マイノリティ出資、関係会社化、買収、アクセラレータ、VC出資…それぞれの「オープンイノベーション」の手法

本記事は、G1経営者会議2019「オープンイノベーション~大企業とスタートアップのアライアンス戦略~」の内容を書き起こしたものです。(全2回 前編)

今野穣氏(以下、敬称略):会場の皆さまの会社で、「オープンイノベーション的なことに今取り組んでいる」という方はどれほどいらっしゃいますか?ほぼ全員ですね。では、その取り組みに満足しているという方はどうでしょう。(ほとんど挙手無し)なるほど。これが本セッションをやる理由だと思いますが(会場笑)、今日は私が尊敬する4名さまにお越しいただきました。では、さっそく浅田さんから順に自社の取り組みをご紹介いただけますか?

「build、buy、invest」この3つが成長レバー

浅田慎二氏(以下、敬称略):今日はよろしくお願いします。まずセールスフォース・ドットコム(以下、セールスフォース)における成長戦略の全体像からご説明させてください。当社はソフトウェアメーカーとして、build、buy、investの3つが成長レバーだと考えています。buildはソフトウェアをアップグレードしながらつくって売ること。buyは買収、investはパートナーシップを組むという意味になります。この3つのレバーで今は売上1.6兆円、時価総額13兆円ほどの会社に成長し、日々サブスクリプションビジネスを伸ばしています。

このうち私が属しているのはbuyとinvestのところですね。また、investにはいろいろな方法がありますけれども、僕らは基本的にセールスフォースのプロダクトとつないでいただいて、当社のプロダクトをお客さまに届けるための投資を行っています。投資先は、Sansan、freee、ビズリーチ、ヤプリ等々。グロービスさんと共同投資している会社も数多くあります。ある意味ではセールフォースとのパッケージプロダクトにして、お客さまに届ける手法として投資しているというのが全体像です。

オフィスにコワーキングスペース「Tunnel Tokyo」を作り、スタートアップに入ってもらっている

里見治紀氏(以下、敬称略):よろしくお願いします。オープンイノベーションに関して弊社は過去10年ほど、VCファンドに投資をしまくっていました。その結果、今は世界で27のVCファンドに投資をしていて、そのなかでいろいろな会社を紹介してもらい、パートナーシップの価値があると判断したところに本体からお金を入れています。そうして直接投資をしたりジョイントベンチャー(以下、JV)をつくったりしたところはおよそ55社になりました。そのうち6社は上場やM&Aでイグジットして、15社は我々のグループに取り込んでいます。

また、昨年はグループのオフィスを1箇所に集約したのですが、そのなかにTunnel Tokyoというコワーキングスペースも作り、エッジの効いたスタートアップに入ってもらっています。シリコンバレーに本拠地を置くペガサス・テック・ベンチャーズというVCファンドの日本オフィスにも入ってもらったり、個人の方にも入ってもらったり。一番のポイントは弊社の社員食堂が使える点ですね。それで弊社社員と自由に話をしていただき、オープンイノベーションや化学反応を起こそう、と。オープンイノベーションの取り組みではこれが一番の目玉です。Tunnel Tokyoにはイベントスペースもあります。とにかく積極的に外部の方と社員を会わせる、あるいは外部の人に社内へどんどん入ってきてもらうということをしています。

∞ Laboに行けば、全業種にわたって上場企業から支援が得られる

中馬和彦氏(以下、敬称略):KDDIの中馬です。私たちKDDIは2011年、KDDI ∞ Labo(以下、∞ Labo)という、アクセラレーターと呼ばれるベンチャー支援プログラムを、日本の事業会社として初めてスタートさせました。当時はオープンイノベーションという言葉もなかったと思いますが、それがきっかけになり、翌年にはCVCであるKDDI Open Innovation Fundを立ち上げています。遡ってみると、私たちはベンチャー企業だった頃のGoogleさんとJVをつくったりするようなパートナーシップをずっとやってきました。その系譜のなかで、気が付けばスタートアップ支援になり、現在のオープンイノベーションになっているのかなと。

