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世界初!機内生ビール1000円は、安いか高いか?

投稿日:2010/07/23更新日:2019/04/09

上空1万メートルにビール嬢が出現?

夏本番…というより、暑すぎる毎日が続いている。何か涼しい話題を提供したいと思っていたら、ありました。夏と言えばグビグビ生ビール。しかもそれが上空1万メートルで楽しめるというのだ。

ANAが世界で初めて機内で注ぐ「樽生ビール」の提供を7月20日より開始したという。通常のビールディスペンサーは、高圧ガスの炭酸ガスボンベを使用するため機内に持ち込みができないが、今回は電機メーカーとの共同開発で航空機内用が実現できたという。そのエポックメイキングなマシンで客室乗務員が手ずから注いでくれる生ビールの価格はつまみ付き400mlで1000円。果たしてそれを安いと見るべきか、高いと見るべきか。

「ANAが世界初、機内で注ぐ「樽生ビール」の提供を開始します」(7月13日News2u.net)

たかが1000円。されど、1000円だ。デフレ価格に慣れきった感覚では4桁は随分と高額に感じてしまうのが否めない。

「今日は頑張ったから、エビスにしちゃおうかな!」と家飲み用に買うプレミアムビールは1缶244円。飲み会でも、「ちょっとリーズナブルな“わたみん家”にしておこうか」ということになれば、スーパードライの中ジョッキが399円だ。

価格設定(プライシング)には3Cの視点が欠かせない。Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)である。製造や流通コストがいくらぐらいかかり、それに幾ら利益を乗せようか・・・という自社の事情、「原価志向の価格設定」だけでは当然、売れない。

競合製品と並べて置かれるコンビニエンスストアのナショナルブランド(NB)商品。昨今は流通のプライベートブランド(PB)商品との競争もある。居酒屋も200円台の均一価格居酒屋が乱立し、そこでは中ジョッキもつまみと同じく200円台である。(ビールではなく第3のビール等新ジャンルを用いている場合もあり)。そして、それを選ぶ消費者の選別眼もデフレ不況にさらされて厳しくなっているのだ。そうした環境での価格設定を「競合志向の価格設定」という。

しかし、競合関係が存在しない場合なら、消費者の選別眼の厳しさも軽減される。

1000円という値段は顧客に受け入れられるか

例えば、ビールではないが、富士山の山頂には自販機がある。そこで販売されている500mlのペットボトル飲料の価格は500円だ。280mlの缶が400円。フツーに考えればえらく高い。しかし、運搬コストもかかっている。いや、そんなことを考える前に、多くの登山客は喉の渇きを癒すために購入する。なぜなら、他に売っていないからだ。

ビールに話を戻そう。他に買う手段がない場所でのビールの価格。例えば映画館。TOHOシネマズはコンセッション(売店)で係の人がビアサーバーで入れてくれる生ビールが1杯500円。例えば野球場。東京ドームは売り子のお姉さんが背中のタンクからディスペンサーで注いでくれる生ビールが800円。

街中の価格からすればどちらも高いが、顧客は惜しげもなく購入する。原則的に場内には持ち込みが禁止で他に買う手段がないという理由もある。しかし、それなら飲まなければいいのだ。富士山の山頂に辿り着いて飲料を求めるほどの肉体的渇望感はないはずだ。だが、映画を観ながら、野球を観戦しながら、ついついビールが飲みたくなる欲求に抗えない。その欲求が充足されるという「価値」があるから買ってもらえるのだ。顧客が幾らまでなら払ってもいいかを考えて設定する価格を「需要志向の価格設定」という。500円、800円は十分需要価格の範囲内なのだ。

では、機内という環境はどうかというと、実は1000円のビール以外にもビールは存在する。ANAでは、以前のコラム「ANAMychoiceに学ぶ:値下げ&無料時代の逆張り」でも紹介したが、ANA国内線の新サービス「ANAMyChoice」の有料メニューとしてスターバックスのコーヒー300円などとともに缶ビールが500円で販売されている。つまり、生ビールの半額。単に「ビールが飲みたい」という欲求を充足させるならそちらでもいい。

しかし、「ビール」という対象物(ウォンツ)を手に入れたいというニーズの根源を考えるなら、空の上、飛行機の中という非日常的な空間で、さらに気分のいい時間を過ごしたいということになるだろう。そんなときに、この夏、世界初となる航空機内での樽生ビール独特のクリーミーな泡とキーンと冷えたビールの味わいをANA国内線の空の旅でお楽しみください(同社ニュースリリース)などと誘われたら、つい「一杯ください!」といってしまうだろう。

もし、自分が普通の500円の缶ビールで我慢したとして、隣の乗客が生を注文し、うまそうに飲んだら…と考えればなおさらだ。それに何しろ1便20杯(一部大型便では40杯)限定なのだ。躊躇していては売り切れる。

つまり、「需要志向の価格設定」には、顧客がその商品にどれくらい価値を感じてくれるのかという「カスタマーバリュー」を想定することが欠かせないのである。

他に手に入れる手段がない飛行機の中という空間で、缶ビールは500円。それより、スペシャルな生ビール20杯限定が倍の1000円。それが安いか、高いかは顧客の価値観に依存する。筆者は自らの価値観からすると、この1000円の生ビールは大人気になると予想している。

ただ、Yahoo!ニュース意識調査では、「高い」が73%、「妥当」が26%となっている。筆者の感覚がおかしいのか…。

  • 金森 努

    グロービス経営大学院 教員

    東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道四半世紀以上。コンサルティング事務所、広告を経て、2005年独立起業。 青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。著書「図解 よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)「”いま”をつかむマーケティング」(アニモ出版)。共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。監修「実例でわかる!差別化マーケティング成功の法則」(TAC出版)。雑誌への連載、講演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。

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