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NY発セレブご用達のドリンク「グラソービタミンウォーター」は日本に広まるか

投稿日:2009/08/28更新日:2019/04/09

グラソービタミンウォーターがやってきた!ヤア!ヤア!ヤア!

赤や黄色や緑のビビットカラーが目にも鮮やかな「グラソービタミンウォーター」。NY生まれのセレブ御用達飲料という触れ込みで、都内各地で大規模なサンプリングやイベントキャンペーンを展開し、人気となっている。7月からの販売実績も好調で、8月からはコンビニにも置かれ始めたという。さて、この商品どこまで日本に浸透するのだろうか。

■こんな商品

WalkerPlusの記事『NY発「グラソービタミンウォーター」が日本上陸!』から引用する。アメリカ・ニューヨーク生まれの清涼飲料水だ。純水を使用しているので飲み心地がよく、ビタミンなどの栄養素が入って低カロリー、しかも保存料や合成甘味料および合成着色料は不使用…と、セレブに“刺さりまくり”の健康的アイテム、という。

え!健康!この色で……。さすが米国。さすがNY。我々が健康でイメージする淡い色彩とは程遠い。

さらに、なによりその人気を支えるのがボトルのオシャレっぷり。“スタイリッシュ”&“ファッショナブル”をコンセプトにしたドリンクは、発売以来、多くのセレブやスポーツ選手が愛飲し、有名なラッパーがボトルデザインを行うなど、アメリカでは誰もが知っている人気ドリンクとして確固たる地位を築いている、らしい。

種類は、「power-cドラゴンフルーツ」「energykickトロピカルシトラス」「d-fenceラズベリー&アップル」「chargeレモン&ライム」「surper-vレモネード」の5種類。それぞれ配合されている栄養素が違っており、ブランドのホームページでは、「頑張りたい時」「デート時」「会議中」「ココロとカラダに充電が必要な時」など、生活の場面場面に合わせて飲み分けるスタイルを提唱している。

真っ赤なかき氷シロップにそっくりな、「power-Cドラゴンフルーツ(ビタミンC+果糖)」を試してみた。「頑張りたい時」の一本だ。味は液体の激しい色とは裏腹に、やはり「ウォーター」なのでほんのり薄あま〜い味である。例えていうなら、「イチゴシロップのかき氷を食べずに放置しておいたら溶けちゃって、もったいないからその水を飲んでみたら薄あまかった」ってな感じである。でもこのコラムを書き続ける元気ぐらいは、もらった気がする……。

■こんな価格

そんな商品であるのだが、Priceが特徴的なのだ。なんと、200円。ウォーターということであれば、ミネラルウォーターの相場は500mlで100円〜140円。清涼飲料の相場は150円。「ただの水にさよなら」とのコピーがあるので、清涼飲料に属する商品であるのだろうが、それにしても50円分さらにプレミアムが設定されていることになる。

■商品の価値構造と価格構造を分解して考えてみる

この商品がもたらす価値と、その価値がどのように価格に反映されているのかをフレームワークで考えてみたい。フィリップ・コトラーの「製品特性3層モデル」を用いる。その商品を手に入れることで実現したい「中核価値」は、飲料であるので「喉の渇きを癒す」である。これは単なるミネラルウォーターでも実現できるので、100円分の価値と考えよう。

その中核価値をどのように実現できるのかという価値を「実体価値」という。5種類のフレーバーで、不足しがちなビタミンやミネラルなどの栄養素が手軽に摂取できること。さらに保存料・合成甘味料・合成着色料を一切使わず、水も純水使用でカラダに安心して摂取できるということ。つまり、味と機能性と安心感が「実体価値」であり、それは一般の清涼飲料と同じく50円分に相当すると考えられる。合計150円だ。

200円という価格のあと50円分を占めるのが「付随機能」である。付随機能は、それがなくとも「中核価値」に影響は及ぼさないが、存在することでより魅力を高める要素である。

NYのセレブが愛飲していて、カンヌ国際映画祭で併催されたイベントではパリス・ヒルトンやマライア・キャリーが登場したという。「セレブ御用達」というキーワードに弱い日本人好みの要素がまず挙げられる。

商品のパッケージもいかにも洋モノ。オシャレな雰囲気を漂わせている。ちょっとしたユーモアも隠されており、5つのフレーバー各々をテーマにした、ショートストーリーが記載されている。

