第4回では、プロダクトマネジャー(以下、PDM)に必要な8つのスキルのうち、マインドセットについてお伝えした。第5回では、ユーザー理解力、コミュニケーション設計力、協業力の3つを紹介する。
4. ユーザー理解力:ユーザーの理解なくしてプロダクトはできない
そもそもPDMの仕事は、ターゲットとする顧客の抱える課題を深く理解して、解決するためのプロダクトを考えることである。すべてのプロダクト開発はユーザー理解から始まり、ユーザーを深く理解することなく、ユーザーに愛されるプロダクトができるはずがない。
しかし、ユーザーは、BtoB向けであれば何百、BtoC向けであれば何千、何万もの数がいる。すべてのユーザーと接するのは、無理だろう。では、PDMはどのようにして限られた時間の中で、ユーザーの理解を深めているのだろうか。
(1)自分自身がユーザーになる
プロダクト開発の現場では、「Eat your own dog food」とよく言われる。直訳すると「自分の犬の餌を食べてみろ」である。自社プロダクトを自分で試してみて、忌憚のない意見を開発チームで話し合い、ユーザー視点で改善する。プロダクト開発をしていると、ユーザーのことを忘れて機能を実装してしまうことがある。実際にプロダクトを自分自身の生活シーンで使ってみることで、様々な問題や課題を見出すことができる。
(2)ほぼすべてのユーザーインタビューに参加する
PDMは、社内の誰よりもユーザーに詳しいことが理想である。「メラビアンの法則」によると、言語と非言語でのコミュニケーションの割合は、1:9であるといわれる。インタビュー内容を文章で読んだだけではユーザーの本意を知ることはできない。直接会って、感じること、態度を見ること、つまり非言語情報を得る工夫をしないと理解はできない。そのため、PDMはユーザーが集まる場に参加している。
(3)モニターを活用する
初期のフェーズでは、モニターを活用することが特に重要である。モニターとして、ターゲットとなるユーザーを数名集める。そして、プロトタイプ(開発初期の段階で、ユーザーの動作確認用として作成する試作品のこと)を使ってもらい、使用する様子を観察し、使用後のインタビューでフィードバックをもらう。多くのPDMが、モニターをプロダクト改善のパートナーと捉え、関係性を大事にしている。
(4)定性・定量の両輪で理解をする
ユーザーから直接声をもらう定性情報には数に限りがあり、定量的にも理解することも忘れてはならない。アンケート結果や、チャーン率(退会率)、アクティブユーザー率、LTV(ライフ・タイム・バリュー)など、計測すべき数値を事前に理解し、プロダクトがどういった属性の人にどんな頻度でどのように活用がされているのかなど、データを元に理解もする。
(5)洞察力の高い人と継続的な関係を持つ
社内の誰よりもユーザーに詳しいことが理想と言ったが、実際には難しいこともある。そういったPDMは、ユーザーへの洞察力の高い人を見つけて、その人と継続的に意見を交わすような関係をもち、ユーザーを理解している。
(6)ペルソナを全メンバーに共有する
これは、関わるメンバーがユーザーを理解する話だが、プロダクトはPDM1人で作るものではないため、理念を共有するように、ペルソナをプロダクト開発に関わる全メンバーに共有している。例えば、ペルソナに名前をつけ「ペルソナの◯◯さんならどうするか?」といった問いかけをチームに行い、ペルソナ視点からの検討を忘れないようにしている。
5. コミュニケーション設計力:情報の非対称性を解消しミスを減らす
次に必要な力は、コミュニケーション設計力だ。あえて「設計力」という言葉を足したのは、いつどこで、誰と何をどのように話すのかを、徹底的に設計することが重要だからだ。PDMの失敗談では、コミュニケーションのミスが多かった。それは事前に設計できていないことが原因である。
コミュニケーション設計力が重要となる背景には働き方の変化がある。今や、リモートワークが進み、全員が同じ場所、同じ時間で一堂に会して働いているわけではない。また、メンバー構成は、フリーランス、副業、契約社員など、正社員以外も増えて多様になった。
こういった働き方の変化から、メンバー間での情報の非対称性(情報の偏りが出て、知っている人と知らない人が存在することになる)がおき、限定合理性(自分にとっての正解が全体にとっての正解にならない)が起きてしまう。ひいては、スケジュール遅延や、メンバーのモチベーションの低下にまで影響してしまう。
そのため、「Slack」や「Chatwork」などのチャットコミュニケーションツールを活用しているが、それだけでは解決されていない。
