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世界を変える幸せな会社に!アカツキ創業の軌跡を語る〜塩田元規CEO

投稿日:2020/05/07更新日:2020/05/12

本記事は、G-STARTUPセミナー「プロダクトの本質的な価値とそれを高め続ける組織の在り方」の内容を書き起こしたものです。(全2回 前編)

今野穣氏(以下、敬称略):もともと塩田さんはDeNAに新卒で入ったわけですが、当時どんなことを考えていて、なぜ起業に至ったのかというお話から伺いたいと思います。

二十歳で「世界を変える幸せな会社」をつくろうと決意

塩田元規氏(以下、敬称略):会社をつくることは二十歳のときに決めていました。当時、学生団体をつくって、ローカル企業の経営者の方々にインタビューをしていたことがあって。それで20社くらいの経営者の方々にお会いして、経営の神髄みたいなものを伺っていました。そのなかで、「良い会社は目に見えないものや雰囲気を大事にする。そういうものが見えることは大事だし、良い経営者の定義とは見えないものが見えるようになる人間だ」といった話を聞き、むちゃくちゃ幸せそうに経営しているのを見て、すごく感動していました。

それで、私も世界を変えることのできる幸せな企業をつくろうと考えたのが二十歳のときです。それが出発点で、そこからは17年間、37歳の今まで、ひたすら真面目に経営の勉強をしてきました。MBAにも行って、そのあとDeNAに入って2年半が経ち、そうして起業したという流れですね。

今野:共同創業者の香田(哲朗氏:共同創業者 取締役COO)さんはワークスアプリケーションズのインターン仲間だったのですよね。

塩田:インターンシップで私の斜め前に座っていて。で、ああいうところで「起業したい」なんていう話をしていると結構人が集まってくるじゃないですか。私もいろいろ話していたんですが、それで香田君が私に興味を持ってくれて、一緒にビジネスプランをつくったりしていました。

今野:起業しようと決めてから誘ったの? あるいは塩田さんがDeNAにいたときから「いつか一緒に」と。

塩田:そうですね。「ハートドリブン」と言いつつ、私は意外と数字も真面目に見るタイプなので(笑)。「ハートドリブン」には数字も含まれますから。

今野:その辺もあとで聞こうと思っていました。これほどそろばんが細かい人はいません。

塩田:両方大事ですから。で、香田君に関して言うと、私は学生の頃から会う人会う人について、「この人を経営チームに入れるとしたらどんな役割がいいかな」なんて考えたりしていました。それで、香田君も23~24歳の頃書いた手帳に経営陣として入っていたんです。ただ、DeNAを辞めることについては当初悩みました。当時は「面白いことをやりたい」「今までと違うチャレンジがしたい」ということで、よく飲み会などで盛り上がってました。

たとえば本セミナーのように起業家の話を聞けるような場が昔はなかったので、当時の私たちは自分で経営者を探してお誘いしたうえで、その人たちを中心に40~50人、同世代のイケてる人たちを集めて飲み会をしていたんです。創業のときはそのリストに載っていた人に声を掛けて採用したりしていたんですが、そんな風にしてDeNA3年目に入るタイミングで、「そろそろ起業かな」と。あるとき香田君と久々に飲んだら、彼もやる気だったんです。アクセンチュアを辞めるぐらいのタイミングで、「それなら一緒にやろうか」ということでスタートしたという流れになります。

SNSビジネスもスタートするも「なんかワクワクしない」

今野:ちなみに私が初めて塩田さんに会ったのは創業直後です。当時、DeNAの同期にはみんなのウェディング元取締役の中村義之さんという方がいて、彼が「最も優秀で、最も生意気な同期がいる。彼が起業しようとしているから1回会ってくれないか」と言うのでお会いしたんですが、そのときは「ネイルのシェア」みたいなプランでしたよね。

