ブルーオーシャンを見つけた花王
今年2月26日に発売された花王の「メリットさらさらヘアミルク」の販売が好調だと6月17日付け日経MJの連載記事「ヒットのヒミツ」が伝えていた。出荷数量が当初計画に比べ2割増という。記事が伝えるヒミツの、さらにその奥のヒミツをひも解いてみよう。
記事によると、同商品は、「親子で使えるトリートメント」というコンセプトが女児を持つ母親に受け入れられている、とある。
まず、ターゲットの設定とニーズの拾い方が出色である。普通、子供にトリートメントはしない。トリートメントは大人の女性用というイメージが強く、使用する女児は2割に留まっていたと記事にあるとおりだ。つまり、8割が白地のセグメントが目の前にあるということなのだ。
何というブルーオーシャン。
しかし、裸足で暮らす先住民に靴を売るがごとく、利便性が理解されれば爆発的に売れるだろうが、理解されなければ全く売れないということになる。
そんな女児の頭髪をめぐって潜在ニーズが確実に存在することを花王は突き止めた。
ターゲットは幼稚園や小学校に通う女児であるが、本人がドラッグストアやスーパーで買い求めはしない。購買意志決定者である母親がキモである。
同社は女児を持つ母親にアンケート調査を行い、娘の髪に対して、「くし通りや指通りの悪さ」「絡まる」などの不満があることを抽出した。また、実際に女児の頭髪を調べてみたところ、太さや固さが成人女性の半分程度であることが判明したという。細くて柔らかい女児の髪は、絡まりやすいのだ。
また、女児の髪型を巡る環境の変化も見逃さなかった。記事は、その昔、女児といえばおかっぱアタマが定番だった。現在はセミロングが増え、2010年には5割を超す可能性があると指摘している。
もちろん、キモである母親も使える仕様になっている。親子で使えば使用量は2倍だ。
しかし、親子で使う、細い子供の頭髪にも合ったトリートメントなど、競合他社からも発売することができるので、そんなブルーオーシャンはいつまでも続かない。値引き合戦のレッドオーシャンの戦いにすぐなるのではないか、との考えもあるかもしれない。
筆者は、しばらくはメリットの牙城になると考えている。メリットというブランドが築きあげてきたポジショニングと、支持層であるターゲットがしっかりしているからだ。
「家族のブランド」を活かす
シャンプーから始まったメリットの歴史は古く、1970年の登場だ。筆者が今でも覚えているCMキャラクターは女優田中祐子。「結婚式編」では、花嫁である友人に「フケ・かゆみをおさえてお幸せに」とスピーチする。
ターゲットは若い女性であり、「フケ・かゆみをおさえられる」という極めてストレートなポジショニングを示している。しかし、40年近くが経った今日、フケ・かゆみに悩む若い女性はほとんどいない。メリットのターゲットとポジショニングも大きく変化した。
Wikipediaの「メリット(シャンプー)」の記述が分かりやすい。
保阪尚輝・高岡早紀夫婦(当時)起用以降は、「新・家族シャンプー弱酸性のメリット」とCMで宣伝される。近年は、高級化・個別化が進むヘアケア市場の中で普及品である本製品は、従来からのフケ・かゆみを防ぐ機能に加え、家族や親子での使用シーンを広告などで前面に出して、ブランドの再構築を図っている。
CMキャラクターも、仲村トオル・鷲尾いさ子夫妻、藤井隆・乙葉夫妻と、これでもかの家族シリーズでポジショニングを明確にしている。
ポジショニングを変更することは、失敗すれば、従来の支持層を失う危険性を伴う大きな賭けである。しかし、その賭けに成功し、「家族のブランド」になったメリットだからこそ、今回の「母と娘のトリートメント」が大きな意味を持つのだ。
今まで使ったことのない女児へのトリートメント。「本当に必要なのかしら。効果があるのかしら」と考える母親。しかし、そこは「家族のメリットなら安心ね」と、購入のハードルを引き下げる。ほかのブランドにはない、安心感だ。
さらに、今回の「メリットさらさらヘアミルク」の成功はさらなる可能性を示唆している。「家族」という大きな括りではなく、「母と娘」などのように、家族構成をさらに細分化し、そのつながりに対応した商品シリーズ展開も可能となるだろう。例えば、「父親と息子のためのスッキリするシャンプー」などはどうだろう。
メリットは、過去に挑戦して得たポジショニングを活かして、顧客と市場の変化、ニーズを敏感に捉えた商品を開発、今後の展開の礎まで築いた。
あっぱれ!