スタートアップの失敗は減らせる――起業家に必要な学習とは?

スタートアップサイエンス

ここ数年スタートアップ・ブームが続いています。ITの普及や支援制度の拡充、さらに投資の拡大など、さまざまな後押しを受けて誰もが起業しやすい環境が整ってきました。そこで、今回はこれまでベンチャーキャピタリストとして1500社以上のスタートアップを支援し、グロービス学び放題では「スタートアップサイエンス」コースで講師を務める田所雅之氏に、起業の成功率を高める考え方について伺いました。

「失敗」をパターン化することで成功の可能性を上げたい

スタートアップの失敗パターンを中心に分析したスライド「Startup Science」が世界中で話題を呼び、そのスライドをまとめた書籍『起業の科学 スタートアップサイエンス』もベストセラーとなった田所氏。シリアルアントレプレナーとして日米で5社を起業し、さらにベンチャーキャピタリストとして数々の起業家のメンターやアドバイザーを務めるなかで、「スタートアップの世界には知識やノウハウの蓄積がない」と感じ、「失敗のパターン化」に取り組み始めたそうです。

「1500社以上のスタートアップを支援することで、このように進めたら失敗するだろうという予測ができるようになってきました。私は書籍の中で成功するスタートアップがやるべきプロセスを20ほど書いているのですが、スタートアップで一番大事なのはプロセスごとにやることと、やらないことを適切に判断・実行することだと考えています」

たとえば、よくある失敗パターンの1つが「時期尚早に拡大する」こと。これは、ラーメン屋でいえば、美味しいラーメンを作る前に「うまいラーメン屋」と名乗る看板を出してしまうようなものだそう。

「マーケティング出身者だと、美味しいラーメンができる前に看板を作ってしまうようなことがあります。本来、スタートアップはまず美味しいラーメンを食べさせる体験からやり、そこからプロダクトマーケティングをして宣伝していくという道筋があるのですが、残念ながらこれまではプロセスごとにまとまった知見がありませんでした。僕自身が起業家として失敗した理由も、この“時期尚早の拡大”パターンでした」

ちなみに、「startup science」はスタートアップの無駄な失敗を減らし、早く次のステージで戦って欲しいという想いを元に追記を進めた結果、現在では2550ページを超えるボリュームになっているそうです。

「起業のカジュアル化」がはらむ危険性とその本質

では、「startup science」のような情報を参考にしていくことで、スタートアップは以前よりも失敗を防ぎやすくなったのでしょうか。

「2006年に会社法が変わり、会社を設立する際に必要な経費が下がったことで、気軽に起業してしまう人が増えました。しかし、起業のプロセスにおける基本的な原則は変わりません。たとえばブロックチェーンやAIなど新たな動きが出てきていますが、顧客のニーズを深掘りしてヒアリングし潜在的なニーズを見つけ出す、といったプロセスは変わりません。もちろん、医療系のような倫理が関わるところは例外で、過去に使用可能だった技術が安全性の問題から使えなくなるなど、法制度の影響を大きく受けることもあります」

つまり、便利な情報が増えたとはいえ、顧客の真のニーズを発見していくことをはじめとした、ビジネスの原則的な進め方は変わらないわけです。

さらに、田所氏はスタートアップのメンタリングで「誰のどんな課題をどのように解決するんですか」とよく問いかけるそうですが、「どのように」の部分は個々人の認識にブレがなくても、「誰のどんな課題を」の部分ではばらつきが起きることが多いとか。

スタートアップにとって事業の核心となるのは、「誰のどんな課題をどのように解決するか」を組織の共通認識にすることです。そのために必要なのが「学習」です。学習とは、まず仮説を構築し、ヒアリングを通じて課題への解像度を上げ、それを検証していくことです。スタートアップはこの学習にフォーカスすべきだと、田所氏は強調します。

それができていない状態では、お客さんの目線から見て本当に価値があるものではなく、自分たちのつくりたいものを作ってしまうことになりかねません。

暗黙知を形式知に変える

この「誰のどんな課題をどのように解決するか」について言語化することは、現場の暗黙知を形式知に変えることにもつながります。

「スピードが速く個々人の裁量が大きいスタートアップの現場では、一人ひとりの経験が判断に直結します。しかし、多くの場合、こうした一人ひとりの暗黙知を形式知としていくことは後回しになっています。

暗黙知の源泉となっているのは現場が向き合っているお客様の声ですが、すでに顕在化した声だけではその裏にあるニーズに気づくことができず、事業を成長させていくには不十分です。社員の言葉とお客様の行動の矛盾を深掘りすることで、お客様が言語化していない課題を見つけることが、重要なのです。これを『ストーリーファインディング』と呼びますが、このプロセスを通じて暗黙知として言語化していないものを形式知にしていけるんです」

こうして課題を導き出したところで、仮説検証をしていきます。

「スタートアップが仮説検証にかけられる時間や予算は有限です。そのために、成功や失敗の法則を科学的に導き出すことが重要です。プロトタイプは、全方位的にやるのではなく、この瞬間満たされていないお客様の課題に対して作るべきです。たとえばFacebookは最初デートアプリで、そこにフォーカスしたんですよね。ハーバード大学内のデートアプリとして提供開始し、他の大学、高校でも使えるように広げて、一般人のネットワーキングサービスとして浸透させていったのです」

起業家が取り組むべき「ストーリーファインディング」とは

最後にスタートアップを志している起業家へ向けて、お客様の行動原理やその奥にある課題を見つけ出す「ストーリーファインディング」の重要性について語っていただきました。

「今やっていることを当たり前と捉えるのではなく、『そもそもこのやり方でよかったのだろうか?』と少し俯瞰して考えてみることがとても大切です。自分自身が顧客だと考え、『本当にこれでよいのか?』と自問することで、顧客の声の本質が探りやすくなります」

スタートアップが向き合うべき本当の課題は、顕在化されたお客様の声や数字情報だけを闇雲に分析しても特定できません。特にこれから起業を考えている方や起業したばかりの方は、今向き合っている前提を疑ってみることや、本当にこれでいいのかと考えることができるようになると、自らの事業を成功に導いていけるのではないでしょうか。

田所氏が講師を務めるグロービス学び放題の「スタートアップサイエンス」では、新規事業やスタートアップの失敗をつぶすコツを事例と共に紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。

RELATED CONTENTS