∞ Laboはスタートから定期的にアップデートを続けて、最近では「KDDI」の冠をほぼ外しました。現在のオープンイノベーションは通信会社単体で支援できるレベルのものではないためです。たとえば物流のスタートアップをKDDIでは支援できません。ですから、そこで適切な支援ができるよう、今は44社の一部上場企業さんにパートナーとして入っていただいています。そうして、オールジャパンでスタートアップを支援するプログラムに衣替えをしています。今は∞ Laboにさえ行けば、とりあえず全業種にわたって上場企業から支援が得られるというプログラムになりました。

一方、ファンドのほうは2年ほど前から子会社を巻き込んだプログラムをはじめました。たとえばM&Aを行ったソラコムのようなスタートアップ。彼らはIoTのスペシャリストです。ですから、私たちがソーシングするのでなく、ソラコム自体が仲間となるスタートアップを探し、そこに我々のファンドが投資をするというエコシステムにしました。グループ会社がさらに孫会社を見つけてきて、それでエコシステムをどんどん大きくなるといった活動です。

サブスクとシェアリングで憧れの車に乗れるマイカーライフの実現を目指す

中村愼一氏(以下、敬称略):皆さんこんにちは。私は新卒以来ずっとパナソニックに在籍していまして、新規事業としてプロバイダのhi-hoや会員サイト「CLUB Panasonic」をつくったりしてきました。そして、2年前に新規事業担当ということで当社に入っています。入社時、社長には利益で100億円の事業をつくるように言われていまして、現在は新しいビジネスを7つほど立ち上げています。

特に注力しているのはモビリティですね。自動運転を見越したモビリティの世界をつくりたいということで、DeNAさんとC2CカーシェアのAnycaという合弁会社でつくりました。DeNAさんとはサブスクのマイカーリース会社もつくっています。また、最近は駐車場シェアリングを行うakippaという会社さんにも33.4%を入れてグループに入っていただきました。目的は共通しています。サブスクとシェアリングによって、誰もが憧れの車に乗れるようなマイカーライフを送っていただきたいと考えています。

具体的にご説明しますと、たとえば今人気があるトヨタのアルファードは7年リース、月々6万円で乗れます。一方、Anycaには「新宿に住んでいるならアルファードを月4回貸せば4万円の収入になる」といったデータがあります。また、Anycaで貸しているあいだは自宅の駐車場が空くので、そこをakippaで貸すとさらに1万円の収入になる、と。そうすると、差し引き1万円で新車のアルファードに乗れる。そんな世界を目指しています。

皆さん、「それはあり得ないでしょ」と感じると思いますが(笑)、実はそれを確約することも考えています。さらには、サブスクとシェアに加えて「サブリース」という概念を入れて、「月4回貸してくれたらAnycaがユーザーに月4万円を補填・保証します」と。賃貸アパートで30年間保証といったビジネスモデルがありますよね。あれの車版をやりたいと思っています。こういったことを通して、もし車の買い方がすべて変わってくると、当然ながら自動車保険もすべて私どものほうに入ってきます。ということで、今は保険大手3社で1/3ずつという現在のシェアも変わる可能性があるわけですね。

こうしたアライアンスを組むには、お金でなく企業の強みが一番重要になると考えています。ではSOMPOの強みは何か。私も入って驚いたのですが、まず保険から取ることのできるビッグデータがすごい。もう1つは、お客さんへのアプローチ方法が3種類あるという点です。そうした強みを掛け合わせて事業をつくっていくことになります。

たとえば、Anycaには「新宿で4回貸すと4万円になる」というデータがある一方、SOMPOは新宿区でアルファードに乗っている人の1/3が分かります。そうした人々に、5万店20万人におよぶ代理店経由でピンポイントにレコメンドを行えば、Anycaのオーナーが増えます。また、当社では年間数百万人が高齢等の理由で契約を解除しているのですが、その方々に「車を手放したら自宅の駐車場が空きますよね。そこで駐車場シェアをするとお金が入りますよ?」と勧めるわけです。これ、代理店は保険の契約がなくなってガッカリしているところに収入が入りますし、ユーザーはなんといってもお小遣いが欲しいところにチャリンチャリンと入ってくる。もちろん代理店にとってはユーザーとの新しい接点にもなります。

