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アサヒビールはパンドラの箱を開けたのか?

投稿日:2009/03/27更新日:2019/04/09

3月23日アサヒビールはパンドラの箱を開けたのか?

「うまい」

発売されたばかりの発泡酒「アサヒクールドラフト」を飲んで思わず唸った。しかし、そのうまさゆえに、とある不安を感じてしまった。

クールドラフトのCMがすごい。豊川悦司が射すくめるような鋭い目で語りかける。「一番うまい発泡酒を、決めようじゃないか。」。BGMはロッキーのテーマ。戦闘的だ。アサヒの本気度がビシビシ伝わってくる。しかし、一体誰に対して、「一番を決めよう」と挑戦しているのだろうか。

分析する前に、少しビール類市場を概観してみよう。

かつてビール市場でのシェアが10%を割り込むまでに落ち込んでいたアサヒビール。ご存知の方も多いと思うが、「ビールのうまさは“キレ”」という新たな価値観を訴求した。「スーパードライ」の上市である。シェア50%超えを誇るキリンビールの牙城を切り崩し、一気に首位の座を奪取した。11年前のことだ。

そして、共同通信の記事によると、2008年のビール市場(発泡酒と第3のビールを除く)で、アサヒビールのシェア(市場占有率)が、初めて50%を超えることがほぼ確実となった、という。

一方で、発泡酒と第3のビールを含む「ビール類市場」で見ると、昨今、「ビール」の販売量低下には歯止めがかかっていない。産経新聞の記事によれば、ビールの構成比は46・8%と平成4年の統計開始以来、過去最低の水準であるという。

今回アサヒが勝負をかけてきたのは、発泡酒だ。このカテゴリーには、キリンの「麒麟淡麗〈生〉」という強力なブランドが存在する。スーパードライで起こしたような逆転劇は再び起きるのだろうか……。

■うまさの裏側にある不安とは……

「麒麟淡麗〈生〉」ブランドが誕生して以来、11年。同社のニュースリリースによると、今年1月に累計販売本数が200億本を突破といい、発泡酒売上げ10年連続No.1という王者は、今も堅調な伸びを示している。

淡麗の人気の秘密何か。それは、淡麗の示すポジショニングが如実に表わしている。「爽快なキレのある味と、引き締まった喉ごしを併せ持つ発泡酒」である。

先に述べたビール戦争で、アサヒはビールの「キレ」という新たな価値をキリンに突きつけた。キリンはそれまで、ビールの「うまみ」を訴求していたため、急にメッセージを転換することはできない。「リーダーが顧客に発信してきたメッセージと矛盾する製品を投入する」というチャレンジャーの戦略「論理の自縛化」にはまったわけだ。

しかし発泡酒という新たなカテゴリーが誕生し、自縛が解けた。キリンも「キレ」を訴求するようになった。それが、奏功している。

対するアサヒはどうか。発泡酒のメインブランドは「アサヒ本生ドラフト」である。メインメッセージは『これぞ、コクキレ。飲みごたえの「生」。』

「コクキレ」である。アサヒのお家芸である「キレ」の前に「コク」がきている。実際に飲んでみても、キレよりも、むしろ重たいビールの「味わい」が感じられる。

アサヒが発泡酒においてコクを訴求したのは、自社のフラッグシップ商品であるスーパードライを守るためではないかと推察する。低価格な発泡酒で同様にキレを充足させてしまったら、スーパードライとのカニバリゼーション(共食い)が発生する。ゆえに、キレの発泡酒は作れないというジレンマに陥る。

ビール市場でリーダーとなったアサヒは、今度は逆に、キリンからチャレンジャーの戦略の定石をしかけられたのだ。

今回、アサヒは本生ドラフトを温存したまま、クールドラフトを上市した。広告のコピーは冒頭記した「一番うまい発泡酒を、決めようじゃないか。」である。発泡酒カテゴリーのリーダーである淡麗生に真っ向勝負というわけだ。

負けられない戦いにおいて、やはり決め手は味だ。「キレが、うまさだ。」とのコピーに偽りはなく、確かに喉ごしのキレは抜群でうまい。

味だけではない。パッケージにも並々ならない力のいれようが感じられる。缶の3分の2を占める輝くシルバーの地色は、スーパードライを彷彿とさせ、パッケージを見ただけでもキレを期待させる効果抜群だ。

アサヒが本気になってキレにこだわった発泡酒を作る。確かにうまいものができあがった。ユーザーとしてはうれしい限りである。だが、スーパードライと見まごうようなパッケージと、それに迫る味わいは、少なからずカニバリが発生することが予想される。その程度が「少なからず」というレベルに留まらなければ、さらに傷は深まる可能性もある。

アサヒはスーパードライを自らの製品で喰ってしまうというパンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。これが、冒頭に記した「不安」の正体である。

そのリスクを最小に抑えるためか、スーパードライでは、「うまい!をカタチに!」と称するマストバイ(購入必須)応募型キャンペーンなどを展開し、ユーザーの囲い込みを図っている。

個人的には、アサヒの明確な意志決定を信じたい。ビール市場において不動の1位を確保し、顧客の囲い込みを図るとともに、キリンに頭を押さえ続けられている発泡酒市場においても、カニバリを恐れず、総力戦を挑むという決断をしたということなのだろう。

「一番うまい発泡酒を、決めようじゃないか」との問いには、筆者はこの、「クールドラフト」に一票を投じる。そして、同時に、スーパードライとの関係がどうなってゆくのか。アサヒの製品ポートフォリオ戦略が奏功するのか、その行方が注目される。

  • 金森 努

    グロービス経営大学院 教員

    東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道四半世紀以上。コンサルティング事務所、広告を経て、2005年独立起業。 青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。著書「図解 よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)「”いま”をつかむマーケティング」(アニモ出版)。共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。監修「実例でわかる!差別化マーケティング成功の法則」(TAC出版)。雑誌への連載、講演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。

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