では、コミュニケーションのミスが起こらないために、PDMは何に気をつけてコミュニケーションを設計しているのだろうか。インタビューを通じて共通する部分を以下の5つにまとめた。
(1)全てのログを残す
アイデア1つ、会議1つ、ふらっと立ち話していた内容も含めて、全て議事録や、最近ではオンライン会議の様子を動画として残し、その場にいないメンバーに共有できるようにする。
(2)情報を可能な限りオープンに
メンバーに対してほぼ全ての情報をオープンにすること。とある企業では、誰でも担当部署以外の議事録も見ることができる状態になっている。また、個別のやりとりも、あえて全員が見えるところで行う。
(3)個別の調整は極力しない
ルールと違う個別調整は、チームを疑心暗鬼にさせてしまう。そのため、基本はルールを徹底し、個別調整は極力行わない。
(4)齟齬を埋めるためのリアルなミーティングも定期的に用意
オンラインだけでは、齟齬が出る場合もあるため、定期的にリアルな場を用意する。場合によっては、正確に伝えるために個別電話をして、齟齬や曖昧さをなくすことに力をさく時間をとっている。
(5)最初は直接会って質問しあえる関係性作りから行う
心理的安全性の高い関係性を作るために、HRTが重要になると述べたが、多様なメンバーとの協働をするにあたり、最初はリアルで会ってコミュニケーションをはかり、相互に質問しあえる関係性作りを行うことが重要である。とある企業では、当初ベトナムへオフショア開発を依頼していたが、最初にベトナムへ行って、現地エンジニアと関係性を作っていた。
6. 協業力:さまざまなメンバーと連携して物事を進めよう
3つ目は、協業力。現在のビジネスは、どの企業も社内外ともに協力して仕事を進めるが、PDMは特に協業力が重要になる。PDMはオーナーシップを持ち、対開発チームのみならず、対経営者、対他部署、対社外メンバーなどと連携して物事を進めなければならない。
PDMは、プロダクトに責任をもち、BTD(ビジネス、テクノロジー、デザインの略)の中心にいる。プロダクトをどう成長させていくかの意思決定を、データという定量的なものと、ユーザーを含めた多くの関係者からの定性的な情報をもとに総合的に決めている。意思決定に必要な情報を収集しながら、決めたことに対して関係者に説明責任を果たす。そして、社内の関係各所が納得感を持って進めていくために、各所の目的・目標を理解し、よりよい関係を構築しなければならない。そのため、PDMは多くの関係者と協業する力が必要になる。
では、具体的にどうしているのか。共通する点を3つまとめた。
(1)対等な関係作り
まずは、関わる全ての人とパートナーとしての対等な関係作りをしている。PDMは、役割上社内のさまざまな情報が集まるため、尊大な態度をとってしまいがちである。前回述べたHRTのマインドのように謙虚でいなければならない。たとえ、業務の一部を依頼する会社(いわゆる外注先)であっても、説明を省いたり、相手の事情を考えない仕事の進め方をしたりすれば、長期的にはうまくいかない。
(2)目的・目標を共有する
多様な関係者に目的や目標を共有することで、各所が対立することなく、同じ方向へ向かうよう動かしている。目的・目標の共有手段としては、多くの人が読めるように書類(要件定義書、報告書など)を作成している。そのため、優れたPDMは、多くの人に目的や目標に関する文章を読んでもらえるように、日常から簡潔明瞭な表現で書類を作り、短い時間で説明もこなしている。
(3)理解できる言語へ翻訳する
PDMは関係者に、まるで通訳のように言葉を使い分けて仕事を進めていた。対エンジニアには技術の話を、対経営者やマーケティング部門には、市場シェアやコスト構造の話など、それぞれの専門用語や考え方を理解したうえで、意見を交わさなければならない。
また、関係各所は、PDMより全体が見えていないことも多いため、それぞれの関心事について丁寧に説明している。たとえば、対エンジニアには、なぜその機能がいるのか、その背景や目的を必ず話し、非エンジニア部門には、開発のプロセスや工数についての説明を行っている。
まとめ
今回は、PDMに必要なユーザー理解力、コミュニケーション設計力、協業力についてまとめた。PDMは社内だけでなく社外のユーザーや関係者を巻き込んでプロダクトを開発しなければならない。社外の者に関しては、PDM自身でコントロールできない部分が多い。さらに、世の中になかったプロダクトを開発するケースだと、社内ですら理解をされないこともある。そういった状況で、プロダクトを開発し成長させていくためには、これらの3つの力が必要である。最終回は、残り2つの力を紹介する。
(調査協力)松浦 卓哉/石井 紀穂