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ハデハデ靴・メレルの「大ヒットのヒミツ」と「挑戦」

投稿日:2010/08/27更新日:2019/04/09

アウトドアシューズの価値構造とは

「自社の製品はどのような価値を持っているのか」を冷静に把握することは重要だ。それが、「誰から、どのように評価されるのか」を考えることは、さらに重要だ。

「カラーバリエーションはマーケティングのどん詰り」などと言われることがある。すなわち、製品がコモデティー化して差別化要素が出尽くして、カラーバリエーションの数を増やすぐらいしか手がなくなっている状態をいう。

例えば、「ノートパソコン」を考えてみよう。廉価なネットブックが登場し、さらにiPadに代表されるタブレット端末にその座を奪われつつある、成熟期、もしくは衰退期にさしかかった製品だ。量販店の店頭を見れば、その筐体に様々なカラーバリエーションが展開されていることがわかる。バリエーションを増やすということは、在庫・売れ残りのリスクがその数だけ高まることを意味している。しかし、もはや色ぐらいしか差別化ポイントを構築できないため、仕方なしにメーカーは展開しているのだ。

8月23日付日経MJファッション&リビング欄の連載コラム「ブランド深化論」。「メレル(丸紅フットウェア)派手な色の靴若者に浸透」という記事が掲載された。

メレルは来年30周年を迎える米国のアウトドアシューズブランドで、98年に丸紅が独占輸入権を獲得。08年に、従来の黒やオリーブ、黄色の3色に加えて、緑や青などを加え7色展開を始めたという。

その製品がどのような価値を持っているのかという、価値構造を明確にするフレームワークが、フィリップ・コトラーの製品特性モデルである。製品の持つ価値構造を3つのレベルに分解する。3層は中心から「中核」「実体」「付随機能」である。

「中核」とは、顧客が製品やサービスの購入で手に入れたい価値だ。前述のノートパソコンで考えれば、基本機能である「ドキュメントの作成」「インターネットの利用」「持ち運べること」が相当する。「実体」は「中核」の価値を実現するために欠かせない、製品の特性を構成する価値である。「軽量さ」「バッテリーの稼働時間」「耐久性」などが相当する。「付随機能」は、製品の中核価値に直接的な影響は及ぼさないが、その存在によってより魅力が高まる価値である。「カラーバリエーション」がまさにそれだ。

では、アウトドアシューズであれば、どうだろうか。靴としての基本機能である「足の保護」「歩きやすさ」が「中核」となる。従来メレルが持っていた「悪路でも滑りにくい」や「丈夫なこと」「防水機能(ゴアテックス)」などが「実体」。そして、普通に考えれば、カラーバリエーションはノートパソコンの場合と同じく「付随機能」となる。あれば差別化要素にはなるが、それがなくともアウトドアシューズとしての使用には耐えうるからだ。

メレルの大ヒットのヒミツは、その価値構造を「獲得すべきターゲットに対してどのように訴求すべきなのか」を検討した点にある。

山ガールを取り込んだカラーバリエーション

背景にあるのが、「山ガール」の増加だ。「森にいそうな女の子」をテーマとする、ゆるく雰囲気のあるモノを好む若い女性の服装やライフスタイルを指す「森ガール」とは違い、山ガールは本気で登山やアウトドアを愛する女子のことを指す。

ちょうど前出の記事と同日の日経MJ3面コラム・「底流を読む」に、「山ガールにみる需要想起」という記事が掲載されている。日本生産性本部の「レジャー白書2010」によると2009年の登山人口は前年比2.1倍に急増した。今年もさらに増えている。ブームの牽引車は「山ガール」とある。

レギンスに見立てたサポートタイツや、山スカートなど、従来の山好きなおじさんたちが見たら、「山をなめるな!」と怒りだしそうなファッションに身を包み、北アルプス、八ケ岳連峰などを闊歩しているのだ。

ウェブサイト「NAVER」にどんな格好か、画像がまとめられているので見てみて欲しい。

このトレンドをいち早く見抜いたメレルは、米国からの輸入品である、従来の地味なカラーの商品では、ブームに乗ることはできないと判断し、日本独自のカラー展開を米国本社に掛け合い、反対を押し切って承認させたことで実現させたという。

「山ガール」にとって、アウトドアシューズのカラーバリエーションは、「実体」たる「欠かすことのできない価値」なのだ。なぜなら、山や屋外で「足の保護」がなされ、「歩きやすさ」が確保されているだけでなく、「オシャレでいられること」も、「実現したい中核たる価値」であるからだ。

2009年11月20日付日経MJでは、スポーツ用品店「オッシュマンズ・ジャパン」の同年10月の売上高を基に登山靴のランキングを発表しているが、メレルの「カメレオン2ストームゴアテックスXCR」が首位に立っている。

余談ながら、実は筆者もシリーズの目にも鮮やかな色に惹かれて朱赤のシューズを購入し、「せっかく靴もあることだから・・・」と昨夏は立山を歩いてきたのであった。まさに同社の戦略に乗った一人なのだ。

ソニーの創業者、故・盛田昭夫氏は著書『21世紀へ』の中で「製品を商品としようとする場合には、その製品を手に入れたいという欲求を人々の間に喚起させなければ、いかに優れた製品であっても商品にはなり得ない」と述べている。

記事によると、メレルは今後さらなるチャレンジを考えているようだ。

メレルはほぼシューズが中心。今後はウェアなどの販売にも力を入れ、全身でメレルを楽しんでもらいたいとメーカーのコメントが掲載されている。ザ・ノースフェースなどの総合アウトドアブランドへの挑戦だ。その戦略として、顧客に占める女性の比率は現在、3割にとどまるが、将来は5割まで引き上げる考えだという。

筆者はザ・ノースフェースのファンでもあるのだが、同ブランドもなかなかビビッドなカラーのウェアも展開している。しかし、メレルとしては、「アウトドアブランドで“色”といえばメレル」という、トップ・オブ・マインド(第一想起)を獲得することが求められる。かつて、「カジュアルウェアで“色”といえばベネトン」というブランド想起がなされていたように。

アウトドアは山に限らない。夏のコンサート「フェス」でもメレルのアウトドアシューズが目立つらしく、最近は「川ガール」や「海ガール」も出現し始めているという。

メレルのターゲット顧客層はどんどん拡大している。しかし、ライバルも多い。その心をどこまでつかむことができるか、同社の挑戦に注目したい。

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