これまで「SFA」や「VR/AR/MR」の記事において、withコロナの時代による市場ニーズの変化が飛躍的に大きなビジネスチャンスを生むかもしれないという話をしてきました。ただいずれも、ニーズ変化の兆しが見えているといっても、どこか「ちょっと先の夢」的な色も帯びていました。
一方で、新型コロナの感染拡大によって、「今ここに顕在化した」切実なニーズもあります。代表格は、感染リスクを減らすために「人対人の接触機会を減らしたい/減らさないといけない」というものでしょう。これまで当たり前のように大勢の人が1カ所に集まったり、人が別の誰かに直接触れたり話しかけたりすることで成り立っていた仕事の多くは、抜本的な見直しを迫られることになったのです。そんな待ったなしのニーズを解決するために注目されている技術が、ロボティクスやRPAと呼ばれるものです。
ロボティクスとは、言葉の意味自体はロボットの設計や製造に関する学問分野を総称する「ロボット工学」のことですが、ビジネスの文脈では、IoTでつながったセンサーからデータを収集してAIで処理し、プログラムされた機械(ロボット)を制御してさまざまな問題解決のための動作を行う一連の技術を指すことが多いです。
コロナ以前までは、ロボティクスといえば工場で活躍する産業用ロボットや、物流倉庫での自動ピッキングロボットが代表的な実用例で、目的としては人手不足への対応、正確さやスピード等の面での作業品質向上、コスト低減といった点が主でした。そこへコロナ以後では、外出自粛の動きを受けて小売店頭での販売からネット通販へのシフトが起こり、倉庫や物流センターなどでの自動化ニーズが急増しています(参考:2020.5.21 SankeiBiz 「物流業界に倉庫自動化の波 巣ごもり消費、人手不足で高まる需要」)。
また、接触機会を減らすため人の代わりを務めるロボット、具体的には飲食店での接客や配膳、オフィスや公共施設、病院等における清掃や消毒を行うロボット等が登場してきています。
RPAとはRobotic Process Automationの略で、広義では「業務の自動化」ですが実態としては主にいわゆるホワイトカラーの事務作業プロセスを自動化することを指します。たとえば、顧客や代理店から毎日集まる紙の書類から必要な情報を読み取ってパソコンのスプレッドシートに入力し、検索や集計をした後、適切なファイル名をつけて社内サーバに保存するとともに、関係部署にメールで送付する――。こうした定型的な一連の業務プロセスを自動で行うようにしようというわけです。
今回のコロナ対策で決まった10万円の特別定額給付金では、オンライン申請で受けたデータを職員が目視で確認しなければならないなど、一部の自治体で処理に大きな負荷がかかったと報じられました。これに対して、たとえばNTTデータは地方公共団体に対してRPAソフトを期間限定で無償提供しています(参考:NTTデータ「地方公共団体向けにAI-OCRサービスとRPAソリューションの無償提供を開始」)。
これは少々極端な例ですが、これまで人手をかけて処理していた業務を、テレワークも進んだ環境下なるべく自動化したいというニーズは至る所で生じています。
このように強い自動化ニーズですが、ロボットが一気に普及していくには課題もあります。一つは、ロボットにどこまでの作業をやらせるか、人間が予めきちんと特定し、処理しやすいようにプロセスを設計してやる必要がある点です。また物理的なロボットであれば事故や故障、RPAであれば手書きの誤記や例外処理など、突発的な事象をどう捌くかという点もあります。必ずしも「手離れ」のいいものではないのです。
マーケティングの用語でいえば「Jobs to be done(片づけたいジョブ)」ははっきりしているロボティクス/RPA。そこに如何に上手く応えていくかのスピード競争の様相を見せていると言えるでしょう。
【参考図書】
『テクノベートMBA 基本キーワード70』
グロービス、嶋田 毅 (著)、PHP研究所
1650円