カニバリを乗り越え、新規事業を生み出す大企業の組織づくり

前編に続き、2020年2月に行われたセミナー「新事業創出とイノベーションを生み出す組織作り」の内容をお届けします(全2回)

スタートアップとどう協業するか?

大牧:三菱電機さんは、アクセラレーションプログラムを活用して新規事業を生み出そうとされています。スタートアップとの連携では大変なことも多いと思いますが、いかがですか?

髙田:ちょうど半年前、グロービスさん主催のパネルに参加させていただいてスタートアップの方々といろいろ議論をさせていただきましたが、やはりスピード感がまったく違うんですよね。そこに我々がどれだけついていけるかが大事なのだと思います。

新規事業に関してスタートアップの方々と議論しているのは、事業戦略プロジェクトグループのメンバーが8~9人。加えて、社内で「新しい事業を考えていくうえでスタートアップの方々と議論したい方はいませんか?」と参加を募ったら、25名の方に手を挙げていただきました。それで、私から各部長に「参加してもらってもいいですよね?」と、お願いをして、彼らにも議論に参加していただいています。そんな風に社内にも「やりたい」と思ってくれている人がいるというのは大きな励みになります。

活動を進めていくことによってメンバーの意識も大きく変わってきました。「我々はスタートアップとともに、どんな新しいビジネスができるのか」と、本当に突っ込んだ議論をするようになってきました。そこではグロービスさんにも入っていただいて、いろいろ指南していただいた面がありましたし、すごく大きなポイントだったと思います。

大牧:大企業とスタートアップとのコラボでは、共通のゴールやビジョンを描けるようなチームを両者で一緒につくっていくことが鍵になりますね。

髙田:今回のアクセラレーションプログラムでは50社のスタートアップに応募いただきました。そのすべてと組むことはできないので、ときには厳しい判断もしなければいけません。最終的には両者でWin-Winになるような関係をつくりたいと、懸命に議論を進めていきました。これは、当初思っていたよりもはるかに負荷の高い作業でしたね。

実際にはスタートアップの方々に、2週間おきぐらいに3回、名古屋まで来ていただいて半日議論するということを約20社とやらせていただきました。当然、来ていただいて議論する以外にもWeb会議やお電話でさんざんお話をするわけですね。そうした作業の負荷が本当に高くて、去年の半年ぐらいはそれだけで終わったのではないか、というぐらいです。新規事業というのは、ぽっと出てくるようなものではないのだなと痛感しました。

社内外に新規事業にかける“想い”をどう伝えるか?

大牧:価値観の部分で共感できるところとしっかり組んで、ビジネスをつくっていく必要がある、と。そうした“想い”の部分がベースにないと、なかなか新しいものはつくれないということですよね。一方、継続的に新しいビジネスを生み出していくための、仕掛けまたは仕組みづくりについてはどのような取り組みをなさっていますか?

三原:“想い”の部分を経営トップにしっかりお話しして、トップから発信をしてもらうことが大事だと考えています。私は今事業部を離れて経営企画部にいますが、当社の場合は広報が経営企画部のなかに入っていることもあり、経営企画部から社長のメッセージをかなり頻繁に出しています。たとえばDXの取り組みについても、新年の挨拶ですとか、4月1日の挨拶ですとか、ことあるごとに「なぜやらなければいけないのか」ということをトップメッセージとして頻繁に出しています。そうしたことは事業部長会議等でも伝えていきました。

とにかく、危機感を醸成するため、外部環境の変化についてトップから全社的に伝えていきました。外部環境の変化として我々が捉えているのは、技術革新とサステナビリティです。今は経済的価値だけでなく社会的価値の部分を見ている方は多いと思います。通常、我々の業務で購買部門や開発部門の方々とお話をするときはコストや物性の話にしかなりません。でも、今後はそれだけではなくサステナビリティの領域にも入っていくようにさせる。それもトップメッセージとして伝えていることです。

そんな風に、世の中が変わっていることについてトップから全社にメッセージを出して、それを事業部長が咀嚼する一方、経営企画はそれをフォローしていく、と。そうしたPDCAを繰り返していくことで大きく変わってくるのかなと思っています。

大牧:髙田さんはいかがですか?

