3月12日キムタクCMに学ぶ企業戦略
近頃、気になるニュースには「価格」にまつわるものが多い。先の見えない経済環境の中で、消費者の財布のひもは固いのだ。そんな中、キムタクが出演する意外なCMが、今日の企業の取るべき戦略の方向性を示していた。
2009年3月11日。なんとも景気のいい数字が各メディアに踊った。FujiSankeiBusinessiに掲載された記事『「インサイト」3倍超す疾走月間5000台計画が…受注1万8000台』を見てみよう。
好調の要因は何といっても、ハイブリッド車で、最も安いタイプで189万円からという価格戦略が大きいだろう。「環境に優しい車を買いたい」という意識を持ったり、「燃費のいい車が欲しい」と思っても、200万円を超えるような価格では手が出しにくい。また、本体価格・初期投資の大きさは、それだけ燃費が安くなる効果による投資回収期間が長くなることを意味する。なかなか手が出しづらくなる。
池原照雄氏のコラムがインサイト好調の理由をわかりやすく伝えている。
インサイトは3グレードが用意されており、189万円の「G」は受注全体の4割を占めた。通常は中心価格帯のグレードが売れ筋となるのだが、まさに「庶民のハイブリッド」らしく、ベースモデルの比率が高くなった、という。
ホンダの福井威夫社長のコメントも紹介されている。「『環境』だけでは買っていただけない」。「環境に優しい」というだけではなく、「経済的に合理性がある」という「価値」が求められているのだ。
こうした消費者からの要請を端的に語っているのが、木村拓哉が出演している明治製菓・キシリッシュのCMだ。
■「時代じゃない?」が指し示す消費者心理
「TASTELONG!!おいしさ、長持ち!!キシリッシュ新CM登場!:「なんで?」篇」を見てみよう。
キムタクが擬人化されたキシリッシュを演じ、「味長持ち強化中」と掲げられたスローガンの前で、明治製菓の担当者に扮する芸人と掛け合いをする。
「味、長持ちにしたならオレの給料上げてもらわないと」
「ムリムリ。1粒で味長持ちってコトは、売上げ落ちるかもしれないんだよ」
「じゃぁ、何でそんなコトすんの!」
「知らないよ。時代じゃない?」
さらりと、「時代じゃない?」と流されているが、まさしくそれが今日の現実を表わしているといえないだろうか。消費者が求めているのは、従来以上のコストパフォーマンスであり、明確な価値の向上が売れるための必須条件となってきている。
そのお手本ともいえる戦略を一層加速したのが、ユニクロを展開するファーストリテイリングだろう。今度はFujiSankeiBusinessiの記事『「990円」ファストリ自信激安ジーンズ、ジーユーに投入』を見てみよう。
ジーユー(g.u.)はユニクロより低価格な衣料を提供するためのブランドとして2006年の発足して以来、イマイチ成長の軌道に乗っていなかった。
その現状打破のために思い切った低価格戦略が打ち出されたのだ。これまで「ユニクロの3分の2程度の価格帯」を基本戦略としてきたが、ジーンズの990円に代表されるように新たな低価格戦略では、全商品の約8割がユニクロの半値以下になるという
「価格を上回る価値」という時代の要請に対し、柳井社長は明確な戦略を提示している。
「ユニクロは(全国規模で販売される)ナショナルブランドの商品と比べても品質は高いが、最低価格では提供できない。まあまあの品質で低価格のものを求める人はジーユーでお願いしたい」
通常は製品の「価値」と「価格」は正比例の関係にある。低価格なものは価値が低く、高価格なものは価値が高い。それを「バリューライン」という。しかし、今日の時代の要請は、「バリューライン上で戦っていたのでは生き残れない」ことを意味している。バリューライン上にあるということは、消費者にとっては「アタリマエ」と映るからだ。
ユニクロは中価格・高品質という「高価値戦略」、ジーユーは低価格・中品質という「グッドバリュー戦略」で展開するということだ。つまり、価格以上の価値を提供せよという消費者からの要請に、低価格でも、中価格でも応えられるようにブランドのポートフォリオを明確に定義したわけだ。
菓子、車、アパレルと業態は違うが、激変する経済環境に適応するため、必死になっている。指し示すベクトルは一緒だろう。「価格以上の価値を提供し、消費者の財布の紐をゆるめる」。そのために、汗をかき、頭を使う。なぜか。
「時代じゃない?」