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「節約疲れ」な消費者の財布を、どうしたらつかめるのか?

投稿日:2010/05/14更新日:2019/04/09

節約疲れから各社の工夫が始まる?

4月16日付毎日新聞朝刊に、思わず目をひかれる社説が掲載されていた。「牛丼と弁当値下げの余波が心配だ」。さすが生活者の視点を大切にする毎日。牛丼戦争が社説で取り上げられているのだ。

社説は、牛丼戦争に象徴される値下げ競争の悪影響を危惧し、「値下げだけではなく、消費者が財布のひもをゆるめるような、サービスや品質での競争にも力を注いでもらいたい」と結んでいる。論説委員のお歴々、心配はいらない。「節約疲れ」は英語では「pent-updemand(抑圧需要)」というようだが、その需要を取り込もうと各社が工夫をこらして動き始めた。

『節約疲れの女性に「ちょい高め」パンコンビニ各社』(4月4日asahi.com)

従来より数十円から100円高いパンやデザートの販売に力を入れ始めた。「少し高くても、おいしいものを食べたい」という若い女性がターゲットだという。また、中堅コンビニ、スリーエフの中居勝利社長は、「消費者の低価格志向を先取りして小売り各社は値下げしてきたが、今年度上期でその競争も止まるだろう」との予想で、高価格帯の充実を検討中と記事中でコメントしている。

ポイントは、「従来より数十円から100円高い」というところだろう。抑圧された需要の向かう先は「贅沢」ではないのだ。ほんのちょっと。プラスアルファの消費。そこに商機があるのだろう。だとすると、そこは各社のプライシングの腕の見せ所だ。

消費者が「どれくらいまでなら払ってもいい」と考える価格を元にプライシングする「カスタマーバリュー(需要)志向価格設定」のなかでも「知覚価値価格設定」というものがある。市場調査などによって、消費者が受け入れやすい「売れる価格」を探り出すのである。

この時、二つ重要なことがある。製品がきっちりと差別化されていること。さらには顧客に「適切な価格である」と認識させることだ。

米国ブランドの「コーチ」が、1990年代半ばに日本市場での巻き返しを行った例が有名だ。「手の届く高級品」というコンセプトに従って製品仕様を改訂。従来の価格帯から30〜40%ダウンさせて、消費者を取り込んだのである。

「節約疲れ」「pent-updemand」を取り込むには、コーチの例とは逆に、今度は少し高めの価格設定で、商品の質をちょっとアップさせるのがポイントだ。その例として、モスバーガーの展開を見てみよう。

『“ひとときの贅沢”需要にお応えして「ぜいたくモスバーガー」「ぜいたくモスチーズバーガー」580円と640円で期間限定発売!!』(同社ニュースリリース)

同社はリリースでも、まだまだ厳しい日本の経済環境ですが、一方で“節約疲れ”ともいわれるようになり、我慢し続けるだけでなく本当にいいものは購買したい、というニーズも高まりつつありますと、「pent-updemand」の取り込みを明言している。外食産業でもいきなり高級レストランに需要が向かうことはない。「ちょっとした贅沢」というレベルでは一部でもブーム化している高級バーガー程度がちょうどいいところだ。

そして、ご注文いただいてから手作りするモスならではの、ハンバーガーひとつでちょっとした贅沢気分が味わえる「ぜいたくモスバーガー」をお届けしますとしている。これは、自社のバリュープロポジション(ValueProposition=競合に真似できない自社ならではの提供価値)を活かした非常にうまい手だといえる。

マクドナルドも内装を豪華にした新型店舗で100円メニューを廃止して、メニューも最大50円アップするなどの客単価アップに向けて舵を切っているが、チャレンジャーのモスバーガーは、ハンバーガー類の定番商品を軸として商品ボリュームごとに、「ボリュームゾーン(上位価格帯)」、「レギュラーゾーン(中位価格帯)」、「ライトゾーン(下位価格帯)」の3つの価格帯で幅広く商品群を設けるという戦略をとっており、「既存の最高価格品と比べても80円〜140円高い」とより大胆な展開をしている。

牛丼の値下げ競争も一息?

もう一つ注目したいのが、牛丼業界の「ニッチャー」である「神戸らんぷ亭」だ。

同社は業界内でも珍しい、醤油だれベースではない「塩だれ牛丼」を展開するなどの独自性が光っている。そして、変わり種味として「味噌味」も店舗限定、期間限定で展開し始めた。

『神戸らんぷ亭が「戦国牛丼・信長」を2店舗で販売』(ナリナリドットコム3月30日)

織田信長が好み、当時は贅沢品として重宝された味噌を使用とのことだ。並盛り500円。さらに新メニューも全店で展開するという。

「5/10より『ねぎとろ丼』を発売開始しました!!」(PRタイムズ5月11日)

こちらも同じく並盛り500円。

そう。両メニューの価格に注目である。牛丼業界は300円を切るか切らないかという、熾烈な低価格戦争を展開中だ。その中で500円、ワンコインは「ちょっとした贅沢」を狙った展開ではないかと考えられる。

昨今のランチは300円〜500円に抑えたいとする人が非常に多い。500円ならいざ知らず、本当に300円に抑えるのは、実は結構厳しい。280円のすき家の牛丼か、コンビニでおにぎり+カップ麺という、カラダとココロに少々よろしくない昼食が続くこととなる。

そのランチ予算の上限500円を「知覚価値価格設定」でキッチリ狙っているのだと考えられる。

一方に振れた振り子は、必ず反対側に振れる。健康志向、メタボ抑制の動きの反動で、「メガフード」はすっかり市民権を得た。消費者が「節約疲れ」しているかは定かではないが、消費を抑制していることは間違いない。その振り子が反対に振れるときが来たのかもしれない。しかし、まだ景気は本格的には回復していない。反対側への振れ幅は小さいだろう。

その、小さな振れ幅をどう取り込むのか。各社の知恵の使い方が試されている。

  • 金森 努

    グロービス経営大学院 教員

    東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道四半世紀以上。コンサルティング事務所、広告を経て、2005年独立起業。 青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。著書「図解 よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)「”いま”をつかむマーケティング」(アニモ出版)。共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。監修「実例でわかる!差別化マーケティング成功の法則」(TAC出版)。雑誌への連載、講演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。

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