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ゼロ戦争勃発!サッポロはナゼ独自路線を狙うのか?

投稿日:2009/10/02更新日:2019/04/09

ノンアルコールビール戦争が始まった

2002年の道路交通法改正により、飲酒運転の罰則が厳しくなったことを受けて、サントリーの「ファインブリュー」を皮切りに大手ビール会社が続々とビールテイスト飲料を発売。市場を形成しはじめた。しかし、酒税法上では「酒」とは扱われない1%未満とはいえ、0.1-0.5%のアルコールを含有している各製品は、「飲みたいけど飲めない!」というドライバーなどのニーズには応えきれていなかった。そのニーズをがっちりとすくい取るべく、世界初のアルコール0.00%を実現し大ブレイクしたのが、2009年4月発売のキリンビール「フリー」である。

同商品は8月までに当初目標の年内63万ケースを大きく上回る219万ケースを販売し、年間目標を当初比約4倍の250万ケースに引き上げた。フリーの急成長に、競合メーカーは早くも追撃モードに入り、9月中に大手4社の商品が出そろった。

ディフェンディング・チャンピオンである「フリー」の味はといえば、各メディアから「最もビールらしい味わい」と好評である。猛追撃の構えを見せるアサヒビール「ポイントゼロ」は、さすが「スーパードライ」のアサヒだけあって、のどごしの爽快感がピカイチらしい。そして、サントリー「ファインゼロ」は「スッキリよりも味わい系」だという。

キリン、アサヒ、サントリーの3製品は、いずれも、「いかにビールにそっくりな味を再現できるか!」という前提条件の下に、各々が特徴を出そうと競い合っていることが分かる。そりゃそうだ。ドライバーの「飲みたいけど飲めない!車だから!」とか、ドクターストップがかかっている病人の「飲みたいけど飲めない!命が惜しいから!」という、「アルコールが完全にゼロでもビールの味が味わいたい!」という切なるニーズに応えることが、このカテゴリーの「中核的価値」であることは間違いないのだから。そして、それを実現するための「実体価値」として、各社は独自の味わいやのどごしを工夫しているのだ。

しかし、そんな競争ルールや価値構造にサッポロはあっさり背を向けているらしい。

カロリーオフ!プリン体オフ!

サッポロの「スーパークリア」はそもそも、原材料に麦芽もホップも使っていないという。サントリーなどは「麦芽を同社の従来商品の1.3倍使い、アロマホップを100%使用した」(東京ウォーカー)と大きく張り込んでいるのに、「サッポロは麦芽エキスを使用し、原材料名の筆頭も水溶性食物繊維」(同)だというから驚きである。

さらにブドウ糖などの糖分原料を控えめにし、「カロリーは他社製品の1/2〜1/3程度の6kcal(100ml中)でプリン体も低い」(同)という特性を実現しているのである。つまり、この製品の中核的価値は「ビール風味の健康飲料」なのだ。

そのビール風味を実現する実体価値は、「あっさりさらさらとした口当たりで、ビールの風味はするが、ビールの泡立ちやのどごしはない。ビールの代替物としては物足りないけれど、甘味のないスッキリした炭酸飲料を求める人には飲みやすい味わい」(日経トレンディネット)を実現している。そして、健康飲料としての魅力を高める「付随機能」として、「低カロリー・低プリン体・食物繊維」という健康3点セットがモレなくついてくるのである。

サッポロだけが大手4社の中で明らかにターゲティングも、ポジショニングも異なる展開をしていると推測できるが、そのワケはナゼだろうか。

サッポロがビール類課税出荷量のシェアで、サントリーに抜かれ4位転落をしたのは2008年第1四半期のこと。結局昨年は通期でも3位返り咲きができず、かわってサントリーが、ビール事業に参入した1963年以来初めて3位の座についた。サッポロの業界のポジションとしては「フォロアー」となっている。シェアの低下は店頭の棚確保が難しくなるというマイナスのスパイラルを生む。

サッポロ定番の「ヱビス」はサントリーの「ザ・プレミアム・モルツ」と真っ向勝負の最中だ。一方、ビール系の中では唯一の成長カテゴリーである第3のビールでも苦戦が続いている。「ビールと紛う味の良さ」と評判の「麦とホップ」の快走を期待したいところだが、イオンとセブン&アイ系列の店頭には、サントリー製のPB商品が棚を占拠しはじめた。ディスカウント店では、韓国製の第3のビールの侵攻が始まっている。ここでも予断を許さない。

そして、大手4社そろい踏みとなったノンアルコールビール。ノンアルコールでも同じビール系飲料の棚に入れられる。サッポロは、競合と同じ土俵で勝負をするのではなく、あえて製品特性とターゲット設定をずらして、「独自の生存領域確保」を狙う「ニッチャー戦略」をとっているのではないだろうか。

サッポロとて3位返り咲きを狙っているはずである。しかし、全てのカテゴリーで真っ向からチャレンジして、万が一にも総崩れになることは避けたい。そのためにターゲットを絞り込み、囲い込み、一定の販売数を確保する。そんな思惑が、スーパークリアの展開から伝わってくるのである。

ノンアルコールビール戦争(ゼロ戦争とも言うらしい)の火ぶたは切って落とされた。まずは味わってみよう(仕事中でも飲める!?)。PRやCMでのメッセージ、パッケージ、すべてに目を凝らしてみよう。そこから、各社の意図と戦略が透けて見えてくるはずだ。

  • 金森 努

    グロービス経営大学院 教員

    東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道四半世紀以上。コンサルティング事務所、広告を経て、2005年独立起業。 青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。著書「図解 よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)「”いま”をつかむマーケティング」(アニモ出版)。共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。監修「実例でわかる!差別化マーケティング成功の法則」(TAC出版)。雑誌への連載、講演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。

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