「ハートドリブン」の本質はthinkとfeel!塩田元規CEOが語るアカツキ上場までの軌跡

本記事は、G-STARTUPセミナー「プロダクトの本質的な価値とそれを高め続ける組織の在り方」の内容を書き起こしたものです。(全2回 後編)

今野穣氏(以下、敬称略):ゲーム事業をはじめたときは最初から順調だったんですか?

塩田元規氏(以下、敬称略)最初の3年間はたいしたことのない感じでした。なんとかキャッシュはギリギリ回る状態という。先ほどの導入期や成長期といったお話と絡めると、モバイルのブラウザゲーム市場に関して私たちは乗り遅れました。ただ、その状態でも組織をしっかりつくり続け、耐えてきた能力が、次の波であるスマホネイティブが来たときにハマった。そこで他の会社より早く、かつ大きなリスクを取りました。

今野:ブラウザからアプリへの転換をミスった会社は結構多いと思いますが、ブラウザゲームのケイパビリティはアプリへ移せるものなんですか?

塩田:ブラウザからスマホネイティブに移せるのは運用能力だけです。ネイティブアプリの、いわゆるクライアント側をつくる機能は我々にありませんでした。ただ、私が会社経営について他の社長の方々より「上手くやれているかな」と思えるのは、どうあっても負けない座組みをつくること。たとえばネイティブシフトには投資が必要です。アプリをゼロからつくるので。でも、僕も含めて起業家の多くは自己確信が結構強く、自分が優秀だと思っています。それ自体は悪いことではないのですが、行き過ぎると物事を楽観的に捉えすぎてしまうリスクになります。不確実なことに対する評価が低くなり過ぎてしまうんですよね。環境因子についてもそうです。「自分ならできる」という万能感や全能感があるので。でも、たとえばビル・ゲイツは“建設的パラノイア”と言われるほどネガティブなことをきちんと分かっていた。

私もネイティブへのシフトにあたって、「冷静に考えるとアプリはやったことがないな。ブラウザとアプリの運用は近いような気がするけど、本当に近いかどうかはまだ分からない。それに、キャッシュもめちゃくちゃ潤沢というわけじゃない」と考えていたんです。不確実さの段数が多いので。1段なら張ってもいいけど、段数が多いから分からない。そこで、当時は1つの戦略として外部パートナーと組みました。

最後の決め手はトップの交渉力

今野:外部パートナーが、いわばポッと出の、まだアプリを当てていなかった会社と組むようになった理由はなんだったんでしょうか。

塩田:1つは徹底的に丁寧な交渉をしていくことです。

今野:どんなところなんですか?

塩田:結局、ジョブスも交渉力じゃないですか。ローレンス・レビーの著書に書かれていたジョブスの話を読んで、「交渉の仕方が私とそっくりだな」と思ったことがあります。自分たちの会社がいかに素晴らしいかを伝えるのはもちろん、組織の構造的な状況を含めて相手企業が何を求めているのか、あるいは目の前にいる担当者が何を求めているかを理解することが交渉では大事になります。単に「一緒にやってください」と話すのではなく、それをやることによって、その企業や、最終的な意思決定者にどんなメリットがあるのかをきちんと説明しました。

あと、当時の私たちにアプリの開発経験はありませんでしたが、ブラウザのほうは運用できていました。逆に言えば、当時、そうした会社はアプリにあまり積極的でないケースが多かったんです。でも、私たちはそこで早くからリスクを取っていた。ですから、その意味で「いいパートナーになります」と。逆に「私たちを育ててください」くらいの感じですね。「そうすれば長期的にメリットがあります」という風に、いくつかロジックがありました。

今野:すごかったですよね。当時、「ベンチャーがこれほどやるのか」というしっかりした交渉で、実際にクロージングしていました。で、もしかしたら皆さんは、ゲームというのは当たったらすごく儲かるから、「儲かりやすい産業じゃん」と思っているかもしれません。

ここでファイナンスの話に進みますが、実はアカツキは1回しかファイナンスしていないんです。しかも、そのときはすでに月商が5億ほどあって、利益も潤沢に出ていた。ただ、TVCMを打つほどのキャッシュフローではないということで、初めてファイナンスしたんです。それまでは1回もしていなかった。ファイナンスに対する経営者としての考え方はいかがでしょうか。