そのほかにも当社は現在、One ConcernというAIベンチャーと組んで防災・減災の仕組みをつくったり、「LINEほけん」とか、少額短期保険のMysuranceという会社とか、あるいは、すべてのCRMを司る「SOMPO Park」というものもやったりしています。

今野:聞いていただいた通り、オープンイノベーションの概念は極めて広いわけですね。そこで、マイノリティ出資、関係会社化、買収、アクセラ、VC出資といったさまざまな手法のなかで、皆さまが現在注力する手法に至った理由や背景も伺いたいと思います。

浅田:セールスフォースではCVCがすごく整理されていて、「自社のコアを強化するためのパートナーシップ投資」という軸を持っています。自社のコアが弱体・飽和しはじめているから投資をはじめて、うまみのありそうな事業を見つけ、そこに転じるという発想は一切ありません。もともと自社のコア強化が目的なので、コアプロダクトは開発し続けるわけですね。

ただ、特に法人ビジネスではユニークなローカルルールがいろいろありますよね。日本では名刺交換をしますが、アメリカでは名刺が手裏剣のように投げられてミーティング後もそのままだったり(会場笑)。そこで名刺管理の話をしても、「なぜ必要なんだ?」となります。そうしたローカルの商習慣があるなかでグローバルプロダクトだけで売っていこうとするのは無理がある、と。ですから、ローカルパートナーと資本業務提携をして、ソリューションセットにしてお客さまに届けるという軸がCVCの根幹にあります。

今野:CVC出資と買収にはどんな境目を設けているんですか?

CVC出資か買収かは‘build or buy’ミーティングで決める

浅田:ディールソーシングでの時点からやり方がまったく違います。僕らはパートナーシップですが、M&Aチームには3つのクライテリアがあるんですね。1つは300億円以上の新しいクラウドプロダクトを買うこと。2つ目は、自社プロダクトの売上成長速度や受注率を高めるという補完的な買収ですね。で、3つ目が‘Acqui-Hire’。買収によるAI人材の獲得です。オーガーニックな採用ではなかなか増やせないので。この3つのクライテリアに合わせたディールのパイプラインを持っています。

そのうえで、決めるときはどうするかというと、当社は毎月‘build or buy’というミーティングを行っています。まず、buildということで、どんなロードマップでプロダクトをつくっていくかという話をしますが、その速度が遅過ぎるときって、ありますよね。ですから、たとえば競合のアドビさんやマイクロソフトさんが新しいプロダクトをリリースしたとき、時間を短縮するためには開発速度を上げるか買うかしかない、と。それを‘build or buy’の会議で、たとえば「buyについてはこういう案件があります」と、ディールチームが綿密にシェアしていきます。

里見:私たちは16年前にCVCファンドをつくっていました。それが大失敗したので今のモデルになったのですが、失敗した理由は明確に2つあると考えています。1つは、まさに浅田さんがおっしゃるようなクライテリアがしっかりしていなかったこと。それで、我々の事業にとって何かしら良いものに投資しようという話なのに、「事業会社の領域には投資するな」なんていう訳の分からないディレクションがあって。「ゲーム開発会社ならセガが買うなり投資なりすればいい。CVCにしなくていいじゃないか」なんて言う一方で、「何かゲームに関連するものに投資しよう」と。そんなざっくりした話になっていて、投資する案件があまりなかったというのが1つあります。

それともう1つ。やはりお金には色があると思うんですね。同じ1億円でもKDDIさんと我々では色が違うし、VCでも独立系と銀行・証券系では違う。でも、うちはその色を出しきれませんでした。スタートアップさんはストラテジックパートナーとして「セガやサミーで何か仕事をくれるんじゃないか?」と期待して我々のところへ来てくれます。でも、あまりにも独立したCVCをつくり、丸の内にオフィスを置いてプロの投資家ばかり集めたから、そうしたスタートアップを社内につなぐことができなかった。社内の人も知らなかったんです。社内人脈のないメンバーでやり過ぎてしまっていたので。だから、お金以外の面でスタートアップさんの期待に応えられなかったということもあります。

