、ブルーハワイでそれを継承。ホワイトとしそでは、ビミョー程度にトーンダウンしたが、あずきで美味しくなりだして、バオバブでついに美味しさが完成してしまった。これはいけない。
今回の「モンブラン」では、一気に本来のポジショニングに修正をかけてくる可能性が予想できる。バオバブとは打って変わって不味くなるのだ。「栗」ではなく、「モンブラン」というあたりが怪しい。あずきのような素材感ではなく、スイーツとしての甘みを極端に強調してくるのではないだろうか。もとより、変わり種のレギュレーションは、甘味料を使ったゼロ系飲料とは異なり、パンチの効いた砂糖・糖分の甘みが特徴だ。劇甘な気がする。そして、ビミョーなケミカルさも復活するかもしれない。
以上のように、筆者は「ペプシモンブランは不味いはずだ!」と予想する。しかし、その味がどうであろうと、早々とこれだけ話題にしてしている時点で、サントリーの戦略にはまっていることだけは間違いないのである。