塩田:当時と今では感覚も少し違ってきていますが、これも経営者が何を主に置くかによって決まると思っています。いずれにしても、いろいろと正解はあると思うので、皆さんは私の話にも振り回されないでくださいね。自分で一貫性を持って考えない人は成功すると思えないので、自分で考えていただきたいと思っています。

そのうえで私の考え方をお話しすると、アカツキをゲーム開発だけの会社にするつもりがありませんでした。また、私はどちらかというと組織というものに興味があるので、自分が死んでも一人一人がワクワクしながら継続的に働ける会社にしたいと考えています。「このプロジェクトだけをやる」という会社なら、初期の段階からそのプロジェクトでお金を集めてイグジットするというオプションもあると思うんです。でも、アカツキは事業内容も変わる可能性があるし、組織のほうが圧倒的に重要ということで、超ロングタームで経営するという考え方をしています。

だから、ファイナンスを最初からやることに対して怖さがあった。当然、株主は事業に対して投資をするわけだから事業単位でリターンを出す必要があります。でも、アカツキはの事業が変わるかもしれない。「ただ、哲学は変わりません」と。まだ駆け出しのアカツキがこんなことを言っても理解してくれる株主は少ないかもしれない、と当時は思っていたので、可能な限り借り入れにしていたということがあります。

当時は私たちの経営スタイルが理解されにくいだろうと思っていたこともあって、そういう風にしました。一方で、今は自分たちが考えていることを応援してくれるような人たちも以前より増えたような気がしています。基本、投資家は応援団じゃないですか。オプションもあると思うし、事業にコミットしているのか、組織にコミットしているのかという意味でも、「自分にとっての成功は何か」という定義をどれほどクリアに持てるかが大事なのかなと思います。それがブレはじめると、全体がブレてしまう。意思決定のときは、そういうことを大切にしていました。

今野:スタートアップのVCの選び方について、何かアドバイスがあればお願いします。

絶対嫌いにならない人にしか投資をしない

塩田:これは結構センシティブな話だと思っています。私としてはシリーズAくらいまでが一番調達しやすいと思っています。10億未満ぐらいまではバリュエーションもすぐ上がる。ただ、その辺りで壁が何段階かあって、その壁を越えるときは投資側もしっかりといろいろな視点で見てくると思っています。最初の頃の「いいチームだよね」といった話ではなく、「サービスが本当にスケールする可能性があるのか」ですとか。ですから、いくつかの谷があるということを含めた資本政策を、自分たちのなかで意識してもらったほうがいいと考えています。

特に、うまくいかなかったときにどうするかを前提として持っておいたほうがいい。投資家にもいろいろな方がいると思います。アカツキも自分たちで投資をしていますが、私たちは基本的には「投資した側、自分たちの責任でしょ」という感じで考えます。投資先の会社がうまくいかなくなったとき、「こうしろ」「ああしろ」と、お金を出しているからといって偉そうにする人が私は苦手で。むしろ、今後はどう考えてもお金のほうがたくさんあって、いい起業家の方が少ない構造になるというか、パワーバランスが変わってくると思っています。

そういう状況で、上からの「どうするんだ」といったプレッシャーがあまりに強い投資家ではどうなるか。経営者のモチベーションがなくなったら会社は終わりだと思うんです。大事なのは経営者が生き生きと、本気で人生を賭けること。だから、それをサポートしながら、もちろん怒るときは怒ってあげてもいい。ただ、そこに愛はあるのか、と。それがなくなった瞬間、事業者は投資家の奴隷のようになってしまうと思います。そうじゃない、本当に応援団としてコミットしてくれる人、パートナーとしてコメントしてくれる人を選ぶのがいいと思います。

たとえばアカツキの投資基準は、投資先がうまくいかなかったとき、「仕方がないよね」という風に考えられること。うまくいかなかったとしても、それを責めないというか。「お前のせいじゃん」なんて考えたり、嫌いになったりすることが絶対にない人にしか投資をしないというルールにしています。そういう関係性をつくることのできる投資家を選んだほうがいいと思っています。特にシリーズAぐらいまではピボットする可能性もあるので。ピボットのリスクがあると投資家の期待も変わってくると思いますから、その意味では投資家側にも余裕はあったほうがいい。

