本記事は、HRカンファレンス2020「グローバル人材育成最前線~変革を推進するイノベーション人材輩出のヒント~」の内容を書き起こしたものです(全3回 中編)
上杉理夫氏:今回、丸紅アカデミアというプログラムがどういったものかについてご紹介させていただきながら、みなさんに少しでもお役に立てればと思っております。
丸紅グループでは、2018年に「在り姿」として「Global crossvalue platform」を定めました。
時代が求める社会課題を先取りして、変化に対して自らが変わっていく。そして、新しい時代に向けてグループ全体が変わっていく。それを今の「在り姿」ということで、この紅い丸を丸紅グループ全体として表現しています。組織の壁を越える、会社の壁を越える、全体をパートナーとして掛け合わすことによって新しい価値をつくる、こういったことを目標としております。
丸紅グループの経営戦略とは
当社の中で、今、目指している姿としては、2030年に向けた長期的な企業価値向上を追求するということで、3つの成長ホライゾン、これを同時に推進することを考えています。
足元の成長を支える持続的成長としてホライゾン1、2。それから将来に向けた爆発的な成長を捉えるホライゾン3ということで、足元の収益と、将来の収益、これを同時に追求していくことによって企業価値を高めることを目指しているという状況です。
では、これをどうやって具体的に実行していくのか。当社としては、「既存事業の強化」に加えて「新たなビジネスの創造」ということで、事業戦略とイノベーション戦略、これをいわば両利きの成長戦略ということで考えています。
具体的に社内で推進している施策としては、「人財」「仕掛け」「時間」この3つの軸を中心に推進しており、まず「時間をつくる」、さらには「人を育てる」「仕掛けを行う」、この3つを同時に進めることによって、掛け声だけではない、具体的な行動に結びつく、企業価値向上に寄与するような取り組み、新しい動き、会社の文化、こういったものをつくろうとしています。
「丸紅アカデミア」が目指す姿
「人財」の中にある「丸紅アカデミア」についてご説明します。丸紅アカデミアは人材育成研修ではありません。学びの修了を目的とした社内大学ではございません。また、個人の自己研鑽やエリート養成プログラム、または次のステップに進むためのキャリアパスの資格ですとか、そういったものでも全くありません。アカデミアのゴールは、あくまで企業価値向上に向けた行動を起こすために取り組む新しいプログラムということで考えています。
丸紅アカデミアが目指す姿とは、“Leadership in the fast changing world”。世界で力を発揮するリーダーシップ。それから経営戦略に沿った、取り組むべき課題、解決策への提言。学びがゴールではなくて、戦略を実行する行動を起こして企業価値を高める。メンバーに対しては毎回、事務局の我々や講師の方からも、これは研修ではなく、あくまで行動を起こす「変革を牽引するエバンジェリスト」を養成しているのですよ、と言っています。すなわち、ここでアカデミアのプログラムが終わった後も、行動に結びつかなければアカデミアのプログラムの価値がない。アカデミアというものは学びの研修ではなくて、その先ずっと続くプログラムですということで、メンバーには常に意識をさせています。これが丸紅アカデミアの特徴です。
これが実際にアカデミアを行っているときに撮った写真ですが、特徴としては、コンテンツ、コミュニケーション、これはすべて英語で行っています。世界の先端企業をリアルに訪問して、現場で学ぶ。さらには、そこでどのような人がどのような考え方なのかを感じる。それから、登壇いただいた方、終わった後に、左下のようにみんなで取り囲んで、自分が考えていること、彼らが考えていることを、直接意見をぶつけ合ってディスカッションをする。さらには、最終的に学びを通じた次なる行動を経営陣に対して最終提言をするというのがアカデミアのプログラムになっています。
参加人数は全部で25名。これは1年間の人数です。今年のメンバー構成でいきますと、日本人が14名、外国籍の方が11名ということで、海外も含めた15拠点から集まってプログラムを実施いたします。属性は、本社の社員、駐在員、および海外店の現地スタッフ、それからグループ会社のプロパー社員が混ざっている状態です。形式としては年4回、1週間の合宿型で、シンガポール、中国、それからインドネシア、インド、アメリカでこれまで実施してきました。メンバーは自薦と他薦で応募し、年齢に関しては20代から50代まで幅広くいますが、この中で選ぶポイントとしては、やはりエバンジェリストとしてどれだけ影響力があるか、志があるか、自分から変わろうという変革の意識があるか、そういったことを重視して選定しています。
変革を牽引する人材を育てるプログラムとは
実際にプログラムの内容をご説明しますと、前半のSessionが2つ、これは「丸紅を知る」、それから「イノベーションを知る」ということで、どちらかというとインプット型で、スキルを中心とした「知る」という行為を中心に進めています。まず己を知り、さらには世界を知り、その上で、自分たちが行うべき行動、方向性、これを考えさせるプログラムになっていて、特にSession1のところでは、丸紅の社内メンバーのみならず、社外から見た丸紅の姿を伝えます。それから、グロービスさんからチームビルディング、物事の考え方であるビジネスモデルキャンバス、こういったことを研修で伝えています。
Session2に関しては、実際にグローバル企業やベンチャー企業、金融機関などとの対話を通じて、最先端のイノベーションを知るということをやっています。また、自社のケースをグロービスさんにオリジナルでつくっていただき、ケーススタディを通して自社のイノベーションを再認識します。