都内各地で繰り広げられたサンプリングやイベントで話題になり、参加したりサンプルを手にしたりした人が、ブログやSNSで書き綴ってさらに話題を盛り上げる。その「流行に乗っている感」も重要だ。つまり、この商品の「付随機能」と50円分のプレミアムは「気分」に由来するところが大きいのがわかる。

さて、この商品、「日本にどの程度普及していくのだろうか」というのが最初の問いであった。「ティッピング・ポイント」という言葉がある。ある商品やアイデア、流行が、一気に社会に広がる劇的瞬間のことを指す。最近また流行り出しているインフルエンザの感染を考えてもらうとイメージがしやすいかもしれない。ある閾値を超えると、野火のように現象が一気に広がっていくのだ。グラソービタミンウォーターはどのようにティッピング・ポイントを迎えるのか。それとも限られた範囲の流行で終わるのか——。

マーケタ—の腕の見せ所?

■イノベーション普及論で考えてみる

200円を払って実際に商品を購入しているのはどんな人々か、E.M.ロジャースのイノベーション普及論で考えてみよう。米国の社会学者であるロジャースは、イノベーションがどのように社会や組織に普及するのか実証的研究を行い、採用時期によって採用者を5つのカテゴリに分類している。

冒険的でリスクを好み、1番最初に採用するのがイノベータ(Innovators=革新的採用者)である。しかし、新しいものにすぐ飛びつくイノベータが採用しただけでは普及は継続しない。ロジャースは、市場にイノベータは2.5%しか存在しないとしている。

その価値を正しく理解し採用する層を「アーリーアダプタ(EarlyAdopters=初期採用者)」という。市場に13.5%存在し、自ら情報収集をし、人への伝達力も強いことから、この層が採用すると、市場全体への浸透が加速するといわれている。

続いて採用する層は「アーリーマジョリティ(EarlyMajority=前期採用者)」である。比較的慎重な行動を取るが、平均より早くに新しいものを取り入れる傾向がある。市場全体に34%存在するといわれているここまで取り込めれば、市場の半数を抑えたことになる。

革新的な技術や製品の普及には、「イノベータ」に続く、「アーリーアダプタ」の取り込みが欠かせないと、ロジャースは言う。

グラソービタミンウォーターの次なる課題もまさにそこにあるのだろう。

■スキミングプライシング:値段を下げて順次ターゲットを拡大する?

新商品の展開において明らかな差別化要因をもってイノベータ層を取り込み、プレミアム価格をもって展開する価格設定を「スキミングプライシング(SkimmingPricing=上澄み吸収価格設定)」という。読んで字のごとく、市場の上澄みのオイシイところを吸収し、さっさと投資回収をするのがキモである。

対極にあるのが「ペネトレーションプライシング(PenetrationPricing=市場浸透価格設定)」である。収支ギリギリの低価格で一気に市場に浸透させシェアを確保することを目的とする手法だ。その場合、最初から収支ギリギリなので価格は下げられない。幅広いターゲットに一気に浸透させてシェアを取ることがキモなのだ。

今回の場合、サンプリングやイベントに投下した費用は莫大であり、なかなか回収できるものではない。だとすると、もっとターゲット層を拡大する必要があるだろう。スキミングでスタートを切った場合は、ターゲットを見極め、普及状況を考慮して、段階的に値下げをして裾野を広げていく余地がある。

■グラソービタミンウォーターの今後の展開

まとめると、今はイノベータ層が200円のプレミアム価格で「気分」よく購入している状況。今後は販売チャネルや販売地域を拡大しつつターゲットの裾野を広げていくに違いない。すると、前述のような順次値下げも考えられる。テレビや新聞、雑誌などマス広告を大量に投入してくる可能性もある。

きっとマーケタ—は、胃薬片手に、市場をつぶさに観察し、ティッピング・ポイントを迎えるべく、次なる仕掛けを用意しているに違いない。そんなことを考えながら、楽しい気分に乗って200円払って飲んでみるといいだろう。

セレブでオシャレで、楽しい気分にさせてくれるグラソービタミンウォーター。一つの商品が市場に投入されたとき、どのように社会に“感染”していくのか、感染をマーケタ—がどのように仕掛けるのか、ウォッチしているのもまた、楽しみ方の一つではないか。

さて、ここまで一気に書き上げて少々疲れてしまった。そんな時には「energykickトロピカルシトラスビタミンB6+ガラナ+カフェイン」だ。さて、お味は……う〜ん、水で薄めたうす〜いオレンジジュースの味がする……。

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