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どう新規事業を生み出す組織に変えるか?大企業2社の取り組みに学ぶ

投稿日:2020/04/07更新日:2020/04/21

本記事は、2020年2月に行われたセミナー「新事業創出とイノベーションを生み出す組織作り」の内容を書き起こしたものです。(全2回)

なぜ新規事業が必要なのか?

大牧: 今日のテーマは「新事業創出とイノベーションを生み出す組織作り」ですが、長瀬産業さんも三菱電機さんも新規事業の取り組みをかなり幅広く展開していらっしゃいますので、あらためてその背景を伺いたいと思います。新規事業については、とかく社内では「3年後に○億」といった成果の話になりがちですが、当初の狙いについてお聞かせください。

三原:通常のビジネスをやっていると、何かを変えようとはなりません。そこで、中期経営計画をつくる際に、1年かけて振り返りを行いました。そもそも「ありたい姿」や「あるべき姿」をきちんと持っていない組織は多いと思います。あるいは、外部環境の変化が自分たちの提供価値をどのように脅かしていくのか認識せず、ただ頑張るだけで「今年は3%伸ばそう」と考えたり。「そういうのはよくないよね」ということで、5年後や10年後にどうありたいのか、そのために今後の3年や5年がどうあるべきなのか、一生懸命話しました。

もちろん、それ以前に危機感もありました。このままやっていたら、商社つまりバイセル業はもうもたない。直ルート化したり口銭が減ったりしていた一方、M&Aで業界再編もどんどん進み、顧客が急にいなくなったりするわけです。海外の方が来て、「いや、そんなものは切ってしまえ」なんて言われることもある。

そこで、2015年から皆で危機感を醸成していきました。そのなかで、「では、どんな自分たちになっていたいのか」と、ありたい姿を皆でつくりあげていきました。その姿と現在とのギャップを明確にして、ありたい姿に数字を付けたのが中期経営計画だと考えています。そんな風に、ありたい姿を可能なかぎり“絵”に描いていこうとしていました。

ただ、それを皆に言っても2割ぐらいしか分かってくれません。そこで、我々は「フリーランサー」と呼ぶ社内の若手を中心に事業を進めていこうと考えました。やってくれる部長もいますが、逃げ切れると思っている部長も結構います(会場笑)。ですから、下と上からの挟み撃ちで逃げ切れないようにしていこう、と。

そんな形にして、2週間に1度、新規事業に特化した会議を行っていました。そうすると、もう毎日考えないといけない。グロービスさんにも2ヶ月に1回、丸1日その会議に入っていただいて、もうけちょんけちょんに言っていただいたりしてブラッシュアップしていきました。

髙田:私どものプロジェクトは2018年4月にスタートして約2年になりますが、もともと名古屋製作所の事業はB2Bです。ここ20年ぐらいを見てみると、リーマンショックや東日本大震災による一時的な落ち込みを除けば、基本的には右肩上がりで業績は上向いていました。その意味では、社内ではほとんどの人に危機意識もなかったと思います。

でも、今は技術も10年前や20年前に比べてはるかに早く進化しているし、スタートアップもたくさん出てきています。そのなかで新しいものが次々世に問われるようになってきたのに、我々は今のままでいいのか。当社は巨大戦艦のようなイメージです。なかなか向きを変えられない。「今のままで本当にいいのかな」と、一部の人は思っていました。

そうした状況下、2017年の秋口ぐらいから現在の名古屋製作所所長といろいろとお話をして、2018年4月に我々のプロジェクトグループができました。もともと新規事業を前面に押し出すつもりはありませんでした。まずは「ビジネスユニット間で横通しをして新しいものを生み出していかないといけない。そう考えると、こういった組織をつくる必要があるのでは」といった話が発端でした。

その後、5月にいきなりスタートアップと接する機会ができたりして、我々のメンバーも非常に高いモチベーションで「新しいことをどんどんやっていかないとダメだ」という話になっていきました。2年目にはグロービスさんとともにアクセラレーションプログラムをやらせていただきました。今はビジネスユニット間の横通しも当然やっていますが、それとは別に、新規事業、新製品、あるいは新分野を我々自身で見つけるという活動が7~8割になっている状態です。

新規事業を生み出す組織づくり

大牧:いろいろな企業に話を聞くと、新規事業の必要性自体は理解しているものの、役員会で承認が下りない、あるいは各部門で人的リソースを出せないといったケースがあって、その説得や調整で半年や1年遅れてしまうといった話をよく聞きます。その辺はどのような仕掛けや工夫をなさっていますか?