社員教育でもそうです。10人採用して10人育てようとしている人が一番失敗する。10人いたら「3人育てばいいや」くらいの感覚で育成すると、結果的には7人育つと思います。教育ママほど子育てに失敗するのと同じで、「これしかない」と思っている人は、思いが入り過ぎちゃって、“自分色”に染めたくなってしまう。そうではなくて、投資家側も「まあ、失敗しても仕方がないじゃん。ファンドって、そういうものじゃん」と。もちろん1社1社に全力で向き合う、ベストは尽くします。でもそれに執着しすぎないことが大切。「万が一投資したさきの10社失敗しても2~3社返してくれたらいいし、起業家も僕たちもベストを尽くしたんだからしょうがない。俺たちはこのスタイルを貫こうぜ」と言っている人たちが、格好良くないですか?今野さんは超応援してくれていました。「よくぞここまで」というぐらい。すごいなと思ったのは、今野さんが「上場やめようか」とか、そんな話すらしていて(会場笑)。

上場するかどうか直前まで迷っていた

今野:あとでその話も聞こうと思っていましたが、実は上場、超迷っていたんです。ただし、今のお話で1つ補足すると、とはいえ、この人ほど深く考えて経営会議や取締役会に来ていた人はいなかった。だから言うことがなかったというか。僕の立場では、出来事の良し悪しに対して怒ることはないんです。ある種の怠慢だったり、考えていないということに対しては正したいと考えますが、塩田さんは二重三重のリスクヘッジや対応策を考えたうえで、「これをやりたい」と言ってくる。だから、「これで俺は何を言ったらいいんだ」みたいな。

塩田:たしかに「ベストは尽くしてね」とは思います。ベストというのは、投資家の期待に応えるというのも当然ありますが、「自分が“やりたい”と言ってスタートしたことなんだから、それに対してベストを尽くしてね」と。そういうのがないと、こちらも「じゃあ、やめようか」という話になってしまう。とにかく、上場については小川(智也氏:同社取締役CFO)さん経由で今野さんにいろいろな話をしていて。

今野:小川さんから「塩田が“上場どうしようか悩んでる”って言っているんです」なんて話が来て。

塩田:投資家に対して普通にそんな相談をしていて。でも、今野さんも、それに対して「このやろう」みたいな反応もなくて。「そっかあ。じゃあ、考えようか」って。

今野:「塩田さんがそう言うのなら、相当考えて言っているんだろうなあ」と。そこも聞きたいと思っていました。結果的には上場しましたが、当時はどんなことを考えていたんですか?

塩田:実は当時、上場のタイミングを1度延ばしていたんですね。シンプルに言うと、私たちのほうで組織が育っていなかったためです。上場前は内部規定等々、いろいろ監査が入るじゃないですか。まず、そのときに少し歪みが出てきていました。今まで、なんとなく「これでもいいじゃん」と言っていたことについて、すごく細かくエビデンスを取られたりしはじめて、組織が疲弊していた。そこで疲弊しない組織もあるとは思いますが、私たちのような価値観だと疲弊しました。

疲弊したとしても、やり切ったあと、また継続的に「いけそう」という話であれば上場したほうがいいと思います。でも、上場後に伸ばせなかったら本当に最悪な会社になると思うんですね。投資家に対して何も責任を果たしていない、と。当時の私たちは、最後は頑張って背伸びをしてやっと辿り着きそうという感じだった。だから、「これで上場したあと、圧力がかかって逆回転するのが嫌だな」という風に思ったというのが、まず1つありました。それで半年から1年ほど、上場を延ばしていました。

で、それでもまだ悩んだところがあります。ゲーム事業が伸びてきたなかで、私としては他の事業に手を出す可能性があったからです。ただ、それでコングロマリットになっていくと基本的には株価も下がりやすくなります。分かりにくいから。そして短期的な指標での評価が強くなりやすい。そうしたプレッシャーに自分自身が耐えられなくなったり、不合理な投資ができなくなるのではないかなということも感じていました。一方で、当時は利益も出ていたので、外から調達できる金額がどれくらいなのかといった話とかいろいろあって。

それでも最後に上場を決めたのは、「アカツキの価値観や哲学をブラさないと宣言したうえで上場しよう」と。また、「上場後も、株価はもちろんアンコントローラブルだから私たちには分からないけれども、事業を伸ばすことができる自信があるのなら」と。私たちは、ある種、“ネクスト資本主義”をつくっている感覚があるんです。合理性だけじゃない、「インビジブルなアセットも入れた経営を考えていこう」というメッセージがある。上場企業になればそのメッセージ性も一層高まります。最後はそれで決めました。

「上場」は経営者を成長させる

今野:上場して良かった?

