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「好きなことで起業」が私たちの強み ― aligatosができるまで 

投稿日:2020/12/09更新日:2022/02/07

2020年にグロービス経営大学院を卒業した香月美蘭さん、在学中から宣言していた通り、2020年夏、コロナ禍にもかかわらず、勤めていた会社を辞め、独立起業を果たしました。ずっと作りたかった商品は「aligatos」。その美しい靴下には、これまで勤めた数社での経験とグロービス での学びが詰まっています。中国から日本の大学に進学し、新卒採用で入社したユニクロでは3年で本社直下の店舗の店長に就任。その後もビジネスの第一線を走ってきた香月さんに、起業までの道のりと踏切台になった経営大学院での学びについてお話を伺いました。(全2回、前編、後編はこちら)(取材・文=難波美帆)

※2022/12/20にブランド名がaligato socksからaligatosに変更になりました。これに伴い記事内の表記も修正してあります。

aligatos 卒業生インタビュー

「戦略」と「好き」で考えた靴下で起業

難波:香月さんは、「デザイン思考と体験価値」の授業で出会いましたが、最も印象に残る学生さんの一人でした。その時に「起業します」っておっしゃっていたのを実現しましたね。すごい。でも、どうして靴下なの?

香月:まず、好きなアパレルであることが大事でした。グロービスで志系の授業を受ける中で、困難に直面しても自分の事業に情熱を注げるかを考えさせられました。起業の道には挫折がいっぱいやってきますが、それでも継続できるのは、ベースに好きというのがあるからだと思います。

次に、アパレル業界のKSF(Key Success Factorの略。主要成功要因。事業を成功させるための必要条件)を経営戦略やオペレーション戦略的に考えて、商材が「原理原則に当てはまるかどうか」というのを検討しました。ここで軸として定めたのが、「適正プライスで良いものを届ける」ことでした。

上記の条件を加味した時に思い浮かんだのが靴下です。靴下はオールシーズン使える商材なので、セールを加味せずに適正価格でちゃんと顧客に届けられるなと思ったんです。

難波:クラスで伺った時から、なぜそんなに明快に靴下なのかお聞きしたかった。

香月:靴下が大好きなんです。私はほぼ、モノトーンの服しか着ません。そうすると、つまらないコーディネートになってしまうので、差し色として、靴下とネイル、アクセサリーを使っています。でも、靴下で遊んでる人はあまりいません。靴下にカラーを一つ取り入れるだけでも印象がガラッと変わるんですよね。もっとカラーで自分を表現してほしいな、と思います。

「デザイン思考」や「カスタマジャーニー」の授業で顧客インサイトについて考えさせられ、今のデザインができましたし、最終的にはサイズ(履き心地)にフォーカスしようと決めました。実は、私の足が女性にしては大きめで25センチで、靴下大好きなのにサイズの合う靴下が少ないんですよ。

難波:好みのものに、合うサイズがなかったんですね。

香月:自分の足のサイズが大きかったので、気に入る靴下が見つかると買い溜めするくらい。周りに靴下の満足度について聞いてみると、逆に足が小さくて踵の切り返しが靴の後ろからピョンと出るのが気になる人とか、ゴワゴワする履き心地が気になって仕事に集中できなかったとか、やたら特定箇所に穴が空くなど、いろんなペインポイントがあることに気づきました。意外と多くの人が課題点だと思っているけれども、小さい不満だから、みんな我慢していたんですよね。

みなさんのご存知の通り、足には多くのツボがあり、足下が疲れると1日のパフォーマンスも落ちてしまいます。小さい不満かも知れませんが、これを解決するものがあったら、みんながよりやるべきことに集中できるはずと思い、課題解決に取り組むことにしました。

難波:ちなみに靴下ってファッションであると同時に機能があって履くものだから、ただの装飾品ではないですよね。

香月:そうなんです。結局履き心地が悪かったり、足が痛かったりすると、かわいくてもやめちゃうというのに気が付きました。それで、「絶対最高な履き心地の美しい靴下を開発してやる」と決意しました。