髙田:私どもは風土醸成を含めてまだまだ道半ばです。ですから、今後は部署内でも社内全体でも、あるいは社外にも、「三菱電機はこんなことをやっています」「名古屋製作所はこんなことをやっています」と発信して、世の中に周知をしてもらい、もっと情報が集まってくるようにしたい。先ほどのアクセラレーションプログラムも、今は自分たちで募集をかけて来ていただいている状態です。スタートアップの方々から売り込みに来ていただけるようにならなくては(笑)。そのためにも、今後も継続的に発信を続けていきたいと考えています。

ROICの考えをうまく使う

大牧:そろそろ会場からご質問を募りたいと思います。

参加者:既存事業とのカニバリを避けるために、社内の情報共有等で工夫していることが何かあれば教えてください。また、新規事業を担うメンバーへの目標の持たせ方や評価方法について気をつけていることがあれば教えてください。

髙田:カニバリについては、いろいろなところから情報を集めるようにはしています。今は社内のあちこちで新規事業を手掛ける部門がつくられていますから、可能なかぎりコミュニケーションを取るように心がけていますね。一緒に飲みに行ったりして、「実はこんなことを考えているんだけどね」なんていう風に、互いに話を共有しながら進めている面があります。ただ、最後は自分たちがいかにスピード感を持って進めていけるのかというお話になると思います。自分たちがやりたければ先にやるしかありませんから(笑)。

あと、人の評価についてはたしかに難しいところはありますし、各社さんの人事評価制度にもよるので一概には言えません。ただ、私自身は今どうかというと、既存ビジネスユニットのような「良いものをつくる」「スケジュール通り確実に進める」といった視点と別の評価基準を持つようにしています(笑)。ですから今はまったく違う物差しで皆を見ています。ただし、これは部下が8人ぐらいしかいないからできることなのかもしれません。今は自分の物差しで「こういう風に評価しよう」と決めて、人事と交渉する形にしています。

三原:カニバリに関して言うと、先ほど「それほど発生していない」と申し上げましたが、DXの事業を進めていくと完全にカニバリが起こると思います。GEでは、既存事業が新規事業の部隊を潰してしまったことでDXが失敗してしまった例があるという風に聞いています。あるいは、DXを進める人に対してモノを供給しないとか、社内で意地悪が起きてしまったりすることがある、と。既存の人たちも自分を守るためにやってしまうんですよね。だからこそトップが大事になる。トップが肚をくくり、「やれ」と言って進めないとうまくいかないのだと考えています。

あと、評価軸についてですが、我々が今後やっていきたいと思っているのは行動に対する評価です。インオーガニックな成長を実現するためにどんな行動を取ったのかという評価をきちんとしなければいけない。営業利益や経常利益といった今までの基準で額を伸ばそうとしていても、なかなか行動に踏み込めませんから。また、ROIC(Return on Invested Capital)を使っていくと効率化のところまで踏み込めると思います。ですから、指標としてはROIC、定性的なところは行動評価という風にしていくと、だいぶ変わってくるのかなと思います。

参加者:どうすればシニア層の意識改革が行えるとお考えでしょうか。

三原:シニア層については、「逃げ切れる」と考えている部長連中を逃げ切れないようにする“サンドイッチ戦略”で、下からも突き上げます。シニア層でもやる人はやるんです。ですから、学びの機会をもっと与えるようにしたらいいと考えています。たとえば、「これ読んで」という感じで毎月2~3冊本を渡したり、「ここに行ってみては?」と講演を勧めてみたり。あるいは、若手がそういうところへ行って話をしはじめると自分も焦って行くようになります。

あと、水は上から下にしか落ちないので、部長さんや課長さんと対話をすること。そこで腹を割って話していくと、動き出す人は動き出します。ただ、どうしようもない人はどうしようもないので、そのときは(厳しい)判断をするしかないのかなと思います。

これはROIC経営で失敗するのと同じだと思うんです。各事業部に一律8%のROICを求めると、だいたい失敗します。そうでなく、それぞれ3%のところを3.5%とか4%にしようというなかで、全体最適で◯%に上げるという風にすればいいわけですね。シニア層についても同じです。一律で「このレベルになってください」と考えると、それはしんどいです。でも、ROIC3%を4%に高めるというレベルでも良いので、少しでも努力して変化したのなら、そこは褒めてあげる。そのうえで、言っても変わらなければ、その人を替えましょう。害にしかならないと思うので。

参加者:トップの方々を動かすためのポイント等があれば教えてください。

三原:トップの動かし方については、難しいですよね。そこで問われるのは、おそらく「誰のための意見なのか」。欲が自分に向いてしまっている人は絶対にうまくいかないと思います。欲が公を向いているというか、私欲のない発言ができるのなら正々堂々と上に話をしていけばいいと思っています。そこでダメなら諦めるしかない(笑)。そこを理解してくれない人が上にいるのなら、どうしようもないですよね。

髙田:当社の場合は所長が非常に意識の高い方なので、今はうまく回っています。そこからさらに上へ持っていくため、今後は自分たちの活動についてPRをしたり説得をしたりすることが大事になる、と。やはり組織が大きいので、研究所を統括しているところと直接話をつけないといけないようなケースも当然出てきます。幸いにして私はかつて研究所にいて、トップを含めて研究所のメンバーのことはよく知っていますので、「それなら交渉もしやすいだろう」ということで直接交渉したりしていますが。

