プロダクトマネージャーが強化すべき育成力と意思決定力 #6

第4第5では、優秀なプロダクトマネジャー(以下、PDM)となるために持つべき力、強化すべき力は何かをまとめてきた最終話では、PDMが持つべき8つのスキルのうち、チームを自己組織化する力、最適意思決定力の2つを紹介する。

7. チームを自己組織化する力チームを育てよう

自己組織化したチームとは、メンバーが自律しており、問題に直面した際、リーダーがいなくてもチーム内で考え解決できるチームのことである。通常、人材育成、チーム育成に関しては、人事部門や各部門のマネジメント層が担う。エンジニア部門でいうと、エンジニアマネージャーという役割を設けているところも多い。

PDMは、プロダクトのマネジメントに専念するため育成を他に委ねることが多いが、小さな組織ではPDMが兼ねていることも多い。また、大きな組織であっても、PDM視点からチームの自己組織化に向けて影響を与えることができるため、必要なスキルと言えるだろう。

■自己組織化させるために必要なこと

まずは、組織としてチームを自己組織化させるために取り組むべきことを挙げる。

1)職場環境の整備
PCのスペックや開発及びテスト環境の有無はパフォーマンスに直接影響が出る。エンジニアには窓口や電話対応させないなど役割分担のことや、定期的な勉強会の開催といった教育機会の面も含めて、ある程度の職場環境を用意しなくてはいけない。

2)目標管理、評価制度などのHRM
OKRなどを活用する目標管理や評価制度に関して、エンジニア部門とビジネス部門で分けている企業が多い。職能上振り返る頻度や尺度が異なるためだ。ビジネス側に合わせたもので、エンジニア部門にあっていないHRM制度では、エンジニアにストレスがたまる。エンジニア部門用にHRMを設計するために、エンジニアマネージャーがエンジニアに適したHRMを設計していく企業もある。

3)開発チームが顧客やビジネスを理解している
エンジニアがPDMから言われただけをやるのでは、自律したチームにはならない。自律したチームは、PDMだけでなく、開発チームもターゲットユーザーの心理を理解し、ビジネス上の制約も理解していなければならない。

4)開発チームが安定している
組織の流動性はある程度は必要だが、開発チームのメンバーがすぐに入れ替わるようでは、ユーザーのことやビジネスへの理解、プロダクトの状況など、必要な知識が積み重ならない。プロダクトを継続してアップデートしていくために、継続したチームでなくてはならない。

5)メンバーへの権限委譲
チームメンバー自ら考えるためには、権限委譲が必要だ。顧客やビジネスのことなども理解してもらいつつ、徐々に権限を委譲させ、自律したチームへと育てることが重要となる。

6)心理的安全性が高く、対等な文化
心理的安全性が高いチームとは、このメンバーの前ではミスをしても平気だと思えるチームである。失敗して学ぶことを大事にしているチームなければ、チーム内で失敗を恐れて、行動が萎縮してしまうし、活発なチームにならない。また、PDM、エンジニア、デザイナーなど関わるメンバーが対等な関係であることも重要だ。

7)明確なビジョンがある
プロダクトが目指すビジョン、プロダクトを通じて実現する世界が明確にあること。ゴールがわかっていれば、今やっていることも、時に客観的に確認ができ、自ら批判的な視点で評価することができ、最適な進み方を考えることができる。

■PDMとして何を行うのか

上記の(1)と(2)はPDMが担う内容ではないが、それ以外はPDMの影響は大きい。PDMは具体的には以下のようなことを行っている。

(a)開発チームメンバーに、顧客やビジネスへの理解を促す
PDMは、開発チームに対して、顧客やビジネスへの理解を促す機会を作ることができる。例えば、ユーザーインタビューの場にエンジニアを連れていくこと。また、ビジネス理解を促すためには、勉強会はもちろんのこと、現場で、なぜその機能が必要なのか、その機能の優先順位が高いのはなぜかを、顧客やビジネス上の理由も必ず伝えながら、理解を促している。

b)開発チームを混乱させない
PDMは、開発チームを混乱させないよう配慮しなければならない。たとえば、PDMは開発に関して社内外から多様な要望が集まるが、すでに動き始めている開発に関して、メンバーの動きを止めたり、方向性を混乱させたりしてはいけない。そうならないように配慮するのがPDMの任務ともいえる。

c)権限委譲する
開発チームに権限委譲を促すために、あえて抽象的な指示を出すPDMは多かった。もちろん、メンバーの成長度合いや環境に合わせて対応を変えることは必要だ。例えば、重大なバグが見つかり、多くのユーザーからクレームがきたといった早急に対応しないといけない際に、権限委譲でメンバーに考えさせている時間はなく、マイクロマネジメント的に指示を出さなければならないだろう。優秀なPDMは、チームを自律化させるために権限委譲をしながら、うまく必要に応じたリーダーシップをとっていた。

