東南アジアの配車アプリGrab(グラブ)は、なぜ急成長したのか

日本の皆さんはGrab(グラブ)をご存じだろうか?筆者の在住するシンガポールはじめ東南アジアでは1.87億人注1が利用しているアプリサービスである。2018年Uberがその東南アジア事業を売却した先がこのGrabであり、ソフトバンクやトヨタが出資していることでも知られている。今回Grabが2021年中にアメリカでの株式上場を予定しており、20億ドルの資金調達をする方針だという報道があった。2012年に創業されたGrabはなぜ東南アジアで短期間にここまで急成長できたのだろうか。

配車アプリからスーパーアプリへ

シンガポールのGrabは、食事、買い物、日本でいうバイク便のサービスと、とにかく「運ぶ」ことに関してはカバー範囲が広い。手配をする面倒、料金や時間の不明瞭さなどを克服し、ドライバー評価も一目瞭然であることからユーザーの支持は非常に高い。また、モバイルペイメント(GrabPay)や保険など、さまざまなデジタルサービスを提供し「スーパーアプリ」となっている。

なぜGrabがこれほどまでにハイスピードで成長したのだろうか。

まずは、とにかくその使いやすさ。これは圧倒的である。アプリ操作自体が感覚的で簡単。安くて、正確に、安全に、タクシーを利用することができる。操作は、アプリ上で行き先と現在地を入力するだけ。場所の特定もかなり高い精度なので迷わない。配車数も多いので、呼べばすぐ来る。ドライバーの位置・待ち時間・到着予想時刻・料金も明確であり、乗車してからはドライバーと一切話さなくても目的地に着き、GrabPayを使用すれば自動的に支払いも済む。領収書は、あとからダウンロードすればよいだけである。

また、利用すればするほど利便性が高まるシステムも、ユーザーの支持向上に寄与している。顧客の乗車パターンから可能性の高い行き先を優先表示させたり、利用に応じて獲得できるポイントシステムも充実している。まるで自分専用車を所有しているかの利便性を感じさせ、筆者も毎日何回も利用している。

東南アジア領域という特徴を生かしたGrabの戦略

上記に加え、東南アジア領域という土地の特徴をうまく生かしていることも挙げられる。Grabは、シンガポール、カンボジア、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、タイ、ベトナムの8カ国でサービスが展開されているが、実は、東南アジアでは領域内移動が非常に多い。

域内全体の観光客数の42%(2015年)はASEAN域からの旅行者だそうだ注2。ただ東南アジアは各国の言語があり、英語では行き先を正確に伝えるのも一苦労。しかも、料金が不明瞭で、そもそもどこで乗車するのかさえも定かではないこともある。

これらのストレス・不安・面倒を解決してくれているのがGrabである。筆者はマレーシアでもGrabを使用するが、シンガポール国内で使用するかの如く使用できた。領域をまたいでの利便性に役立っているのも、Grabの特徴である。

領域をまたぐ一方で、Grabは徹底したローカライズ(ハイパーローカル戦略)を行っている。注3カンボジアやフィリピンではトゥクトゥクやトライクシルといった三輪バイクタクシーのGrabを展開している。渋滞のひどいフィリピンでは、Grabユーザーは、公共交通機関を使うより約70%も移動時間が短くなるという(2017年時点)注4

ユーザーのペインを把握し、それを取り除くことで利便性を徹底向上させ、また使えば使うほどにその利便性を実感できる仕組みを構築して、ユーザー獲得を行い、急成長しているのがGrabである。

東南アジアの社会課題解決

さて、ユーザーといえば、忘れてならないのはドライバーなどサービスを提供する人々である。これらのサービス提供者もGrabというプラットフォームを使用するユーザーだ。Grabのビジネスは、サービス提供者とサービス受益者のマッチングサービスであるといえる。

従って、サービス受益者だけではなく、サービス提供者の獲得と質の向上がビジネス成功のもう1つのカギになる。Grabのタクシードライバーの時給は、他のタクシードライバーの時給よりも32%多く、また国や地域によってはインターネットアクセスや銀行口座開設などの生活の基盤におけるドライバー支援を行っている。

Grabのマイクロファイナンスを受け、インターネットにつながったというドライバーも多い。こうした仕組みが功を奏し、ドライバーの数は、飛躍的に伸びている注4

サービス提供者のメリットの追及は、マッチングサービスの成功に欠かせないが、Grabの視点は社会課題解決にある。マレーシアでGrabを立ち上げた創業者のアンソニー・タン氏とタン・ホーイリン氏はともに東南アジアへの情熱を持つ。タン・ホーイリン氏は「Grabが技術で、この地域の社会課題を解決し続けられると信じている」注3と語っている。こうした姿勢が東南アジアでのGrabの爆発的な成功を支えているのだろう。

現在、Grab以外にも、インドネシアからGojeckも出てきた。東南アジアのアプリはその進化が早く、ユーザーの使いやすさ・便利さへのあくなき挑戦魂を感じることができる。出張できる時期が来たら、皆さんも是非、このGrabを利用し、東南アジアのアプリの利便性の高さを実感いただきたい。

注1
https://www.cnbc.com/2020/06/16/grab-disruptor-50.html

注2
https://www.grab.com/sg/blog/driven-by-tech/grab-data-shows-singapore-residents-are-the-most-well-travelled-in-southeast-asia/

注3
https://36kr.jp/34283/

注4
https://www.grab.com/sg/press/business/grab-celebrates-fifth-anniversary-significant-user-milestones/

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