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時間・場所にとらわれない働き方には「時間自律性」が必要になる!働き方改革の成功事例と今後の課題について〜青井浩×小室淑恵×田中邦裕×山田メユミ×西澤亮一

投稿日:2019/09/19更新日:2019/09/25

本記事は、G1ベンチャー2019「働き方改革で攻める!〜世界で勝つための働き方改革とは〜」の内容を書き起こしたものです(後編) 前編はこちら>>

西澤亮一氏(以下、敬称略):「働き方改革」について、自社に取り入れたことで生産性が大きく高まった技術や仕組みについても伺ってみたいと思います。「これはぜひ会場の皆さまの企業でも」ということで、何か持ち帰ることのできるお話があれば。

「場所に紐づくIT環境」や「個に紐づくツール」を全廃

田中邦裕氏(以下、敬称略):うちはクラウドの事業者なのに社内でクラウドをあまり使っていなくて(会場笑)。IT業界って、ITをあまり使わず生産性も低い会社が結構多いんですね。なので、当社の場合はまずシンプルにクラウド化したというのがあります。「自社でサーバーを用意できる会社がなんでクラウドを使うんだ?」と言われますが、「お客さまはクラウドのためにうちを使っているんだから、うちも他社のクラウドを使わないと分からないでしょう」ということで使うようになりました。

あと、日本でビジネスマンの生産性を最も低くしているのはメールだと私は思っています。「お疲れ様です」からはじまる長いやつですね(会場笑)。おまけに、会社に行ったりVPNを張ったりしないとメールが見れないなんてこともしょっちゅうある。でもOutlookやOffice365やGmailならスマホでも使えますし、今どきの若い人は調べ物もすべてスマホでやっています。唯一スマホで使えないのが会社のツールなんですよね。だからそれをスマホやタブレットで対応すれば、すべてそのなかで仕事ができる。それに、僕はもう自分のメールアドレスを使っていません。グループでやりとりしています。個別のアドレスを用意する必要はなくて、たとえばセールスならsales@~にして皆で見る。そんな風にして、場所に紐づくIT環境や個に紐づくツールを全廃したことでずいぶん良くなりましたし、在宅がやりやすくなりました。

西澤:「とはいえ、働きたい」という人たちに対するアプローチはいかがですか?

田中:メッセージとして出していることは2つあります。1つは、自分が仕事以外で楽しそうにしているところは社内のSlack等で積極的に貼ったりすること。趣味のダイビングとか。僕のFacebook友だちは僕がダイビングしかしていない人間なんじゃないかと思っていると思います(会場笑)。それともう1つ。プログラミングが好きなのは僕も同じです。ただ、会社の時間は8時間で終わらせて、「その『好き』というパワーはオープンソースコミュニティとか、副業とか、パラレルキャリアとか、他で使おうよ」と。楽しさを会社だけで使うのはもったいない。逆に、ほかの仕事をしてもらうと「うちはやっぱりいい会社ですね」なんて言ってくれるケースがあったりして(笑)。世の中、結構大変ですから。あと、ほかで訓練することによって、うちが教育・訓練費を払っていないのに、よその仕事で勝手にレベルを高めて帰ってきてくれるとか、すごくメリットがあるんです。だから、「プログラミングが好きならそれでいい。仕事がしたいならそれでいい。ただ、うちの会社では8時間にしてくれ」というメッセージを出しています。

「職住近接」によっていろいろなことができるように

山田メユミ氏(以下、敬称略):たしかに我々もIT企業の分類に入る割に、社内にRPAのような自慢できるものがあるかというと、ちょっと(笑)。現場ではできる範囲で工夫していますが、大きな意味で実績になったと言えるような効率化はないというか、まだ実験中という状態です。そのうえで、これはシステムでなくアナログなお話になりますが、私個人は6年前に出産をしました。それで、それまでは同一化した経営陣のなかで24時間仕事をして走ってきたんですが、いきなりそこからぽんと外れた、と。自分以外の役員は皆「明日は出張ね」みたいなペースで働いているのが普通というなか、小さい子どもを抱えた自分はそれができなくなりました。そこで必要に駆られて、リモートワークですとか、いろいろと工夫をはじめたんですね。