参加者:新規事業の選定にあたって、「会社として向かうべき姿」との親和性や収益性といった要素以外では、どのような話が肝になるのでしょうか。

三原:まず事業アイデアの時点では否定しません。だからアイデアはたくさん出てきます。ただ、それを事業として一気通貫できるコンセプトに落とし込むことが大事になると思うんですね。そこをアイデアだけで走ってしまうと、まったくうまくいかなくなります。隣地戦略を飛び越えてしまって、自分たちの強みも生かされなくなってしまう。ですから、技術や市場等、自分たちの強みをきちんと踏まえつつ、アイデアからコンセプトへ落とし込むステージゲートのところをきっちり見ていく。そうすると、かなり絞り込むことができると思っています。

ただ、それでも結構失敗します。で、多くは自前主義に走り過ぎてしまうからだと思います。ですから、オープンイノベーションについても同じことが言えますが、誰を巻き込んでいくかが大事になると考えています。それで誰かを巻き込んで価値と価値を融合させることができれば、隣地を少し飛び越えてしまっていても大丈夫かもしれません。ただ、あまりにも突拍子がないものはアイデアで終わってしまうと思いますので。

参加者:スタートアップの方々とうまく協業していくうえで、価値観やイメージを共有すること以外に何かコツのようなものはありますか。

髙田:スタートアップの方々との協創に関して言うと、私どもは50社のうちから4社さんを選ぶ過程で、皆さんと顔を合わせて徹底的に議論を重ねていきました。たとえば、その4社のうち1社は、猛暑対策の緑化シェードをパッションフルーツでつくろうというものだったんですね。これ、新聞にも「異彩を放つ~」なんて書かれましたし(笑)、「なぜ三菱電機のFAでそんなものを?」と思われた方もいらっしゃると思います。実際、我々もお話をはじめた頃は、「こちらとは最初にダメになるかもしれない」と、思っていました。

でも、結局は最後まで残りました。議論していくなかで、「この方々となら一緒に何かやれるんじゃないか?」と。それで我々からもいろいろなアイデアを出して、「我々の製品もうまく使って新しいビジネスをつくっていきましょう」といった話をしています。それで、まだ成功に結びついているわけでは必ずしもないのですが、「今の段階で諦めるのは時期尚早だし、もう少し議論したい」ということもあり、最優秀賞に選ばせていただきました。

とにかく、一緒にビジネスをやるというのは5年やそこらで終わる話でもないですし、10年や20年、会社同士で「この人たちと付き合ってやっていけるのかどうか」というのが、最後はすごく大事になるのかなと思っています。単なる技術やビジネルモデルだけでなく、そういうところも見させていただいています。

大牧:最後に、今後のチャレンジに関するお話ですとか、会場の皆さまへのメッセージ等を伺いたいと思います。

髙田:三菱電機名古屋製作所としてプロジェクトをはじめてまだ2年で、まだまだ発展途上です。とにかく1つでも成功事例をつくることで、「三菱電機はこういう活動をしていて、きちんと成果を出しているんだ」ということを世の中にPRしたいです。我々はプロジェクトグループですから、場合によっては2年や3年でなくなる可能性もあります。ただ、常にやり続けること、新しいモノを生み出し続けることが大事だと思いますので、そういう活動につながるような組織にしていくことも考えていきたいです。

三原:我々は今まで、商社として体育会系のようなバリバリの営業マンばかりが活躍し、そうでない人は活躍できないような環境でした。でも、これからデジタルでビジネスをつくっていった先では、語弊があるかもしれませんが、もしかしたら引きこもっていたような方ですとか、発達障害と言われているような方々が社会に出ていく大きなチャンスになるとも思うんです。とにかく多様な人たちが社会に出て活躍できるような場の創出にも、新規事業やデジタルが大きな役割を果たしていくようになるのかなと思っています。

そこで、今いる人たちだけでなく、我々に続く後進の人たち、あるいはそのご家族が、「ここで働いていて本当に良かったな」と思えるような場をつくってあげるのが我々の使命だと思っています。

大牧:短い時間でしたが、新規事業を創ることを目的に、組織をつくり、人を巻き込んで、経営トップの理解を経て、そして仕組み化していく方法について、今日は幅広く議論ができたと思います。ただ、具体化していく段階では各社で状況は異なりますから、引き続き一緒に議論等もさせていただきたいと思っております。皆さま、貴重なお時間、どうもありがとうございました(会場拍手)。

RELATED CONTENTS