Session3、4では、「マネジメントシステムを知る」、それから最終的には「経営メンバーへの提言を行う」ということを進めております。実際に己を知り世界を知ったあとに必要となってくるのは、その新しいアイデアを推進するための仕組みです。さらには、リーダーとして変革を推進する必要があります。そういったときに、スキルだけではなく必要になってくるツールセット、こういったことも同時に伝えながらマインドセットをしっかり設定することを意識しながら進めています。
特にグロービスさんに提供していただいているプログラムは、マネジメントシステムの中で変革のリーダーシップを行ったケースや、我々自らがこれから行動を起こすときに、丸紅としてどうすればこれからの時代に成長できるか、企業価値向上に貢献できるか、を考える内容になっています。また、最後にはアルムナイセッションということで、丸紅アカデミアの前年度に参加したメンバー、前々年度に参加したメンバーとのセッションを設け、アカデミアが1年間・25人のプログラムで終わるのではなく、過去ともつながることによって、過去から未来に向けたアカデミアグループ、もしくはアカデミアというものがひとつの変革のドライバーになっていく、こういう目標を持って進めている状況です。
これはプログラムの中の「マインドセットの学び」で使った資料ですが、デジタルが起きる前、それからデジタル時代において、意識をどう変えなければいけないかをまとめた資料です。
ディスラプター、スピード、リスク、カスタマー、パートナー、デジタルトランスフォーメーション、こういったものに関してそれぞれがどう変わっていくか。変わったことによって我々は何をしなければいけないか、意識をどう変えなければいけないかということを徹底的にインプットしています。
これは「エコシステムコンセプト」に関する学びの一例で、実際のスライドの抜粋になります。従来は自前主義を中心とした考えで、当社の中にある個別事業を大きくすることだけを一生懸命やっていましたが、これから変化が早く先行きの分からない世の中になってくるときには、自前主義からの脱却し、社内・社外というよりは社会課題に対するソリューション、これを提供していく必要があると考えています。
従来の考え方というのは、この左の小さな絵に描かれているような、植木鉢の中にある花を一生懸命咲かすことでした。それぞれの営業部・事業部が大きくなっていくことを目的としていましたが、これからの時代は全体をエコシステムと捉えて、自社だけではなく他社も含めてひとつの大きな庭をつくることが必要です。このコンセプトによって、より大きな成長、より広いネットワークに幅広くつながっていく。こういったところをインプットすることによって自分たちのマインドを変えることを進めています。
それから、「リーダーシップ」。特に時代の変化が早い今の時代において、リーダーシップというものも位置づけが変わってくると思います。従来型の強いリーダーがすべての組織を引っ張っていくというマネジメントリーダースタイルに対して、先行きが不透明になってくればくるほど、イノベーション型のリーダーシップが必要になってきます。
「COLLECTIVE GENIUS」という概念で、ひとりがグイッと引っ張って、みんながついていくということではなくて、“羊飼い”的にたくさんの天才、いわゆるたくさんの能力をうまく組み合わせて、それをうまく方向性を合わせてゴールに向かっていく。こういったことを進めることによって、今までにない価値創造につなげていきたいと考えています。
グロービスとの協業の理由とは
丸紅アカデミアはすごくフレキシブルなプログラムです。年初に決めて、すべてのプログラムを計画に沿って進めるのではなく、1回ごとにセッションが終わると、次のセッション、次のセッションということで、学びをどんどん変えている、型にはまらないプログラムになっています。そういう意味では、本当にわがままなんですね。そのわがままをグロービスさんは本当によく聞いてくれる。また、グロービスさんのグローバルネットワーク、講師陣のスキル、自社ケースを作成する時や海外でのプログラムでも積極的にサポートいただけるのは非常に助かっています。
オーケストラのように組み合わせるだけではなくて、ジャズのように、世の中の変化に合わせて柔軟に変えていく。これは、これからの研修に求められるところで、グロービスさんは、そういう意味では、我々として非常に欠かせないパートナーということになっています。
最後になりますが、丸紅アカデミアは単純な人材育成研修ではありません。学んで終わるものではなくて、あくまでプログラム終了後にメンバーが行動を起こす、変革を牽引する。それこそが丸紅の成長の源泉になると思っていますし、毎年25人しか受け入れられないですが、選ばれたメンバーが開眼するように非常に濃度が濃いプログラムになっています。これを毎年、毎年続けていくことによって、2年続ければ50人、4年続ければ100人、10年続ければ250人といった形で、アカデミアファミリーがどんどん増えていくことこそが非常に強みになってくると思いますし、メンバーが周囲4人に話せば影響される人が1,000人になるとか、そういった形でどんどん広げていくことによって変革を加速させる、それによってグループ全体の成長を促していきたい、こういったふうに考えております。
特にコロナの時代においては、これからはスピードと適応力、これが非常に大事になってくると思います。今まで自分たちの中に目を向けていたところも、どんどん外に向ける。そういったことを意識させながら、このアカデミアを続けていくことによって変革を推進できればと思っております。以上になります。ありがとうございました。(後編に続く)
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