そのときに強く思ったことがあります。自分は経営者だからそうした働き方について自由度を持っていますが、従業員の皆さんはそこで縛られていることが多い。「何時までに出勤しなければ」とか「何時に全員でミーティングがある」とか。本当に必要なのかなと思えるようなことも含めて規則として存在していて、それが当り前になっていた。それで、はたと目を覚ましたというか、本社とは完全に別の基準で、「ライフワークバランスを大切にしたいという人、でも仕事にはコミットしてくれる方に来ていただこう」と。本社とは別にそういう会社をつくってしまって、そこでいろいろな実験をしてから本社に成功事例を持ち込めないかと考えて、3年前にISパートナーズという会社を立ち上げました。

この会社は流山でスタートしました。流山は東京に勤務するファミリー層が多いエリアなんですね。ただ、お子さんが小さかったりすると奥さんはどうしても苦しくなって、お仕事を辞めて専業主婦になってしまったり、ばりばりのビジネスウーマンだった方が今はパートのお仕事をしているケースも多いという課題を、流山市の方に伺うことがあったんですね。それなら会社がそういう場所に出ていって、優秀な女性に働いてもらえるリモート環境をサテライトオフィスとしてつくればいいじゃないかと考えました。

自分もそうだったんですが、そうやって職住近接の状態になるといろいろなことができるんです。子どもが熱を出したとき、ちょっと見に行くことができたり。それこそ地震か何かが発生したときはすぐ駆けつけることができるという安心感もあります。それで、今は朝5時から夜10時までのあいだで自由にワークタイムを取っていいという風にしています。そこで外せないのが最初に言った課題感なんですが、とはいえ今はかなり自由度を持って、中抜けも含めていかようにもやってもらっています。「とにかく8時間ワークしてくれればいいです」って。で、そうなると社内では似た環境の人が多いから休みも取りやすいんですよね。時間単位の有給もばんばん使われますし。そういうことを大きくなってきた組織でやろうとすると難しいんですが、別会社に切り出してやってみたというのが我々にとっては1つの事例になりました。

AI、RPAなどテクノロジーを活用することで人材不足を補う

青井浩氏(以下、敬称略):我々はもともと月間残業時間が3時間台ですごく少ないものですから、今はテクノロジーをいくつかの労働集約的な仕事で活用しています。たとえばクレジットカードのプロセッシングと言われる与信業務とか、自前の物流センターにおける業務とか、そういうところではアルバイトさんの力を結構借りていたんですね。ただ、冒頭のお話通り、今は人口オーナス期にあって物流やコールセンターでアルバイトさんが本当に取れなくなってきました。今後もそうした業務は順調に伸びると考えていますが、そのための人員は今後も取れない、という前提でやらざるを得ない、と。ですから物流センターでAIのロボットだとか、プロセッシングでRPA(Robotic Process Automation)だとか、そうしたものの活用は今はすごい勢いで進めています。広い意味では生産性という話でもありますが、とにかく今はアルバイトの方が取れないという前提でテクノロジーを活用している状態ですね。

それとテレワークに関して言うと、今はPCを会社として何千台も購入・支給して自宅でも仕事ができるようにはしていて、これには生産性向上という意味もあります。社員といろいろ話をしてみると、「満員電車に乗って出社して、また満員電車に乗って帰ることにかかる時間と、さらにはその時間以上のストレスが嫌だ」という話になるんですね。朝会社へ来るだけで1日のエネルギーの60%ぐらいを使っちゃう、と。だから自宅でなくカフェでもいいし、最寄りのサテライトオフィスでもいいし、自分の好きな場所でできるようにしよう、と。そのほうが生産性も高まりますし。とにかく、そういう働き方へのリクエストがすごく大きいことが分かったので、どちらかというと今はそこに応えることを優先しています。

西澤:働き方の多様性を受け入れることに伴って、組織として「皆で同じ方向へ進もう」といった統一感が分散してマネジメントしづらくなるような課題もあると思いますが、その辺はどうお考えですか?

青井:私どもも企業文化や理念に関わる対話はすごく重視しています。それで最初は同じ「場」を共有しながら人と人が向き合って対話をしていたし、まさに各種のプロジェクトはそうした活動の代表例だと思うんですが、やはりプロジェクト1つとっても皆忙しいので、なかなか集まれないんですよね。それで今はSlack等を使って仕事を進めながら、たとえば月に1度集まったときは濃密なコミュニケーションを意識するといった状態です。そうなると、漫然と集まって「今日は何を話そうか」といったことが逆になくなっていくわけですね。ですから僕は多様性の受け入れとビジョン等の共有は両立するように感じています。