塩田:そうですね。“かわいいインスタ”みたいな。いろいろ考えた結果、「インスタだな」って(笑)。インスタは日本にまだほとんど来ていないフェーズでしたが。

今野:2010年ですから。

塩田: SNSは7年とか10年とか、そのぐらいのサイクルで移り変わると考えていたので。あと、IT業界の人がつくるものというのは、だいたい自分たち向け。で、当時のIT業界はおじさんが多かった(笑)。アプリもおじさんがつくるものが主流だったわけです。だから、どちらというと真面目で、なんというかダサい。一方、どちらかというと女性をターゲットにした領域は当時少なかったのですね。ですから、コンペティターが少ないし、「女子が使えるSNSみたいな領域があるんじゃないか」と考えていました。

今野:SNSの切り替わりに伴って空いたマーケットを攻めようという、割と王道プランだったわけですよね。でも、ダメだった、と。

塩田:究極的には「俺、やりたくないな」と。どういったものであっても、サービスをつくるというのはそれほど簡単ではないわけですよね。それなのに、「女の子の幸せを」と、そこまで強く思っているわけでもなかったというか。もちろん願ってはいましたが、毎日、一日中「女の子が喜べばいいのに」とまで考えていたわけではなかった。自分には体感値がないし、シンプルな話、自分はユーザーではなかったわけです。ただ、それで少しネガティブなことが起きたとき、「それでもやるのか?」という問いが自分のなかで出てきました。逆に言えば、そこまで深く自分の思索に潜ることができた。『ビジョナリー・カンパニー  時代を超える生存の原則』(日経BP社)の話ではないですが、事業選定において大切なポイントは、「オンリーワンやナンバーワンになれること」「自分がパッションを持てること」「経済合理性があること」の3つが揃うことだと思うんです。そのパッション側の話として、「なにかこう、ワクワクしないな」って。

3つの理由でゲーム市場に参入

今野:なぜゲームで起業したんですか?

塩田:今お話しした3つの理由です。経済合理性があり、自分が好きで、かつ少人数で世の中にインパクトを与えることができるということで。当時はそれぐらいのロジックでした。あと、どのタイミングでマーケットに参入するかもすごく重要だった。導入期、成長期の前半と後半、成熟期、衰退期のなかで、私たちが参入するタイミングは、モバイルソーシャルゲームの導入期だったんです。「マーケットが立ち上がるかな」ぐらいの。

私は、そういうときでないと少人数でいきなり伸びるのは難しいと思っています。なぜなら成長期以降は、基本的にはコンペティターとのクオリティ勝負になるから。他社より質の高いものを出さなければいけないという話になりやすいし、パワーも必要です。3人でつくるゲームなんて、ひどいものなんです。バグも出まくるし。ただ、導入期はそれでもユーザーさんがついてきてくれるんですね。そういうフェーズだったというタイミングもあったと思います。ビジネスではタイミングが本当に重要だと思います。

今野:香田さんの次のメンバーはどのように集めたのですか?

塩田:香田君がインターンをしていた会社でメンバーを口説いたりしていました。これも面白いんです。最初のうちは「いいからちょっと手伝って」と口説くのが一番いい。あまり最初からルールを決めたり週5にしたりするのは、基本的にはダメだと思っています。週1でもいいというか、「平日の夜に手伝ってよ」と。人間、触っているうちにだんだん好きになってくるという心理もあるから。それで、まずは手伝ってもらっていた人がいました。ただ、それで彼が「入りたくなってきたかも」みたいな空気になっていたとき、彼が務めていた会社が大手企業に売却という話が出たんです。

そうなると、今までは「今の会社よりアカツキのほうがいいよね。同じベンチャーだし社長とも近いし、楽しい」と説明できたロジックが、大企業という超安定感によって彼の奥さん(当時は彼女)からやや反対をもらうようになります。「どう考えても大企業でしょ。アカツキじゃどうなるかも分からないし」って。それで、私たちの部屋に入社を断りに来るわけです。「嫁に相談したら『大企業だ』と言われて。ごめん」なんて言って。そのうえで、ひたすら話を聞くわけですね。人間って面白いんです。本心では「アカツキのほうがいい」と、アカツキのほうにワクワクしているかもしれないんですが、言語化できない恐れとか、見えていない不安とか、そういうものに巻かれて意思決定がブレる。ですから見えていない不安を言語化してあげることが大切ということで、そのときは「何が不安なのか」ということを彼と一緒にすべて書き出したんです。

