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ヒートテックを追え!フェニックスの挑戦

投稿日:2010/01/08更新日:2019/04/09

アンダーウエアは発熱だけでいいのか

リーダーの戦い方は、全方位戦略だ。強大な力であらゆるところ、あらゆる相手に戦いを展開する。それに対してチャレンジャーは「勝てるところを見つけて戦う」のが原則だ。リーダーに、全面戦争を仕掛けて犬死にすることは絶対に避ける。そんな視点で冬のアンダーウエア市場を見ると、実に面白いチャレンジャーがいることがわかる。

冬用のあったかアンダーウエアのリーダーは、間違いなくユニクロのヒートテックである。今年度の販売目標は、何と5000万枚!しかも、消費者が「売って売って!」と列をなす。低価格でも、より薄くフィットするように、さらにより暖かく発熱するようにと毎年製品改良の努力を重ねた成果である。

「冬のアンダーウェア、発熱するだけでいいの?」

そんな、挑発的なキャッチコピーの車内広告を展開したのがフェニックス(Phenix)だ。スポーツメーカーである同社のロゴは、スキーウエアなどで見覚えがある方も多いかもしれない。その展開が、チャレンジャーの戦略としては実に見事なのだ。

あったかいだけのアンダーウエアは、実は環境が整備された日本では使いにくい。活動のスタート時は激寒でも、動き始めると人間は発熱する。次はその熱をどのようにして制御するかが問題になってくる。

寒波が押し寄せ始めた日本列島の朝、準備してあったユニクロのヒートテックや大手スーパーのあったかインナーの出番である。

「ほら、パパ!これ、あったかいって評判だから着てって!」とあてがわれた夫たち。ところが、「電車の中じゃあちーよ!会社で汗臭いよ、俺!」と不満をつのらせることになる。

電車という密室で、しかも「暑い」という不満が満ち満ちる絶好のシチュエーションで、「フェニックス」「フェニックス」「フェニックス」と、三回もカタカナですり込まれる。フォントも微妙に凝っていて、興味を惹く。AIDMAのAttention・Interestバッチリだ。

興味(Interest)を維持したまま、汗だくのまま、「フェニックスのアンダーなら、快適かもしれない」と、欲求(Desire)が高まる。そしてWebサイトを見てみれば何とも親切に、どうやったらアンダーのページに行けるかまで説明がしてある。PC苦手なパパもママも安心だ。

そしてサイトをよく見れば、結構本気のスポーツメーカーだったりして、機能もなんかすごそうだ、とちょっとびっくり。

しかし、価格はセール時のヒートテックが4枚以上買える値段……。「おぉぉ。無理かもしれん。けど、ボーナス少ないけど出たし、いつもならコート買ってもらう所だけど、それは我慢して……せめてこれを買ってくれ、嫁!」。Memoryをすっ飛ばして、Action、購入申請がなされる。そんな展開が多くの家庭で繰り広げられるのではないだろうか。

じ・つ・は、他のスポーツウエアメーカーも、この「保温/放熱/汗発散/抗菌防臭」を実現している所は多い。いわば「高価格帯のウエアメーカーでは当たり前の機能」でもある。しかし、電車に乗っている人のほとんどは、パタゴニアのベースレイヤ—を、ワコールのCW-Xを、アンダーアーマーを知っている訳ではない。そう、その辺りのブランドを熟知している人は、今回のフェニックスのターゲットではないのだ。

電車という限定空間で不満を募らせる人が、スポーツに詳しい知人から、「スポーツブランド○○のアンダーは熱を発散して、快適温度を保ってくれるから快適だよ。ヒートテックよりも高いけど、高いだけの事はあるよ」という競合の情報をすり込まれる前に、確実に狙い打ちしているのだ。

チャレンジャーの商品は、「あれ?この商品は有名な○○と似てる」と思っても、微妙に差別化して、新たなターゲットを狙っていたり、先行商品から少しずつパイを削り取る戦略だったりすることが多い。

そんな観点で見ると、もう一つ面白い商品がある。

エースコックのあつあつさん

1月25日新発売。エースコックの「生姜あんかけ風うどん」と「生姜とろみ醤油ラーメン」。

同社のニュースリリースをみると、世間で話題の“生姜”をテーマに、寒い季節にぴったりのホットな商品「あつあつさん」シリーズを開発しましたとある。

「世間で話題の生姜」というが、ここ数年間をかけて、「生姜ブーム」を巻き起こした仕掛け人といえば、本家は永谷園だ。以前このコラム上でも「永谷園生姜部が高めるブランド価値」と題して紹介したが、生姜のこだわり商品を生み出すために「生姜部」という専門部隊まで設立している力の入れようである。

その成果が「生姜の知恵シリーズ」。シリーズ名より、「『冷え知らず』さんの……」という商品名の方が認知度が高い。展開商品はカップスープを主軸に、即席スープ、ボトル缶飲料、グミ・飴・キャラメルといった菓子にまで展開している。しかし、その中の「ぞうすい」や「はるさめスープ」などは、モロにエースコックの新商品とかぶりそうだ。エースコックのほうがコンビニやスーパーの棚確保の力が勝っているため、「同質化」を仕掛けて、パイを奪い取る戦略に見える。さらに、「あつあつさん」のネーミングは明らかに「冷え知らずさん」を意識しているようにも感じられる。

危うし、「冷え知らずさん、逃げて〜」……。と考えるのは早計。パッケージを見ると、いかにもエースコックらしいガッツリ系であることが確認できる。あんかけ、とろみという商品名がストレートにわかるシズル感のある写真だ。カロリー数は両商品とも300Kcal前後だという。

つまり、ターゲットが明らかに違うのだ。「冷え知らずさん」はスープをおにぎりなど一緒に食べたい人、主に女性狙い。「あつあつさん」はあくまでこのカップ麺をメインに食べる人向けだ。実は冷え性の男性も少なからず市場には存在しているが、「冷え知らずさん」はいかにも女性向けなので手が出しにくいという意見もある。そのニーズギャップを巧みにとらえたのがエースコックの「あつあつさん」だといえるだろう。

フェニックスとエースコックの例を見てきたが、チャレンジャーは、リーダーの10倍、知恵を絞っている。似たような商品が上市されているとき、単なる「模倣商品」と見てしまうのではなく、どんな知恵を絞った成果の商品なのか考えてみるのも勉強になるはずだ。

  • 金森 努

    グロービス経営大学院 教員

    東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道四半世紀以上。コンサルティング事務所、広告を経て、2005年独立起業。 青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。著書「図解 よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)「”いま”をつかむマーケティング」(アニモ出版)。共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。監修「実例でわかる!差別化マーケティング成功の法則」(TAC出版)。雑誌への連載、講演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。

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