髙田:我々の組織ができたのは2018年4月ですが、所長からは「今後はこういうことをやっていかなければいけないんだ」という強い思いとともに、各ビジネスユニットに「優秀層を出してくれ」と、直にお願いしていただきました。当初は7~8人ほど、本当に優秀なメンバーを出していただきました。

もちろん、「優秀」の定義にもいろいろあるとは思います。既存事業部でやっていくほうがいいと思われているような人材か、もしくは既存事業部に収まりきらない、「優秀だけど、ちょっと本流ではないね」といった人材かという視点であれば、どちらかというと後者が集まったのではないかなと私は思っています。ただ、いずれにしても本当に優秀なメンバーに集まってもらいました。

何より、新しい組織で新しいことをはじめるとき、「なんでもやります」と、言われたことだけを黙ってやるような人は必要ないと思っていたんですね。でも、実際に集まったのは、もう本当に、黙っていてもどんどん仕事を進めるわ、口も出してくるわ、私の言うことも聞かないわ(笑)。とにかくモチベーションの高い人たちに集まってもらえたのが大きな救いでした。

ただ、各ビジネスユニットには、「2~3年で返します」とお話ししたうえで出してもらっていた人材です。そろそろ2年になるので、そうした人材が元のビジネスユニットに戻って次世代の育成を行い、各職場で風土醸成をしていくことも非常に重要だと思っています。

大牧:人選が1つの鍵になりますか?

髙田:非常に大事だと思います。自分からどんどん発言する「黙っていられない人」がありがたいですね。言われたことだけをやるような人は新規事業に向いていないと感じます。

三原:既存事業は、優秀な人を抜いても絶対になんとかなるんです。でも課長や部長は「抜かれると困る」と言う。そこで我々は「どちらを向いているんですか?(会社を)変えるんでしょ?」といったお話を毎回して、各部門の部長と共に候補者数名を絞っていきました。ただ、上から下を見ると半分ぐらい間違えるので、下からの意見も聞いたうえで「本当に優秀だな」という人材を各部で1番から3番ぐらいまでリストアップしていきました。

そのうえで、最後は部長に選んでもらっていました。それで部長の肚が分かる。本当に1番を出してくるのか、それとも2番3番を出してくるのか。いずれにせよ、エース級を出してくるところからは新しい事業が生まれます。間違いありません。

私は2019年4月からコーポレートの立場になり、「長瀬テクニカルバイタリティプログラム(NTV)」ということで、5Gやマテリアル・インフォマティクス等、5つの分野でワーキンググループを立ち上げました。こちらは全社的に手挙げでやっています。それで集まった人材を軸にして動くようにしていて、皆、今はもう土日も関係なく好きなことをやっています。こういうワクワク感が大事なのかなと思います。

髙田:「フリーランサー」という立場の方は何人いるんですか?

三原:4つある各部門の部長付で、4人になります。スペシャリティ事業部のなかに4つの部があって、それぞれの部長に1人付く形です。

大牧:「フリーランサー」の方々は他のメンバーも動かしていく感じですか?

三原:その4人はしょっちゅう互いに話をしています。最初は悩んで悩みまくって、後輩にも先輩にもたくさん相談していますね。自分のところだけでは解決しないので、ほかの事業部にも話をしたりして。また、彼らは自分で研修先を選んできます。「こういう研修をしたいです」「こういう勉強をしたいのでお金を出してください」なんて言って。半年から1年ぐらいしたら、そんな風に変わっていきます。そのなかで横のつながりも社外とのつながりもできる。人間って追い込めば追い込むほど伸びしろが出てくるんですね(笑)。

アイデアをどう出すか?

大牧:新規事業創出のためには、アイデアを出し、それを育て、検証しながらビジネスモデルを創り、発展させてスケールさせる必要があります。その際、何が課題になるとお感じですか?

三原:意識改革が一番難しいと考えています。180数年にわたって商社業をやってきたわけで、感覚としては「買って売って口銭を得る」という意識しかないわけです。その儲け方を変えるという意識改革に1年ぐらいかかりました。そのために2週間に1回、夕方5時から10時頃までずっと議論をするんですが、発想が変わらないんですよ。でも、どんどん追い詰めて議論していったら、1年ぐらいして、「あ、これは違うね。儲け方を変えないといけないよね」という感じで変わっていきました。

これは全社的に言えることですが、やはり発想が「販売」と「製造・販売」で止まってしまっていて、まだまだコト売りの発想になっていなかった。年度計画の目合わせをしている役員の方々もその発想から抜けきれていないので、それを指摘できないケースが多々あると思うんです。その意味でも、全社的に価値観や儲け方の意識改革が重要でした。

我々は今、2021年度からはじまる中期経営計画の策定をしていますが、そのなかでも「質の追求」や「質の変革」がすごく大事になると思っています。そこは最も苦労しましたし、逆に言えば苦労したことによって「変えないといけない」という肌感覚も身についてきたという感じです。

大牧:三原さんご自身はなぜ旧来の儲け方から離れて発想することができたのでしょうか。

三原:やはりゴーイングコンサーンですよね。私は会社で「悲観的に考えて楽観的に行動せよ」とよく言っています。悲観的に考えることで危機感を醸成できますから。また、客観視していけば「今のままでは続かない」となります。せっかくご縁があってこの組織にいるわけですから。後進の人たちや、そのご家族が、「この組織にいて良かった」「家族がこの組織にいて良かった」と思えるような組織にしたい。そのためにも、より客観的に見たうえで変えていこうという概念を持つことが大事になると思っています。