すると、まず「給与が払われるかどうかも分からない。だって、お金ないじゃん」という不安があると分かりました。最初の給与は400万円でしたが、それすら払えなかった。当時はベンチャーへの投資も少なかったんです。

それで、とにかく何があっても払うとコミットをしました。ほかにも不安はいくつかあったので、何時間も話をして、それらをすべて解決していきました。それで、「この場で嫁さんに言おう」って。それで奥さんに伝えてもらってコミットして入ってもらいました。

「朝会」でメンバー同士のコミュニケーションを改善

今野:ただ、そんな風にして集めた一方、私の記憶では組織が結構がちゃがちゃした時期もあったと伺っています。当時はどんなことがあって、どんな風に対処していたんですか?

塩田:基本的にはセオリーがあるのでそれほど難しい話ではないのですが、最初の8人くらいまでは社長のコミュニケーションだけで通ると思うんです。ただ、同じ8人でもオフィスで部屋やテーブルが2つに別れた瞬間、コミュニケーションの動線が一気に変わる。そこから少しずつ、社長の目に見えないコミュニケーションがスタートします。それが増えたとき、会社のカルチャー、あるいは全体でコミュニケーションするような場所がないと、気づかないうちに違う人の見方が主流になってきてしまうんです。人数が増えること自体に加えて、場所的な理由も含めてコミュニケーションが見えなくなるという点も重要なポイントだと思っています。

そのタイミングで私たちがやったことは、まずは朝会。朝会で一番効果的なのは「Good & New」というものです。『成功者の告白 5年間の起業ノウハウを3時間で学べる物語』(講談社)という神田昌典さんの著書にも書かれています。クッシュボールというボールを持って、24時間以内にあったGoodなことかNewなことを分かち合うというものです。これの何がいいのか。コミュニケーションが希薄になるのはどんなときかというと、ミーティングでは話すことがあるのですが、それ以外の場所でコミュニケーションが減るんです。つまりビジネス以外の話が減る。会社の話はしても、プライベートな話がだんだんなくなってくる、と。

でも、人間関係においてはビジネスでない部分のほうが、「好きだから仕事をしている」という部分のほうが圧倒的に重要です。「Good & New」では、仕事のGoodやNewもいいんですが、だいたいは「昨日は妻と飯を食いに行って楽しかった」とか、そういうプライベートの話が出てくる。そういう会話が当たり前のように出る組織にすることが大切なんです。

かつ、「Good & New」がいいのは「ポジティブなことを言う」というルール。GoodかNewだから。最初は出てこないんです。仕事も大変だし。ただ、大事なのは、日々当たり前の忙しい仕事のなかの一瞬で、ちょっと良かったことに焦点を当てられるかどうか。めちゃくちゃ忙しいけど、たとえば「今日は社長が笑顔だったのがうれしいです」みたいな。そういう話、あるじゃないですか。そういう方向に脳みそが切り替わると全体がポジティブになります。逆に、あるラインを越えてネガティブになると組織は元に戻すのが大変になるので。

本当に器がある経営者は「人を説得しない」

今野:何か事件が起きたと聞いています。初期のコアメンバーが辞めてしまったとか。

塩田:事件はたくさんありますが、初期のコアメンバーが辞めたのは3年目ぐらい。20~30人ぐらいのときです。スタートアップというのは構造的に、採用力が上がってくるので、あとから入ってくる人のほうが優秀な人、優秀に見える人になりやすい。すると過去のメンバーはどうなるか。頭では分かっているんです。新しい人が自分の上の立場にいきなり入ったりすることにも。でも、頭で理解していても感情がどうしても追いつかないんですね。そこで、経営や組織のこと、あるいは自分の感情の扱い方を私が今ぐらい分かっていれば、彼らともっと真摯にコミュニケーションができた。でも、私がそのとき彼らに言ったのは、「いや、でもそうしないと会社がダメになっちゃうじゃん。俺たちのビジョンはこうなんだから、これを達成するためには仕方がないじゃん」だったんです。

