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柔軟な組織をつくった、ビジネスオーナー=プロダクトオーナーという考え方――カインズのデジタル戦略責任者に聞く Vol.3

投稿日:2023/09/28更新日:2023/10/18

企業が事業変革や構造改革を行っていくためには、もはやDXが欠かせない。そんな変化の中、2018年に「IT小売業宣言」を掲げた株式会社カインズは、ゼロから新たなデジタル体制を整備し、施策を実行。高成長を続けてきた。

このカインズのデジタル戦略の仕掛人、執行役員CDO兼CIO兼デジタル戦略本部長兼イノベーション推進本部長の池照直樹氏へのインタビュー。(Vol.2はこちら)今回は内部の開発組織と現場をつなぐ人材の育成や、デジタルイノベーションを起こすにあたってリーダーに必要なこと、そのための組織制度などについて聞いた。聞き手は引き続きグロービス マネジング・ディレクターの板倉 義彦。

「チェンジマネジメント」の考え方を持った「プロダクトオーナー」を作ることが重要であり、難しいところ

板倉 もともと開発組織がないところから、エンジニアの雇用、そして彼らと現場を結ぶ役を3名でつくったと。池照さんらが介さずとも、話がスムーズに進むようになるまでに、どのぐらいかかりましたか。

池照 3カ月ぐらいですね。それ以降は、難しい問題以外は、私はほとんど手をかけていません。例えばそのうちの一人は着実にスキルを身に付け、現場の人たちをしっかりリードして成果を残していったので、今は現場に戻って統括部長として活躍しています。

私が直接指導したので、彼らもどのように教えればいいか、身をもって理解しているわけです。彼らが現場に出たことで、彼らのような仕事のやり方をする人間が次々と増えてきました。結果、私は何もしなくても、いろんなところで改善が進むようになってきたわけです。

板倉 現場の人たちの仕事のやり方自体を変えてしまったわけですね。池照さんがミスミでの経験があるからこそできたことでもあると思うんですが、普通の会社でやろうとすると、どこがポイントになりそうですか。

池照 まず、3人のような中核となる人材を作ることだと思います。一般的な会社では、IT部門は依頼されたシステムを自前でつくったり、外注したりする業者さん的な存在です。そのため、IT部門のリーダーがITエキスパートとして、本当に欲しいと思われるソフトウェアの完成度まで責任を持つ(=現場できちんと使えるソフトにする)ことが少ないと思います。

現場が「作って!」といったものを、IT部門が作ってくれない。よく起こることですが、あれはリーダーのスコープが狭いことが起因です。リーダーには事業で結果を残すだけではなく、完成度の高いソフトウェアや、オペレーションプロセスを作らなければならないという意識が必要です。それを身に付けさせることが非常に難しいのだと思います。

板倉 それを踏まえて、デジタルイノベーションを起こす際にリーダーに必要なことは何ですか。

池照 ビジネスオーナー=プロダクトオーナーという考え方だと思います。ソフトウェアを入れたからといって、必ずしもうまくいくとは限りません。新しくソフトウェアを入れる時には、仕事のやり方を小さい単位でいいので、変えていく。こうした人事マネジメントも、リーダーの仕事になります。つまり「プロダクトオーナー」と「チェンジマネジメント」。この2つが求められる考え方であり、業務です。

プロセスを変えるために、新たなソフトウェアを導入します。例えば、現場のメンバーがエンジニアに新たなソフトウェアを依頼した時に、エンジニアにとって「簡単そうに見えて、作るのが非常に難しいんです」となった場合、そのメンバーが、現場を調整する動きがとれるかどうかが大切になってきます。

完成度が「80点」でいいというのは、現場(オペレーション)側の「80点」と開発側の「80点」の組み合わせです。ここには、お互いがある程度妥協して、迅速に、及第点がとれるモノを作ってほしいという意味が込められています。だからエンジニアにも「要件定義をしなくていい」と言っているわけです。

プロフェッショナルルートの評価制度をつくり、キャリアの複線化を実現

板倉 これだけ柔軟な組織では、評価も非常に工夫されているのではないでしょうか。そのあたりは、どうされているんですか。

池照 評価制度は、リテール特有の「店舗から偉くなる」というルートだけでなく、「プロフェッショナルルート」も新たに導入しました。このルートは簡単に言うと、マネジメントができなくても、手に職(プロフェッショナルスキル)があれば、キャリアアップできる制度です。いわゆる「キャリアの複線化」を設けたんです。

マイクロソフトでは、「40~50歳のスーパーエンジニアが活躍している」と言います。日本企業だと30歳ぐらいで大体プログラマー(もしくはシステムエンジニア)を卒業し、そこからプロジェクトマネージャー(PM)というステップだと思います。

彼らはプログラミングをやりたくないわけではなく、そうしないと給料が上がらないからキャリアチェンジするわけです。私たちもマイクロソフトのように、能力のある人が出世できる(稼げる)ようにしたかったのですが、約2万人もの従業員が在籍する企業の人事制度を変えるには、かなりの長い時間が必要です。

だから最初は別会社で、別の評価軸や就業規則を作って、その会社からカインズに出向する雇用形態をとっていました。しかし、現在では、1つの人事制度で運用を始められるようになっています。

板倉 コア人材の採用・活躍のためには、そこまで踏み込んでやるんですね。

池照 エンジニアやデジタル人材だけでなく、法務や財務、経理などのプロフェッショナルを採用したければ、「プロフェッショナルルート」が必要な評価制度だということは、カインズのマネジメント職全体の総意になっています。

顧客戦略チャートは、カインズのリクルーティングにも活用している

板倉 御社のデジタル戦略を含め、この顧客戦略チャートは非常に簡潔にまとめられていて、分かりやすかったです。

池照 これらのチャートは、実はカインズのリクルーティングにも使っています。「私たちが何をしようとしているのか」―――キャンディデイト(採用候補者)の方々に理解していただくために、30分ぐらいで私がプレゼンテーションをして、この組織の中で「何をやりたいのか」を聞いた後に、1on1でキャリアプランを一緒に作っていきます。一種のキャリアコンサルティングですね。

デジタル戦略本部立ち上げ当初は、300名ほどのキャンディデイトに話をして、30名もの方が、仲間に加わってくれました。彼らが、今でも屋台骨を支えてくれているデジタルチームのメンバーです。

板倉 なるほど、社内の従業員だけでなく、採用にも使えるんですね。エンジニアの方も事業の成長に直結する活動ができるので、やりがいも大きく、採用率も高そうですね。今日はどうもありがとうございました。

池照 ありがとうございました。

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