塩田:本当に良かったです。ただ、良かった部分も悪かった部分も両方あると感じているので、皆さんもそこはきちんと考えたほうがいいと思います。良かった部分は、まず資本市場をきちんと味わうことが経営者を成長させる点。いろいろなステークホルダーと自分の経営スタイルについて深く考えるようになります。考えないと上場して終わりの会社になってしまうし、逆に言えば上場が考え続ける機会になります。VCには許してもらっていたことが株主の方々には許されなくなることも当然あります。だから、そこはきちんと説明しなければいけない。また、機関投資家の方々にとって重要な話とは別に、経営者が本当に説明すべきことは何なのか。「売上や利益を説明するのはCFOの仕事でしょ? では、僕が説明することは何か」と。それはビジョン等だと思って私は説明していますが、その辺はまだできていないと感じています。

それともう1つ、資本でレバレッジをかけることのできる幅が広がりました。キャッシュには、会社に入るキャッシュと経営者に入るキャッシュの2つがあって、私はその両方が必要だと考えています。経営者が自分の身を守るために何か意思決定するようになるとどうなるか。「この会社が倒産したら自分は死んでしまう」「ここで利益が減ったら俺の給料が減る」等々、何かに対する恐れから生まれる意思決定は短期的な判断に寄りやすいし、全体の幸せを考えなくなってしまう。自分の取り分のことを考えてしまって。でも、経営者が一定のお金を持つと、その足枷が外れるからポジティブになれます

ただ、1つ問題なのは、お金には魔力があること。自分の「器」以上のお金を持つと、人は狂ってしまうと思っています。だから、お金を手にするときにすごく考えたほうがいい。「お金って何なのか」とか、「自分の器って何なのか」とか。

今野:シリーズAのときも同じことが言えますよね。

塩田:投資を受けるときもむちゃくちゃあると思います。シリーズAのときはバリュエーションがつきやすいから、高めたうえでたくさん調達するという手法を選ぶ人もいると思います。でも、そうした手法に対して私はあまりポジティブではありません。今の自分たちに合った適正な調達とは何かを考えないと、人間は気づかないうち本当におかしくなるので。

「ハートドリブン」の本質はthinkとfeel

今野:では最後に、著書『ハートドリブン 目に見えないものを大切にする力』(幻冬舎)にも書かれていたような思想をまとめていただけたらと思います。“ネクスト資本主義”ですとか、すごく本質的なことが書かれている本ですが、それらも「実はそろばんが裏にあっての話」といったあたりを。

塩田:「ハートドリブン」の本質は自分の内側に問うていくことです。あるいは自分の感情と心を大事にすることですが、それは数字やロジックを見ないといった意味ではまったくありません。thinkとfeelの両方をサイクルとして回すことが大切なのです。それを回すプロセスのなかで人間自身の器も会社組織の器も広がっていく。thinkとfeelのどちらかだけにしないというのが大切です。

ただ、thinkのほうは見えやすいから話がそこに集中しやすい。実際、それは大事です。でも、たとえば会社で1つの事業を進めたときは、「この事業は成功したのか」といったロジック上の分析だけでなく、「この成功は嬉しかったよね」「すごく悲しかったよね」といったfeelも分かち合いたい。そうでないと組織はいつか疲弊すると思っています。thinkだけを続けているとエネルギーが湧いてこなくなるから。ですから、その両輪を統合することが「ハートドリブン」のテーマだと思っています。

だから私は今後、「ハートドリブン」ということで会社の枠を超えて活動していきたいと思っていますが、それは現在の資本市場を否定するという意味ではありません。「それはそれで必要だけど、見えていないものもあるよね」と。お金だけのつながりのなかに、「お金ってなんなの?」「リターンってなんなの?」といった話も含めて感情等のインビジブルなものが入っていく。それによって、結果として一人一人の生き方、あるいは人類が進化していくのではないかなと考えています。著書にはそういう話を、私の起業ストーリーというか、体験記とともに書きました。私がいかにthink側に寄りまくって失敗した話なんかも含めて。どちらも大事なんですが、ときにはfeelへ立ち返ったりして、螺旋階段状に登っていくことができるかどうかという話です。

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