だから今はやり方を変えています。まず我々がVCさんに投資したうえで、プロのベンチャーキャピタリストさんから我々に興味がありそうな会社を紹介してもらう形にしました。それで投資をしたり事業をしたりして、うまくいったケースが今はかなり出てきています。

中馬:我々は、かつてはいろいろな自社サービスを展開しておりましたが、残念ながら爆発的に流行ったことがないんです。結局、ガラケーのときもスマホの今もそうなんですが、トレンドは必ず僕らの想像を超えたところからやって来るんですね。それに対して如何に早くその予兆をつかみフォローできるかが実質的には流行り廃りを分ける。ですから、ある段階からは、割り切って「世の中を変えるようなパワーのあるコンテンツやサービスを応援しよう」と。それによって、僕らのプラットフォームや売り場が常に賑わう状態にするというエコシステム志向で取り組んでおります。自分たちの選球眼をあえて持たないのが選球眼というか、すごくニュートラルなポジションを心掛けています。

もちろん、僕らにもいくつかのクライテリアがあります。まずKDDIが支援することでさらに伸びるということ、世の中でデジタル化が進めば最終的には通信が必要になりますし、AIも必要になりますので、その結果として僕らのフィールドが広がるという考え方をしているんですね。ですから、そうなる領域を優先的に応援しますし、その結果として僕らの経済圏に入ったほうがよければ、そこでM&Aする場合もあります。これまでのM&A案件は十数件になり、ファンドでは年に20数件の投資をしています。とにかく、いろいろな可能性に、「自分たちが分からないものには張ってみる」という考え方をしています。

中村:当社もデジタル戦略部というところでCVCを持っていて、そこで少額投資を行っていますが、私の部署はあくまでビジネスをする部署。100億の利益を目指し、CVC的な少額投資はまったくやらないというのがポリシーです。なぜか。2030~2040年と言われていますが、ソフトバンクの孫さんもおっしゃる通り、自動運転の時代になると事故は起きないんですね。そうすると、うちは半分以上が自動車保険で成り立っている事業形態ですから、ビジネスモデルが崩壊します。事故時に対応を行う部門には1万人もいますが、彼らもすべて配置転換しなければいけない。ですから、体力があるうちに保険と介護に次ぐ第3の、中期計画に乗るようなビジネスをつくるというのが自前でやる背景です。

今野:一方で、皆さんはオープンイノベーションの成果をどのように測っていますか?

里見:投資マネジメント部という部門を置いて、投資の評価として数字はきちんと見ています。ただ、イグジットしてもビジネスは残っていたりするわけですね。ビジネスの契約を切るわけではないので。それで、先日も投資をしていた会社が上場したということですべて売ったのですが、その後も彼は会いに来ていて、引き続き「ビジネスのディールはこういう風にやっていきましょう」という話になっています。

今野:事業に対する貢献の評価はどうでしょう。あまりシビアにはしていない?

里見:それほどしていないです。逆に言うと、既存の人たちは既存ビジネスで忙しいので、投資のプロがいるチームでそれ以外の部分をどんどんやっていく形に今はしています。そこを既存事業と同じ基準で、売上や営業利益の目標まで定め過ぎてしまうと、そちらが目的になってしまうので。なので、投資マネジメント部の最大の目的はリターンではないという矛盾は生まれていますが、投資で受けるリターン以上のものを僕らは期待しているんですね。これはトップが言わなければいけない。普通、CVCをつくると社内ベンチャーキャピタリストは「リターンを上げなければクビ」となりますが、うちはリターン以上に「オープンイノベーションで社内に案件をどんどん持ってこい」という部分にプライオリティを置いています。

中馬我々も里見さんのところに近いかもしれません。うちは0を1にする部隊と、1を10に、10を100にする部隊で完全にKPIが分かれています。0→1部隊のKPIは、基本的には数ですね。投資や協業の数、それとマーケティング的には新しいことをやっているパーセプションが重要になるので、ブランディングに寄与したようなプロジェクトを立ち上げた数です。ここは徹底して数だけを見ていて、あえて質は問いません。一方、1段進んで新規事業等の売り上げを見るようなところでは質としての利益を見ます。そして、auのような、ど真ん中の事業になると、売上や利益とも違う顧客満足度やCS的なKPIも入ってきます。そんな風にすべてを分けたうえで、0→1を担当するものは、とにかくパイプラインを増やすことを重要視しています。

