ジル・サンダー、ジョナサン・アンダーソン、クリストフ ルメール…これらのデザイナーの名前を聞いて、共通点を思い浮かべることができるでしょうか?
ご存知の通り、それぞれ非常に有名なメゾンでキャリアを積み重ねてきたデザイナーの歴々です。そしてもう1つ、「ユニクロ」とコラボレーションしているデザイナーでもあります。
ユニクロと言えば、SPA(企画・製造・販売までを一貫して行う小売業)の代表的存在で、比較的低価格で定番品を販売している企業です。一方、ユニクロは06年から「デザイナーズ・インビテーション・プロジェクト」を推進し、冒頭挙げたような非常に著名なデザイナーとのコラボレーションを多く展開してきました。価格は従来のユニクロの製品よりはやや高いものの、それでも直近のUniqlo U(クリストフ・ルメール氏率いるユニクロパリR&Dセンター発信の新ライン)ではカットソー1枚1,500円からの価格帯で販売されています。
こういった著名なデザイナーを起用するとお金も相当にかかりそうです。ではなぜユニクロは低価格で製品を販売しつつ、大物デザイナーを起用することができているのでしょうか?今回は「規模の経済性」をキーワードに、この事象を読み解いてみたいと思います。
■規模の経済性とは?(視聴時間:31秒)
「規模の経済性」とは、事業規模が大きくなればなるほど、単位当たりのコストが小さくなり、競争上有利になる(利益を出しやすくなる)効果のことです。例えば、製薬会社では研究開発費が膨大にかかるため、販売量が少ないと製品1つあたりの研究開発費が高くなってしまいます。そこで、製品1つあたりの研究開発費を薄め、利益を出しやすくするために、製薬業界ではM&Aによって事業規模を大きくする取り組みが世界中で行われています。
では、「規模の経済性」を今回の事例にあてはめて考えてみましょう。ユニクロの売上は既に世界のアパレル製造小売業界で3位、国内では比類のない状況となっています。アパレル業界の中では比較的割安な単価でこれだけの売上をあげているということは、販売量は相当なものになりそうですね。その販売を支えるためには、より多くの製品を生産することが必要となります。
ここで、製品1枚あたりにかかるコストについて考えてみましょう。仮にここに1枚1万円のシャツがあるとします。従量的な契約をしていない限り、一般的に服飾生産に係るデザイン費用は売上に関わらず一定だと考えます。例えば、デザイン費用を100万円とした時、1,000枚販売した際は売上1,000万円となるため、売上の10%がデザイン費用ということになります。一方、1万枚販売でき売上が1億円となった場合、デザイン費用は100万円で一定であるため、デザイン費用の売上に占める割合は1%まで圧縮されます。1,000枚販売した時と1万枚販売した時では製品1枚当たりにかかるデザイン費用が大きく変わってくるのがわかりますね。
ところで、先述したようにユニクロは定番品が多数あります。定番品は需要が一定量見込めるため、在庫をあまり気にせず販売ボリュームを稼ぐことができます(「オペレーション戦略」参照)。そのため、結果的にデザイン費用を高く支出したとしても、コスト構造を効率化し、利益を出しやすいのです。
著名デザイナーの起用は、「LifeWear」を標榜し、需要が一定量見込める定番服に近いものをメインに据えて、大量に売り捌けるユニクロだからこそできたアプローチなのかも知れませんね。