柔軟に働くためには「時間自律性」を高める必要がある

小室淑恵氏(以下、敬称略):私としてはすべての企業にお勧めしたいことがあります。時間や場所に関して柔軟に働けるようにすることはすごく大事ですが、それをやるために必要で、かつ日本のビジネスパーソンに圧倒的に欠けているのが「時間自律性」なんですね。時間を自分で自律的にデザインして、戦略的に1日を送ること。在宅勤務は推進したいけれど、やっぱり「場所は自由に働きたいけど、午前中はちょっとぼうっとしちゃう」みたいな人は、会社としてはやっぱりオフィスからリリースできないという面もあります。これは日本の教育とも密接に関わっていると思うんですね。日本は、いまだ完全に決められた時間割で教育を行っている唯一の先進国です。他の先進国は「自分のなりたい方向性と、自分の特性を照らし合わせたら、今日は『算数』『算数』『算数』『国語』にしよう」という風に、自分で時間をデザインして学びます。小学校の頃から時間自律性をトレーニングしていくんですね。日本では決められた時間割にそって、皆と同じ行動をすることをトレーニングしていく教育で、ところてんのように社会へにゅっと飛び出した社会人の方々が自由な時間を持つと、それはやっぱり時間を自律的にデザインできずにぼうっとしてしまう。

ですから、たとえば当社では「朝メール.com(通称アサコム)」というサービスが引き合いが強いです。朝、15分から30分単位で自分の仕事内容をブレイクダウンして、上司や同僚へ一斉に送り、夜それを振り返るというものです。朝、上司がそれを見て、たとえば「これはなぜ午後なんだっけ。午前がいいな」と上司から優先順位の付け替えが来たり、「その時間は一緒に作業しよう」と同僚からお誘いが来たり。そんな風にして効率的に連携するためのサービスです。アサコムはそれをグラフで表示してチームの生産性を分析したりできますが、アサコムを使わなくてもメーラー等で誰でも明日からできます。とにかく、権利と義務という意味で言えば、時間自律性を高めるという「義務」を果たしていないと、時間や場所を自由に働く「権利」は手に入れられないのだと思います。どんな業種・業界でもまずはそこからやっていくのがおススメです。

がちがちに管理する必要はまったくないんです。「アサコム」で皆が最も見ているのは、コメント欄です。予定を入力した人が最後に一言「今日は重要プレゼンがあるから、頑張るぞ!」といったコメントなんですね。そこにレスがたくさんつくんですが、これがMITのダニエル・キム教授が提唱している「関係の質」の向上につながっています。生産性を高めようと思ったら、結果の質を問う前に関係の質を高め、グッドサイクルをつくらなければいけないのですが、それが今の日本の組織では、まず結果の質を問うことで関係性も悪くなる「バッドサイクル」になってしまっている、と。そうしたことも踏まえつつ、まずは時間自律性を高めるというのがどの企業もできることなのかなと思います。

「期間当たり生産性」を「時間当たり生産性」に変える

それともう1つ多くの企業にお勧めしたいのが評価の見直しです。住友生命保険さんでは、今年2月から評価形態をガラッと変えて「時間当たり生産性」をシビアに問うものになりました。企業では「本人が望んで働きたい人がいるから、そういう人はもっと働かせてあげたい」という理論がよく出てきます。ただ、8割ぐらいの人は過去に長く働いたことで褒められた経験が成功体験となって、無意識に「長く働くことで褒められる」ことを期待してしまっているだけなんです。組織における評価形態が、それを“つくって”きたんですね。おぎゃあ、と生まれたときから長く働きたいと思っていたわけではないんです。日本企業における今までのそうした評価形態は、一言でいうと「期間当たり生産性」です。ある一定の期間でどれほど山を積んだかが評価されてきましたし、かけた時間は問われません。すると、月末や年度末にエビ反り型で残業して1センチでも高く山を積んでいくことが勝利への道になって、それで皆が残業による「いい体験」を持つようになります。

でも、住友生命保険さんは、どれほど良い成績、仮にトップの成績を挙げても、一定の労働時間を超えたらトップの評価はつかない「時間当たり生産性」を厳しく問う評価形態に変えたわけです。入社してから長くこうした環境で育つと、おそらく多くの人の成功体験は「こんなに短い時間で成果を挙げることができた。それで褒められた」という風になって、そこに喜びを感じるようになる。「時間を長く働くほうが好きです」なんて言わなくなります。そんな風にして、今後はインセンティブの付け方を変えていくことで、生産性を高めていく仕組みづくりが大切ですね。

西澤:ありがとうございます。では、続いて会場の皆さまにもご質問等いただきたいと思います。

質問1)「時間自律性」を高めるためにはどうすればよいか?