中村うちは合弁会社でも事業をやっていますから、売上や利益といった分かりやすいKPIになります。ただ、それともう1つ、将来の種をどれほど撒けるかという話もすごく重要視しています。たとえばAnycaなら0円マイカーや、スマートキーを使って無人で受け渡しをするキーレスエントリー。そういうものを、どれだけ多く、どれほど早くできるか。そうした将来の種の経過を評価しながら進捗を測ります。

今野:そこでパートナー企業とのシェアはどうなるんですか?

中村:出資比率に応じます。DeNAさんとの会社のうち、1つは当社49でDeNAさん51なので、うちが総利益の49%。akippaさんとは33.4%なので33.4%をもらうモデルです。

浅田:当社もかなり分かれています。投資チームはグローバルで300社前後のポートフォリオを持っていますが、そこで見ているのは年間の新規投資件数やIRR(内部収益率)ですね。なぜIRRかというと、セールスフォースのエコシステムに優良なパートナーを入れたいから。優良なスタートアップの定義はいくつかあると思いますが、とにかく伸びそうな会社に出資してエコシステムに入れていかなければいけない。それでキャピタリスト出身のメンバーが件数とIRRを見ていきます。

一方、シナジーというのはすごくファジーじゃないですか。そこについてはキャピタリストがオーナーシップを執るのでなくアライアンスチームが見ます。アライアンスチームが投資先のプロダクトを再販するんですね。そこはキックバックをもらう契約で年間何億といった明確な売上ノルマもあります。フロント側の営業の人たちは、はっきり言えば自社プロダクトしか売りたくないわけです。そこにシナジーを、しかもキャピタリストがねじ込もうとすると、「お前なんやねん」となるので(笑)、そこはアライアンスチームが鍵になると思っています。

社内でカニバった時はどうディレクションするのか

今野:体制のお話も伺いたいと思います。オープンイノベーションというと、「実際にはエースが当たっていない」「『本体とのシナジーを』と言いつつ、本体が動いていない」なんて話を聞くこともありますが、社内体制上で何か工夫している点はありますか?

中馬:よく「カニバリゼーションが起きてしまう」と皆さんおっしゃいますが、僕らはその発想がありません。むしろ“カニバラし”ます。いろいろなものが競い合うことで活力が生まれるという考え方なので。あと、私は今新規事業部隊を率いていますが、ベンチャー投資もあくまで手段。目的は新しい事業をつくることなんですね。なので、たとえば名古屋グランパスエイトさんとの業務提携も、渋谷区とともに立ち上げた「バーチャル渋谷」というプロジェクトも、私がやっています。つまり、市区町村とも一部上場企業ともやる、と。ですから、オープンイノベーションの投資をして事業部と連携するという形ではなく、すべて単独で自己完結できる構造をチームとして持っています。事業部がやりたいと言えば連携もしますが。

今野:カニバったときの仲裁というか、ディレクションはどうなるんですか?

中馬:我々0→1部隊は、もともと新規事業部門にいたんですが、2年ほど前に社長直轄の経営戦略本部となりました。一般的に経営戦略本部というと権限的にも仲裁が多いと思いますが、僕らはどちらかというと独立性が高いです。それで、事業部には「興味ある?興味ないことを確認したうえでやるからね」と言って進めています。

今野:現社長の高橋誠さんはKDDIが携帯キャリアだった時代からコンテンツレイヤーの方だったんですよね。ある意味、当時はノンコアだった方が今社長になっているから、かなり強いリーダーシップなんじゃないですか?