今野:良いことを言っていると思うんですが、それがダメだった、と。

塩田:「人を説得して動かす」というコンテキストは、いつか逆風に触れます。本当に器がある経営者は人を説得しない。動かそうともしません。相手の感情に“つながる”んです。彼らの感情を、痛みも含めて出してあげたうえで、結果として「一緒に向けたらいいよね」というコミュニケーションにする。でも、当時の私はそれができずベンチャー社長っぽいことを言っていました。「俺たちがつくりたい世界のためには、これをやらなきゃ」とか。で、皆もそれを理解はするんですが、結局は止まってしまう。そういうことが1つありました。もう1つは、そもそも新しく採用した人が組織に合っていなかったという点ですね。文化的に。

今野:スキルを基準にして取ってしまったから。

塩田:そうです。これは皆やってしまうと思います。仕方がないですよね。成長の過程で痛みとして必要かもしれません。能力がなく文化的にも合わない人であれば対処は分かりますが、能力と文化適合度をマトリクスのグラフにしたとき、「能力はあるけれども文化的に合わない人間」にどう対処するのか。この判断が一番難しい。ジャック・ウェルチであれば「そういう人間は外すべき」という結論なんですが、当時の私はそれができませんでした。それでどうなったかというと、能力があると思ったのに意外とパフォームせず、その人もモチベーションが下がってしまったという。

で、結局そのときは申し訳ないですが辞めていただきました。辞めていただいたというか、ご本人と「合わないから、どうする?」といった話をするなかで、彼も「そうだったね」となって。でも、既存メンバーからすると、新しく上から入ってきた人が、さらに文化に合わなくて辞めていく最悪の結果になったという。ですから、アドバイスとしては、採用ですべてを見極めるのは難しいと思うので、そうなったときのエグジット方法というか、対処方法を設計しておくことが大事になるのかなと思います。

採用基準で大切なのは「人間性」

今野:少し時間軸が飛んでしまいますが、僕はアカツキさんについてすごく印象に残っていることがあります。たしか上場時は、従業員ほか、なんらかの形で関わっている人が170人ほどいたんですが、そのうち正社員が50~60人だけだった。しかも、新卒を10人ぐらい取っているタイミングだったのに。これ、おそらく今の文脈にも合っていると思うんですが、どのような思想でそうしていたんですか?

塩田:うちは面接がすごく厳しいので。採用基準がものすごく高いんです。

今野:エージェント泣かせでしたね。

塩田:今でもそういうところがあります。今お話しした3年目の失敗もあったので、「もっときちんと見ていこう」と。能力はもちろん、特に見るのはスタンスというか、人間性ですね。「嘘をつかない」「裏切らない」といったことが重要で、そういう部分を見ていったら採用も減っていきました。かつ、正社員に関しても試用期間を6か月ほど付けています。これは初期の頃からですね。それとなぜ6ヶ月なのかっていうことの説明も大切です。「基本的には大丈夫だと思うけど、ただ、アカツキは過去にこういう失敗をしているから」と。試用期間の期間が実際何か月かっていうことそういう文脈や背景の説明が必要なんです。単に「6か月経ったから」という話ではなくて。そのうえで、「本当は一緒にやりたいけど、うまくいかなかったときは互いに不幸だから、こうだよね」といった話をして、かなり絞っていました。

今野:起業をしたら、どの段階から新卒採用をはじめたらいいと思いますか?

塩田:新卒採用はむちゃくちゃ時間がかかるので、シリーズAぐらいの段階でもやったほうがいいと私は思っています。私がもう1度起業するなら、下手したら最初から新卒を採用します。絶対にそのほうがいいと思います。新卒採用で重要なのは、もちろん能力的な話もありますが、いることによって周囲が襟を正すという点です。たとえば中途メンバーの人たちにピュアな質問をするんです。「え、『アカツキはこういう会社』って聞いたから入ったんです。そうなんですよね?」なんて。そうなると、「感情を大事にする」「隣の人を愛す」といったことをアカツキは大事にしているから、セルフィッシュな行動を取っている中途の人がいたら勝手に襟を正します。組織で大事なのは経営者のコントロールより自浄作用を効かせるダイナミズムだから、その意味では新卒が入ることによって活性化すると思います。ただ採用に時間がかかるのと、新卒の見極めも難しいので、最初はインターンから取ったほうが圧倒的にいいと思いますけれども。(後編に続く)

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