青井:今は自分の労働力を時間単位で提供する時代ではないと思っています。昭和はそうだったかもしれませんが、これからは経済が伸びる前提で効率的に仕事をするというより、全体があまり伸びない環境のなか、どのように新しい世界をつくっていくかといったことを考える時代なんだと思っています。そのうえで、たとえばサステナブルなライフスタイルに変えていくことが大事になって、それが仕事の成果としても求められるようになる。そういうときは創造性がとても大事になります。小室さんがおっしゃる通り、私たちは子どもの頃から時間単位で動くことに慣れてきましたが、今後は時間的な効率性でなく創造性を高めることでイノベーションを起こすような仕事をしていかないといけない。ですから、まずは「時間で仕事をするんじゃないんだよ」という風土やカルチャーを共有することが大事になると思っていまして、会社ではその辺の活動を行っています。

山田:時間自律性を高める最大の鍵は義務からの開放というか、時間を搾取されているような感覚でなく、自身の業務にプライドとプロフェッショナリティを感じて創意工夫してもらえるようなマインドを高めることに尽きるんだろうなと思っています。そこで我々は今、マンスリーチェックインという、上長と部下による他愛のないコーヒーブレイクみたいな面談を設けています。これはマネジメントのメンバーからすると結構な負荷だと思いますが、単に自ら掲げている目標の進捗を確認するような面談ではないんですね。その方のライフスタイルの変化や今考えていること、あるいは不安等について、もっと日常的にコミュニケーションして、対話をもっと濃密にできないかというチャレンジです。そういう形で一歩一歩、地道ですが会社と皆さんとの関係性を深めていくことが何よりのベースになると思います。

質問2)「働き方改革で残業代(給与)を減らす」という動きについて、どのようにお考えですか?

田中:残業代に関して言うと、当社は平均残業時間が6時間ですけれども、それでも月に20時間ぶんの残業代を全員に払っています。20時間以上になれば残業代も増えますが、いずれにしても平均で14時間、残業をせずに残業代をもらう状態なわけですね。そんな風に、「これぐらいが理想で、これを超えたらおかしい」というラインで全員に固定残業代を渡す手法は、残業時間削減に大変効果的だと考えています。減らせば減らすほど自分の時給が上がるので。で、最近はさらに労働時間を8時間から7.5時間に減らそうと考えたんですが、そうなると30分残業する人が増えるだけ。それで、基本的に8時間という定時はあるんですが、仕事が終われば30分早帰りできる制度にしました。なので、早く帰れば帰るほど単価が上がるという部分がポイントになるのかなと思っています。

山田:給料のお話に関しては、期待値をずらさないことが大切になるんだと思います。会社と従業員の皆さんとのあいだで互いに抱いている期待値にずれがあると、それが不満になり、結果として会社を去ってしまったり、不満を持ちながらお仕事をすることになるのかな、と。でも、しっかり対話をしてコミュニケーションを取りたい部分と、ある意味では互いにシビアな目で見つめなければいけない部分があると思うんですね。ですから我々は今、全職種についてジョブディスクリプションを明確化しはじめています。採用強化の一環としてはじめたことですが、「このジョブにはこういうスキルが必要で、これくらいの貨幣価値があって」みたいなことを全職種で明確にしよう、と。それにハマるか否かというのは、その人のスキルではなく会社のフェーズ次第だったりするじゃないですか。「この金額でやっていただかなければいけなかった」というケースでジョブがスライドしたとき、本当にその対価のままでいいのかというと、違う部分も出ると思うんですよね。そこは互いがシビアに見つめなければいけない。でも、そのときに会社が長時間労働で縛りつけていたら、その人の可能性を奪ってしまうだけ。ですから副業等で個々にリスクヘッジをしたり、いろいろな将来設計を考えたうえで、その人のスキルがまた別のところで生きたりするようにしつつ、かといって会社を辞めるという選択肢ではなく、「ここの部分で力を発揮してもらおう」みたいな。それこそが自律性なのかなと思います。そういうことを日本でもやっていかなければいけないんだろうなと感じています。

