日経MJの「2010年上期ヒット商品番付」が発表された。大型ヒット商品の不作で東の横綱不在という寂しい結果の番付表。その東前頭3枚目に「デパクロ」が列せられた。「デパート+ユニクロ」を意味し、フォーエバー21なども含め低価格衣料品店が百貨店に相次ぎ進出し集客とある。
その百貨店、いったいどこへ行こうとしているのだろうか。
「小売りの王様」といわれる百貨店の苦境は、日本経済新聞、日経MJの記事には連日何かしらが掲載されているような状況が続いている。そして、今のところその出口は見えない。しかし、いくつかの模索する動き中で光明が見えてきてもいる。
「デパクロ」は救世主たり得るか?
上記番付の「デパクロ」。番付が発表された6月16日の記事の中では、4月に新宿高島屋店(東京・渋谷)やそごう川口店(埼玉県川口市)に開業した百貨店(デパート)内の「ユニクロ」が盛況とある。同時に番付表の寸評にも名が挙がっているフォーエバー21に関しては、米フォーエバー21が開業した松坂屋銀座店(東京・中央)は5月の売上高が4.4%増えた。フォーエバー21目当ての客が食品売り場などに流れるといった波及効果も生まれたとしている。
では、「デパクロ」は今後、百貨店復活の目玉になり得るのかといえば、6月9日付の日経MJの記事からは、どうやらそうでもない様相が見えてくる。
フォーエバー21とともに婦人靴や雑貨の集客の目玉として松坂屋銀座店に誘致された神戸レザークロス(神戸市)が本館2階で手掛ける「エスペランサマーケット」。SHIBUYA109(東京・渋谷)内の人気6ブランドを複合した新業態で、ファストファッションを意識した試みが詰まっているという。しかし、出店から1ヶ月半で「フォーエバーの来店客が回遊してくるとの見込みは甘かった」という結果だという。
相乗効果が出ない「デパクロ」?
食品売り場などへの回遊効果はあるものの、元々の狙いであった、衣料品や靴・雑貨への波及効果はない。低廉なファストファッションだけを求めるのではなく、例えばインナー・軽衣料はファストを購入した客が、アウター・重衣料は百貨店の通常売り場の商品を求めるという相乗効果を期待していたはずだが、その見込みは外れている。従来の売り場・商品だけでなく、ファストファッションとの親和性が高いはずの109銘柄のブランドにも流入せず、衣料品売り場をパスして食品売り場に流れてしまう状況は予想外だっただろう。
企業が顧客から収益を上げる方法を大別すると、一つは「アップセリング」である。
「同種の商品の買い換え・買い増し」で購入点数を増加させて売上げ・利益を増すわけだ。とりわけこの手法が得意なのがユニクロである。同種の商品のカラーバリエーションやデザインパターンで1顧客に数点から十数点を売る。そうでなければ、ブラトップ1200万枚、ヒートテック5000万枚の販売目標は立てられない。フォーエバー21などのファストファッションは同商品のバリエーションではないが、店内での自社ブランド商品を複数買わせる意味でアップセリング型であると考えてもいいだろう。
つまり、「デパクロ」は特性として、ユニクロやファストファッション売り場でアップセリングをして、そこで完結してしまうため、他の衣料品への波及効果が出にくいのである。
自助努力による相乗効果創出
もう一つの顧客から収益を上げる方法が「クロスセリング」である。これは、「関連商品の販売」によって売上げ・利益を増すのだ。ファストファッションの来店客が食品売り場に流れて売上げが上がるということも、百貨店全体としてはクロスセリングが達成できているわけだが、どこまでそれを狙ってやったのかは疑問だ。
本来的には、衣料・雑貨売り場での回遊によるクロスセリングを図るべきであり、衣料品売り場をパスして食品売り場に流れることが続くなら、ファストと既存店とのカニバリ(食い合い)が顕在化する懸念も考えられる。
その意味では、衣料・雑貨売り場での新たな回遊ルートを構築する動きが、松坂屋と同じJ・フロントリテイリング傘下の大丸で始まっている。
その一つが、大丸心斎橋店と京都店で展開されている「うふふガールズ」だ。従来顧客でない若年女性向けの複合ブランドによる売り場展開が、従来にない商品構成と売り方でターゲット年齢にとどまらない幅広い女性層の支持を集めて活況を呈しているという。
もう一つが小規模インディーズ系デザイナーズブランドを扱うセレクトショップの誘致だ。6月11日付日経MJの記事によると、上記「うふふ」と同じ大丸心斎橋店の北館に2月、古着風や民族衣装風など個性的な品揃えで異彩を放つ店が開業した。近年のインディーズを扱うセレクトショップの出世頭、ステュディオス(東京・渋谷)の心斎橋店だ<という。その取り組みはメジャーブランドだけではいつ飽きられるかわからない(MDマネージャー)という若年層対策の問題意識からである。
百貨店自らが売り場を作る。いわば「売り場の魅力作り」という“きほんのき”ともいう取り組みによって、従来にない顧客を取り込み、ファン化して売り場内の買い回りを促進。「クロスセリング」を達成させることが欠かせないのである。
顧客の囲い込みはどうか?
もう一つ、顧客から収益を上げる方法がある。いわゆる「顧客の囲い込み」を中心とした、「アフターマーケティング」だ。顧客との関係性を構築して、商品を購入した後のサービスの提供などによって、収益を上げる。
例えば6月9日付日経MJの記事は、こんな例を紹介している。三越日本橋本店(東京・中央)にサービス関連の専門コーナーが誕生した。「暮らしのサロン」という名称で、衣料品の寸法直し、クリーニング、家事の支援、金融相談の4店を1カ所に集めた。買い物ついでに立ち寄れる利便性が受け、売上高は計画を大きく上回っている。
しかし、価格は決して安くはない。クリーニングのスーツは6300円、ジャケットは4275円から。食事の宅配1セット(朝・夕食)2940円だ。利用顧客は、同店の主要顧客層である中高年であり、物を大切にする傾向が追い風と見ている。そして、商品を売るだけではなく、生活全般に関わるとの狙いであるという。
決して安くはないサービスを利用してくれる大切な顧客に対し、モノを売るのではなく、コトとしてのサービス提供によって、より強固な囲い込みを図りつつ、「アフターマーケティング」による収益を上げる。ホスピタリティーは百貨店本来の得意技であるはずだ。重要顧客ベースを堅持し、収益を上げる方法として、「物売りの呪縛」を解き放って、サービスに目を向けた取り組みの比重を上げるのは、非常に重要なことであると考えられる。
「このままでは若年層が足を運ばなくなる」という危機を脱し、話題を創出する上では「デパクロ」は大いに貢献したといえるだろう。しかし、百貨店の事業全体に対する波及効果や、将来にわたる貢献については疑問符が灯り続ける。そうした、他人頼みよりも、自社での展開や発掘、顧客層への厚い働きかけで収益を改善する取り組みが重要なのだといえるだろう。
まだまだトンネルの出口は遠いかもしれないが、自助努力で見えてきた明かりに向かって邁進し、百貨店には輝きを取り戻して欲しいと願う。