いいものを適正価格で届けたい

難波:靴下を作るために、最初にやったことは何だったんですか。

香月:まずはサイズレスを実現する為のプロダクト開発です。先程お伝えしたペインポイントは全て「カカト」が存在することで起きるんです。人の足は様々なのに、レディース、メンズという決まった枠組み(=サイズ)の中で選ばないといけないのはなんでだろう、と。どんな足にもピッタリ合うソックスは作れないだろうかと思い、靴下の歴史から調べ始めました。

グンソクってご存知ですか?

難波:軍足ですよね。

香月:はい。第2次世界大戦中、軍隊で使われていたソックスで踵の切り返しがない筒状で、1つの形状で全員履ける仕様のソックスなんです。ちなみに、靴下の用途以外に、お米の保存用袋にも使われました。ミリタリーのものは効率性重視でありながらも、デザイン性にも優れていて、今でも多くのブランドのインスピレーション源になっています。ですが、昔の軍足は100%コットンなので、伸びが悪く履き心地はあまりよくない。そのせいで大々的に商品化はされなかったんです。

それなら、最新技術を使って履き心地を最適にし、今の生活スタイルに合うプロダクトにしよう、と考え作ったのが、aligatosです。

難波:シンプルなソックスという製品を原点から考えて、知恵とアイデアを足して新しいものを作ったんですね。

香月:製品アイデアができたので、次に工場を探し始めました。

難波:全て一から自分でやらなければならないですね。

香月:ずっと「いいものを適正価格で届けたい」という思いがありました。アパレル商材はシーズン性があることから、セールをせざるを得ず、するとそのセール価格を加味したプライス設定になってしまうんですよね。だから、適正価格実現の為に、工場から販売まで自社でやろう、D to Cになろうと決めました。

難波:時々アパレルの価格付けを雑だなと思うのは、例えばお店で服を見ていて、全部14,800円とか同じ値付けになってるときですよね。これ、なんで同じ値段なのかなって思います。

香月:経営戦略のクラスでも学びますよね。セール価格を加味した金額をお客様から取るのは良くないなと、改めて思いました。そういう意味で、(新卒で入社した)ユニクロは「お客様の為」がベースにあった会社だったんだなと思います。やるなら正しいことをやろうと思って、ネットで工場を検索して、アポのメールを送りました。でも30件ぐらい送っても返信が来るのは2~3件くらいでした。

最初の壁は、工場探し

難波:取引がない、初めての連絡ってそんなもんなんですね。

香月:ここで壁にぶち当たって、無理かもと思った事件があります。奈良に何代も続いている工場があって、事業内容を拝見するととても良さそうな工場でした。アポを取ったらなんと受けてくれて、サンプルを作ってくれることになったんです。

難波:奈良まで行ったんですか。

香月:行きました。直接お会いして、私の思いも伝えて帰ってきました。でも、約束の期日がきても連絡が来ませんでした。実はサンプル品作りって工場にとって、負荷がかかる作業なんです。機械編みは自動でどんどん編んでいくので、1回セットするとすごく効率はいいですが、サンプルを作るために一回機械を止めて糸を掛けなければならない。機械を止めると、稼働率が下がりますし、糸掛けは職人技らしく、どのくらいの塩梅で掛けるかで、品質が変わったりするくらいで、手間なんです。

難波:分かる。私、編み物をするので。掛け加減、引っ張り加減というのかな、すごく大事ですよね。

香月:そうなんです。だから製造中の機械を止めたくないんですよね。期日から1カ月過ぎても連絡が来なくて、メールしたら「手こずってまして、あと2週間後です」って言われ、2週間後また連絡来なくて、「どうですか」と言ったら、「また2週間後」と言われ、2カ月過ぎました。大丈夫かなと思ったら、「できたので、サンプル代振り込んでください」というんです。