新規事業創出の取り組みをしていて良かったな、と思うことがあります。2015~2016年頃はデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)、あるいはサステナビリティやESGといったことも、まだメディア等であまり言われていませんでした。でも、各業界で今後DXが進むと、商社、保険、銀行、あるいはメーカーといった業態の境界もおそらくなくなっていく。そのうえで、ユーザー・エクスペリエンス(以下、UX)やカスタマー・エクスペリエンス(以下、CX)という視点で考えていくと、いろいろなビジネスモデルを立ち上げていく必要があるのだと思います。

その意味でも、今積んでいる経験は「DXの先」にあるものに、必ず、成果としてつながっていくと考えています。だからこそ、発想を変えて事業をつくる、あるいはスタートアップ等と協業していくことが大事になるのだと思っています。

社内外とどう調整していくか?

大牧:髙田さんはいかがでしょうか。新規事業創出にあたっての課題という点では。

髙田:日々、課題だらけということかもしれません。たとえばオープンイノベーションに関する集まりで、スタートアップの方々に「私、三菱電機なんです」と言うと、「固いですよね」と、第一声で言われたりしますし(笑)。そこは変えていかなければいけないと思っています。

ですから、職場での風土醸成ということで今は一生懸命発信をしていますし、所長にもお話をしていただいています。ただ、その下にいる部長の方々まで含めて皆がそう思っているかというと、必ずしもそうではありません。すごく協力的な方もいれば、あまり協力的でない方もいます。そういう濃淡が出てくるなかで新しいものを考えていくとなると、難しい部分も出てきます。

大牧:特に三菱電機さんは事業がたくさんありますし、新しいことを始めるといっても、いろいろなところが関係してくるので、ブレーキがかかるケースはあると思います。最初の立ち上げ時は相当なご苦労があったと伺っています。

髙田:実際、本社まで出向いて説明したことも数多くありました。あと、総合電機メーカーということで苦労するケースもあります。FA分野の外回りぐらいまでならいいのですが、まったく新しい事業を生み出すというとき、他の事業本部とバッティングする可能性があって、これが悩みの種になります。いわゆるカニバリゼーションにもケアしながら進めないといけないというのは総合電機メーカーの苦しい部分だなと、個人的には思っています。

大牧:そのあたり、長瀬産業さんはどのように調整等を進めていらっしゃいますか?

三原:違う事業部等が狙っていたとしても、儲け方が違いますから、あまり競合するようなことは今までなかったです。ただ、いずれにせよ自己否定する勇気がないといけませんし、そこの調整は事業部長なり部長なりが出張っていきます。そこで揉めるようならトップも巻き込んで、そのうえで当初の「ありたい姿」を明確にしつつ「どちらを取るんですか?」という話をすることになるのだと思います。事業同士の競合だけでなく人的リソースの競合もありますから、そこで生まれる「どちらかが減るかもしれない」という恐怖感に対しても、きちんと説明をしていく必要があります。

一方で、「フリーランサー」の方々は自社だけでなく仕入先様や販売先様まで巻き込んで新規事業を進めていきます。そうすると、今まで仲介業で売っていた先、もしくはメーカーさんが、「長瀬産業さんは我々のことをそんな風に考えてくれているんだ」と思ってくれるんですね。その意味では、逆に既存事業もずいぶん増えました。既存と新規を合わせると、2015年比で2018年の営業利益は50%ほど増えたと思います。5G絡みの原料で今はもう60億ぐらいになっていますし。仕入先さんを巻き込んで変わっているので、結果として既存事業は減らなかったと思います。

大牧:ほかに何か壁や課題として感じたことはありますか?

三原:やはり価値観の部分が一番大きな壁でしたね。周囲の人たちには「あそこの事業部はブラックだ」なんて言われたりはしていました。金曜の夕方5時頃から10時頃まで、ずっと議論を続けているわけですから。「ブラックだ」とか「働き方改革に逆行している」とか、いろいろ言われたりして。でも、その辺は別に壁とも思わず、「そんな小さいことを言う連中は、どうせ上を向いて仕事をしてんだから放っておけ」と(笑)。

結局、「放っておいてもやる人」と「言ったらやる人」と「言ってもやらない人」に分かれるわけです。だから前者の2つを引っ張っていく。特に「言ったらやる人」というのは、どこかで気づいて、絶対に自分で動き出すようになります。スポーツでも一緒です。高校野球でめちゃくちゃに強制されていても、一定のレベルまで行くと「あっ」と気がついて自分でやり出す。そのレベルまで引っ張り上げてあげることがすごく大事になる。私としては、そういうものまで働き方改革の下に否定してはいけないと考えていますし、努力は努力としてやればいいのだと思っています。

もっと言うと、働き方改革で効率化を求めるのはいいんですが、今の仕事や業態のまま効率化を進めも、根本的には働き方改革にならないと私は思っています。新しい事業を生み出し、業態を変え、儲け方を変えていくことが、結果として働き方改革につながるのではないかな、と。そういう意識で突破しまくっています。

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