中馬:なので、今僕が経営戦略本部でやっているのは、auのような既存事業も含めて、すべての部門に「新規事業を興す」というメソッドを入れていくということになります。それで、今は各事業部における企画系の人間も全員僕のところで兼務させているんですね。そのうえで、基本的には何の指示もせず、ただただ僕らがやっていることを見せます。僕らが見聞きするすべての情報がそこに集まるので、それを見せて事業部に取りに来させるという考え方で、基本的には僕らが先に推進します。その点では、かなり特殊な組織だと思いますね。

中村:私の部門も損保ジャパンの西澤社長直轄です。それで、「保険会社は現状のままではいかん。どんどん新規事業をやらなければいけない」と、非常に強いトップダウンになっています。当然、SOMPOホールディングスの櫻田CEOにも同様に、「保険の先にいかなければ」と、かなり強く言っていただいています。だからすごくやりやすいですね。

今野:浅田さんにはM&Aの部分を少し伺いたいと思います。

浅田:M&Aに関して面白いのが20人ほどのPMI(Post Merger Integration)チームがある点です。ここはEQ(Emotional Intelligence Quotient)の高い方が多いチーム(笑)。“いい人”が大勢います。このチームのミッションは1つだけ。買収した会社で鍵になる従業員のリテンションです。CxOも含め、買収初年度は90%になるべく残ってもらいます。2年目は80%、3年目は70%ぐらいですね。業界平均はもっと低くて、いきなり半分になったりします。一応パッケージ等も渡しますし、その辺の条件は同じなんですが、とにかくリテンションしないと下手したらPMI担当がクビになるという。

今野:重要なポイントですよね。売ったら辞めちゃう起業家もいるじゃないですか。そこでリテンションを守る人がいる、と。どんな仕事をするんですか?

浅田:権限を与えられています。たとえばコーポレートカラーが赤の会社を買った場合、セールスフォースは青なんですが、いきなり青にしたら辞めたりするような空気もあるじゃないですか。だから、その場合はコーポレートカラーも維持。そういうことをチームの責任者として進言します。外資だと偉い人は角のガラス張りの部屋に入りたかったりするので、「どうぞどうぞ」と(会場笑)。安いものじゃないですか。不動産価格は同じなんだから(笑)。でも、それで会社のキーマンが辞めたらほかの方も一気に辞めてしまったりするので。そういうリテンションがすべてです。

あと、リテンションの前提になる情報はエンゲージメントですよね。士気が高いか否かとか。その辺についても、入社前に「買収のリリースが出たときはどう思いましたか?」とか、入社後1週間で「どうですか?」とか聞いてみたりします。当然、匿名で聞かないと誰も本当のことを言わないので匿名が前提ですが、それで心拍数のように「今はやばい。危機が来ている」というのも先行データで見えたりします。では、そこで何をするべきなのかということで、またリテンションチームが動いたりする、と。

今野:中馬さんのところも結構買収していますよね。

中馬:一緒ですね。僕らも最初の頃はかなり辞められていました。当たり前ですよね。通信会社とスタートアップの人たちでは価値観が合わないので。ですから、今はほとんど中に入れない方針にしています。先ほどソラコムが探してくるというお話をしましたが、今、KDDIグループにはSupershipというデジタルマーケティングの会社もあります。今はそちらにデジタルマーケティングの機能をカーブアウトして、そこにどんどんスタートアップをくっつけている状態です。そちらでM&Aをした企業が今は6社ぐらい一緒になっています。そのうえで文化もそっくりそのまま温存する。で、フィナンシャルだけはKDDIと連結しなければいけないので、CFOだけ送り込むという風に割り切っています。皆さんの企業文化を上に置いて、僕らが下から一生懸命支援するという構造ですね。

今野:買収した会社が外にたくさんある感じなんですか?

中馬:我々はそれをハイブリッドスタートアップと呼んでいます。合体させて機能ごとに集約している感じです。デジタルマーケティングを行う1つのホールディングスに入れて。IoTであればソラコムを統括会社にして、その下にどんどん入れていく。で、玉川(憲氏:株式会社ソラコム 代表取締役社長)さんがベンチャー企業の遺伝子で配下をマネージする、と。もともとリファラルで入ってきた会社が多いので。それでM&Aもうまくいくようになってきた気がします。(後編に続く)

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