振込確認したら送ってくれると言うので、すぐ振り込んだんですよ。そしたら翌日にメールが来て、「事情で作れなくなったので、いただいた代金返却します」と。何が起きてそうなったかも、何も教えてくれず。「とりあえずできたもの買い取らせてください」と言っても返信なく。電話したら、不在でした。

難波:それは人間不信になりますね。

香月:焦りました。そこで2カ月タイムロス。10月くらいから探し始めて、今年の1月くらいにまたゼロに戻ったんです。もう無理かもしれないと一瞬思いました。そこでファッション業界の友達全員に、「知ってる工場ない?」と連絡しました。

難波:編んでくれる工場ね。

香月:しかも、靴下工場です。友人に何人かブランドを持っている人がいますが、残念ながら、靴下工場とのコネクションがある人はいませんでした。OEMという選択肢もあり、トライしてみましたが、OEMを通す分価格が高騰するのと、製品開発が思う通りできませんでした。作ってみたものの、なんか違う、ときめかないと感じました。「ときめかないものを製品化できない」と思い、いいものを、納得できるものを作ろうと思って、もう一回工場を探し始めたんです。

難波:やっぱり、初志貫徹だ。

香月:はい。またメールを数十件送って、1社だけ返ってきたのが今の工場です。今の工場の社長は同年代の方でaligatosのコンセプトを伝えると「中国での大量生産が主流の中、メイドインジャパンで頑張ろうとする新しいブランドってすごく嬉しいので、ぜひ協力したい」といって、前向きに取り組んでくれました。

難波:どこにある工場なんですか。

香月:同じく奈良です。奈良は靴下の有名な産地です。立ち上げたばかりで小ロットしか注文できない私達の為に、何回もサンプル作りに協力して頂けた工場様には本当に感謝しかないです。既存の靴下と違って、1から工夫して開発しないといけないのでサンプル作りも大変だったと思います。

「好きだから、誰よりも知っている」ことが経営のプラスになる

難波:aligatosは質感もとてもしっかりしていますが、色が、どの色もとても素敵です。

香月:ファッションは、毎シーズン流行色がありますよね。しかし、靴下はカラー選びが難しく、流行色を作ればいけるかというとそうではないんです。洋服としては良い色でも足下に入れるとなんか違う、となるカラーが多いです。シーズンカラーを確認しつつ、それだったらどの色の靴下が合うか、「この色が流行るならこの色がマッチするんじゃないか」というのを加味して決めます。コレクションのチェックは欠かせません(笑)。

難波:どの色もあまりにも素敵な色ですが、色はそうやって決めるんですね。

香月:はい、商品全体を並べた時のインパクトと一個一個履いた時のインパクトをバランスよく見ていきます。

難波:それがすごいと思いました。それはどこで勉強したというわけではなく、自分のセンスですか。

香月:多分、今まで見たものと、体験から得たものです。赤でもこの赤のトーンがデニムにもスラックスにも合う、とか。

難波:そういうのが経営を自分でやる醍醐味だけど、一番難しいところかなって思います。

香月:好きなものをやる意味が、ここにあるんだと思います。趣味って、没頭して深掘っていくじゃないですか。どんどん自ら学ぼうとして進んでいく。好きなことを仕事にするメリットとは、楽しいことをやっているというより、「誰よりも知っている」ということが、すごく経営にとってプラスになると思います。だから、「好きなことで、ぜひ起業してください」と思いますね。

難波:なるほど。好きじゃなかったら、色が決められないと思う。

香月:そこで色比率とか、今売れてる色は何割でとかやりだしたら、他と同じものを作ってしまいます。

難波:そしたらもう大手に勝てない。量産してるところに勝てないですね。

香月:そう考えた時、「これが私たちの強みかも」と思いました。

【関連サイト】
aligatos https://www.aligatos.com/

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