中長期的に本質的なサービスであるほど追い風を受ける
2020年当初に、この一年の劇的な変化を予想できた人はほぼ皆無であろう。そのくらい、社会環境・経済環境・技術革新などの観点を踏まえて将来を予想することは難しいし、年々変化のスピードは速まっている。そういう時こそ見るべきは、むしろ中長期で不可逆な流れは何かという点だ。
事実、ベンチャーキャピタルファンドを運営し、次なる社会創造を志向している起業家に投資をしている私から見える景色は、より中長期的に本質的なサービスであればあるほどむしろ追い風を受け、もしくは既に急回復している投資先企業の姿である。これは、コロナ禍そのものが短期的な変化ではなく、来るべき将来がより早く到来し、これまでとは異なる社会に変化した(同じ場所には戻らない)ということを意味するのではなかろうか。
そんな中で2021年のマーケットを想像した時、以下の3つの不可逆な流れを想定している。
第一に、企業活動におけるDX(デジタライゼーション)。人々が同じ時間に盲目的に出社するという時代は終わり、必然性のある機会に限って、むしろより濃厚に同じ環境を過ごすという変化が起きた。物理的距離を前提とした企業活動は、顧客接点も含めてよりソフトウェア化・デジタル化が進み、新しい働き方を包摂する企業インフラの構築によって、より生産性が向上することは自明であろう。GCP(グロービス・キャピタル・パートナーズ)の投資先企業では、ブイキューブ、ヤプリ、アンドパッドなどがこれに該当する。
第二に、実体経済へのダメージからの回復の方向性としてのアセットレス化/シェアリングエコノミーやソーシャルビジネス。観光・飲食など、施設や店舗を前提とした業界は、人々の生活に密接性が高いにも関わらず、依然として厳しく、今後は利用形態も従前とは異なるだろう。そのような中では、アセットレス化の流れの中でのシェアリングエコノミーや、互助的な装置としてのクラウドファンディングなどのソーシャルビジネスの本格化が想定される。投資先企業では、akippaやREADYFORなどがこれに該当する。
第三に、精神性の高まりを伴った個のエンパワーメントや多様性の進展。今回の変化は、地域や環境による差が大きく、政府や公的機関が画一的な対応することが難しい。また、自粛期間中に自らのライフプランを考え、再構築した人は多いのではないか。その延長線上において、個々人が考え行動し、表現方法や消費行動に多様性が生まれることとなろう。その過程において、より人間らしく・自分らしくと言った精神性が伴うものと思料する。投資先企業では、クリーマなどがこれに該当する。
サッカー界には、「(人は汗をかいて疲労する。)ならば、汗をかかないボールに汗をかかせろ」という格言がある。この格言に表れるように2021年以降も、これまでなんとなく惰性的に闇雲に受け入れていた行動様式から、各個人がポジションニングや他者との繋がり方をより本質的に状況判断をしていく社会になっていくであろうし、その点への価値訴求やサポートをするサービスが、人々に受け入れられることとなろう。