d)心理的安全性が高く、対等な関係を築く
開発チームのメンバーが安定するには、心理的安全性が高く、社内で対等な関係づくりが必要となる。これはマインドセットであげたHRT(第4回参照)の原則が、この関係を築くためのポイントとなる。企業によっては、呼び方も部下と呼ばず、メンバーと呼び、外注ではなくパートナー、バイトではなくスタッフと呼んでいる。PDMは、役職がある方が多かったが、役職ではなく〇〇さんと呼んでくれと、呼び方から工夫をしていた。

e)明確なビジョンを示す
必要なマインドセットであげた社会的意義を示す部分と繋がる。まずはPDM自身がビジョンを自分の言葉で語ることが出来る状態であることが重要だ。そしてビジョンをわかりやすく壁に貼ったり、何か議論する際にも、ビジョンを判断軸に引っ張ってきたりして、会話をすることで、目指すゴールをメンバーに示していく。

このように、PDM自身もチームの自律化へ貢献していくことが重要となる。

8. 最適意思決定力:決めることが最大の仕事

最後は、最適意思決定力。PDMは、限られたリソースの中で、何が重要かを見極め、最適な意思決定をしなければならない。第2回でPDMの役割「why」と「what」を決めることと述べたが、PDMの最重要な仕事は、決めることに尽きる。どの顧客が最も大切で、解決すべき課題は何で、どんな機能が必要で、限られたリソースの中で、どこで折り合いをつけるべきかなどを決めていく。

何が最適かは、実際にはやってからでなければわからないが、その時点で得られる情報で、自分が考えうる選択肢を挙げ、その中で最適なものを選ぶしかない。

では、PDMはどのように最適な意思決定を行っているのだろうか。次の3点にまとめた。

1)周囲の影響を受けず、PDMとしての判断軸をもつ
PDMには情報が最も集まる。経営者、セールス、カスタマーサポート、開発、社外のステークホルダーなど、さまざまなところから要求が集まる立場にいる。さまざまなところからさまざまな要望が集まり、やらないといけないことが蓄積する中で、本当に大事なことだけを見極めなければならない。

しかし、実際の現場では、社内でのパワーバランスや人間関係もあり、影響力のある社内の人や顧客に影響をされてしまう。しかし影響力のある人物からの要求がすべて本当に大事なこととは限らない。そのため、周囲の強い要求や圧力に屈しない力が必要となる。最適な意思決定には、まず開発しているプロダクトのPDMとしての判断軸をもつことが重要となる。

2KPIやデータで判断をする
本当に大事なことは何であるのかを見極める際に、何を基準に判断しているのか。その判断材料はファクトになる。そのファクトの元は、主にKPIやデータを重要視している。KPIやデータは、ビジネスやプロダクトの状況を高い解像度で理解できるからだ。

そのため、まずは、正しいKPIを設定することから始まる。次に、必要なデータを取ることができる状態にしておく。そして、ここからがKPIを改善する動きとなる。KPIが目標と現状とにギャップがあったり、ボトルネックになっていたりする箇所を問題と特定して、本当に解決すべき部分を特定していくのだ。

3)定量だけでなく、定性情報を集めて判断
上記でKPIやデータを元に本当に大事な部分を特定していくと言ったが、定性的なファクトも忘れてはならない。(1)で周囲の影響を受けずと言ったが、一方で新しい発見のヒントとなることも多い。集めた定性情報から、どれくらい顧客がいるのかデータで検証しながら、定性、定量の両輪のファクトで判断することが重要だ。

最後に

今回、我々は、PDMをキーマンとして必要な知識やスキルを考えてきた。その知識やスキルはあまりにも広い。しかし、この広さがPDMの難しさでもあり、醍醐味であると考えている。多くのPDMは、自分に足りないところを認めて、誰かに助けてもらいながら業務を進めて、プロダクトの成功に本気で取り組んでいる。その姿に心を打たれる。

プロダクトの成功は間違いなくPDMの力である。この研究内容が、PDMとして業務を担っている、あるいは目指している方、さらに言えば、デジタルテクノロジーを活用した新規事業を行う方にとって参考になれば幸いだ。

また、我々の研究は、テクノベート時代のリーダーシップを、キーマンであるPDMを中心に書いてきたが、今回の強化すべき力は、PDM以外にも全ビジネスマンに共通して必要になると考えている。もちろん、ビジネスモデルや職種によって、今回の力のうち、重要度の濃淡は変わるものの、テクノロジーがここまで日常の中に入った今、共通する部分が多いはずだ。ぜひ会社として、自分として、何を伸ばすべきかを検討するときの参考になれば幸いだ。

(調査協力)松浦 卓哉/石井 紀穂

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