小室:私は「働き方改革」で、今後は浮いた残業代をどうするかというのが、この国のこれからを考えるうえで重要だと思っています。浮いた利益を経営者が召し上げてしまえば経済が縮小してしまうので。三菱地所プロパティマネジメントさんには2年ほどコンサルティングに入らせていただいたのですが、特にすごかったのは、働き方改革を徹底して行って浮いた1億8600万円を「全額社員に還元」した点です。その還元のしかたなのですが、チーム平均として有給を80%以上消化できて、かつ残業時間が月20時間を下回ったら、そのチームをワークスタイルチャレンジ表彰という形で1人あたり6万円を返すというものでした。生産性をあげたチームほど収入が増える仕組みです。それだけ有給を取って残業時間を減らすためにはチーム内で相当協力しなければいけない。だから、そのために仕事の属人化していたものを見える化・共有化する必要が出てくる。マニュアル化したり、互いの生産性を高めるような行動を皆が取ったチームにお金が還元されるわけです。残業代を減らすだけでなく、その還元の仕方によって生産性を高めるインセンティブを働かせたわけですね。

また、その結果としてクリエイティビティの発揮につながって「すごいな」と思ったことがあります。私たちが三菱地所プロパティマネジメントさんへコンサルに入ったとき、最も抵抗したのは営業部さんでした。「俺たちは夜討ち朝駆けでいろいろなテナントを獲得しに行って、大手町全体のビルの床を埋めているんだ」みたいな誇りをお持ちだった営業の方々にとって、私たちは敵のような存在だった。でも、最終的には営業部が一番大きく変化しました。働き方改革をして、家族とのコミュニケーションが増えたら発想が変わってきたんです。たとえばビルを建てるとき、フロアの真ん中に子連れ出勤できる「コトフィス」と呼ばれるスペースをつくろう、と。そんな発想が営業部から出てきました。「これからテナントに入る各企業では子連れ出勤する人が増えてくるんじゃないか?それなら、子連れ出勤しても周囲に迷惑をかけずに仕事ができるスペースをつくれば、その企業は福利厚生をPRできて人材獲得でもプラスだから喜ばれるんじゃないか」と。こういう発想が出てきたのは営業部の方々が働き方を変えたから。それまで会社にずっといた人たちにも家族と関わる時間ができたことで、顧客のことを想像できるようになり、それが商品力につながった。実際、その「コトフィス」があることで、テナント料は上がっても全床が埋まったそうです。自分たちの仕事は「面積×単価」で大手町の土地を売ることでなく、顧客のテナント企業に付加価値をつけることなんだという発想に変わった。ここまで行かないと本質的な働き方改革にはならないんだと思います。今後はそうしたクリエイティビティにつながる事例とともに、「生産性の向上を、どういう風に給料アップにつなげていくのか」といったことが肝になるのかなと思っています。

質問4)AIやRPAの導入について「仕事を奪われるのでは?」といった理由で抵抗に遭ったことはあるでしょうか?

田中:「自分の仕事が奪われるのでは?」というお話ですが、私自身も1ヶ月休んだことで不安になったというお話をしました。結局、「自分はここにいていいんだ」という安心感を得るために、その対価として労働時間を差し出している面があると思うんですね。だから、それ以外の手段で「あなたがいないと困るんだ」ということを1on1できちんと伝えたりして、とにかく安心できれば家に帰ることができるようになる、と。実はそういうことがあると思っているので、最近はその辺をすごく重視しています。

あと最後に1つだけ。働き方を語るうえで、女性や男性といったジェンダーの視点がよく出てきます。で、「女性だから」ということで不利に扱われたことがあるという話は、当社では聞いたことがありませんが、僕自身を振り返ってみるとどうか。5歳の子どもを持つ男性と女性がいたとき、男性には平気で「出張に行って」って言えるんですが、女性にはやっぱり言いにくいというのがあって、これがバイアスなんだと思っています。このバイアスによって、結果として女性に不利な面が出る。男性女性に関わらず、早く帰る人が不利になる可能性というのは、まだ世の中にたくさん残っていると思うんですね。そういうバイアスの改善が必要ではないかな、と。ですから、今は分かりやすいので女性の話をしましたが、早く帰る人や在宅が多い人とか、いろいろなマイノリティがバイアスによって不利にならないようにすることが重要なんだと思っています。だから、うちは役員でバイアステストをやったりしています。自分たち自身にバイアスがあることに気づく。これが働き方改革のなかですごく重要だと感じています。

西澤:ちょうど時間になりましたので終了とさせていただきます。今日はみなさま、ありがとうございました(会場拍手)。

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