セールスフォースが2.9兆円でSlackを買収。その狙いを「プラットフォーム」ビジネスの視点で考える

CRMシェア世界No.1のセールスフォースの基盤は盤石ではないのか

世界15万社以上の顧客を持つ顧客管理ソリューション(CRM)業界シェアNo.1のセールスフォースは、12月1日、1,200万人以上の日間アクティブユーザー数を有するビジネスコミュニケーションツール「Slack」を約2.9兆円で買収すると発表しました。すでに圧倒的な業界シェアを持ち、盤石なマーケットポジションを築いているように見えるセールスフォースは、なぜこれほどの大金を投入してSlackを買収するのでしょうか。

今回は、「プラットフォーム」というビジネスモデルの観点からセールスフォースのSlack買収の狙いを考えてみましょう。

■プラットフォーム(視聴時間:30秒)

プラットフォームとは、異なる価値を持つ複数の製品・サービス、情報などを集約する「場」のことを指します。セールスフォースもプラットフォームとしての価値を提供しています。たとえば、セールスフォースは、顧客情報を一元的に管理し、マーケティングと営業など部門間での情報共有を効率化しています。また彼らは、セールスフォースの有効活用を支援する外部のコンサルティング企業や、セールスフォース上での稼働に特化したアプリケーションを開発・提供する外部のソフトウェアベンダーとの連携を積極的に行っています。これにより、セールスフォースの製品を媒介にして、顧客と外部の専門的な商品・サービスをつなぐというプラットフォームとしての役割も果たしています。

このようにすでにセールスフォースは、社内部門間や外部パートナーをつなぐプラットフォームとして、十分に価値提供を行っているように見えます。それなのに、なぜ、Slackを買収するのでしょうか。その狙いを知るために、プラットフォームビジネスの特徴の一つである「ネットワーク効果」とそれを踏まえた戦略構築上の2つのポイントについて見ていきましょう。

「ネットワーク効果」が効きやすいプラットフォーム戦略の勝敗を分ける2つの視点

プラットフォームの特徴には、ネットワーク効果が効きやすく、一人勝ちになりやすいという点があります。ネットワーク効果とは、サービスのユーザーが増えれば増えるほどそのサービスの価値が高まることを言います。

プラットフォームでは、ユーザーが増えればより多くのユーザーを集めやすくなるという「直接的なネットワーク効果」と多くのユーザーが利用しているプラットフォームではユーザーに製品・サービスを提供したい企業を集めやすいという「間接的なネットワーク効果」の2つのネットワーク効果が働きやすい構造にあります。そのため、一度ネットワーク効果が効き始めると後発のプラットフォームが容易に追いつけなくなるという特徴があります。

よってプラットフォームビジネスで勝ち残るためには、「顧客提供価値の全体像を捉えること」と「環境変化に絶えず注視し続けること」の2つの視点をもって戦略を考え続けることが重要です。

まず、どうしたら顧客提供価値の全体像を捉え続けられるでしょうか。プラットフォームの特徴の一つであるネットワーク効果を発揮するためには、ユーザーの高い利便性を実現し、多くの顧客に利用し続けてもらうことが極めて重要です。ただし、提供価値を構成するすべての要素を一社で担うことには限界があり、無理にそれをやろうとすると利用者の利便性を損なう可能性もあります。そのためどこまでを自社でやり、どこで他社の力を借りるのかという最適なバランスを保つことが重要です。

これまでセールスフォースは、顧客企業内におけるマーケティング・営業活動の集約化を重視してきました。そこで核となる機能は自社で開発・提供し、そのほかの機能は外部パートナーと連携する形をとってきました。そのためビジネス上のコミュニケーション機能については、Slackとの提携でその機能を補っていました。

コロナ禍がセールスフォースに与えた環境変化とは

次に、環境変化に絶えず注視し続けるという点についてです。プラットフォームビジネスには、環境が変わると元々の優位性が一気に崩れるという側面もあります。例えば、過去に個人向けSNSとして国内で圧倒的なポジションを確立した「ミクシィ」は、スマートフォンの急激な普及への対応遅れが原因となり、その地位を失いました。このケースでは、スマートフォンの登場が環境変化の引き金になったといえます。

一方、今回のセールスフォースの買収意思決定の背景には、新型コロナウィルスの感染拡大によるビジネス環境の大幅な変化が影響していると考えられます。これまでもオンラインツールを用いてビジネス上のコミュニケーションを行うケースはありましたが、一部の職種や企業カテゴリーでの普及に留まっていました。

しかし、コロナ禍により、オンライン上でビジネスのコミュニケーションを行うことが普通となりました。そのため、セールスフォースはこれまで強みとしてきた「顧客企業内におけるマーケティング・営業活動の集約化」のみならず、ビジネス上のコミュニケーションも自社が提供するプラットフォームの核となる機能と認識するようになったと考えられます。そうするとセールスフォースが今後もプラットフォームとしての地位を維持・拡大していくために、Slackは欠かせないピースとなり、今回の買収の意思決定は理にかなった選択といえます。

プラットフォームの特徴を理解することで、セールスフォースがSlackを買収した狙いが見えてきますね。プラットフォームというビジネスモデルは、IT企業のみならず、製造業などの製品を扱う領域でも見られるようになってきています。ぜひ皆さんも自身が関わるビジネスで、顧客に対してどのような提供価値を届けていくのか、そのために自社がどのような機能を担い、外部とどう連携していくかについて考えてみましょう。

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