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イニエスタの年俸は広告宣伝費なのか?

投稿日:2018/06/06更新日:2019/04/09

イニエスタスペインの名門FC・バルセロナのレジェンド、そしてスペイン代表として2010年南アフリカ大会ではスペインを初優勝に導いたイニエスタ選手(以下、イニエスタ)の、ヴィッセル神戸(以下、ヴィッセル)への完全移籍が発表されました。

Jリーグへの完全移籍もさることながら、その年俸額も世界を驚かせました。日本円に換算して約32.5億円と推定され、Jリーグ四半世紀の歴史上、文句なしのナンバーワンの年俸額となる見込みです。

ところで、公表された資料によれば、2017年度のヴィッセルは1億5,500万円の赤字を計上しています。また、純資産は800万円で、2018年度に純資産を上回る赤字を出せば再び債務超過に陥ることになります。ヴィッセル、あるいは親会社である楽天がイニエスタの巨額の年俸をどう賄うのかにも注目が集まります。

また、Jリーグのクラブライセンス制度では競技、施設、組織運営等様々な基準から審査されますが、チームの運営会社の財務の健全性も重視されます。例えば、3年間連続赤字や債務超過はライセンスはく奪(Jリーグから退会)要件に該当するとも言われます。そうなると、イニエスタの年俸がどのように会計処理されるかはヴィッセルの財務状況に大きな影響を与えることになると思われます。

今回は、イニエスタの年俸を例に、スター選手の会計処理について説明します。ヴィッセル及び楽天(連結決算)が実際にどのような会計処理をするかは明らかにされていませんが、ここでは人件費の一般的な会計処理を前提に説明したいと思います。

スター選手の年俸は広告宣伝費か?

イニエスタの加入でヴィッセルに対する注目度は高まり、チケット収入、広告料収入、関連グッズ等の売上高増加が期待されます。イニエスタのワイナリーで誕生したワインの販売権や、彼の肖像権を利用したグッズ販売などによって、ヴィッセルの実質負担は10億円程度ともいわれます。ヴィッセルにとってイニエスタの獲得による広告宣伝効果は絶大と言えるでしょう。

ところで、プロフットボールチームの選手の年俸はどう会計処理されるのでしょうか。詳細な決算書が公表されている例は少ないのですが、コンサドーレ札幌などの決算書を見ると、選手の年俸は売上原価の一部(チーム活動費)として計上されています。業種によって売上原価のとらえ方に多少の違いはありますが、サービス業ではサービスを行う人員の人件費は売上原価として計上されますので、それと同様の取り扱いであると考えます。なお、チームの運営スタッフの人件費は販売費及び一般管理費(の人件費)として計上されています。

プロスポーツ選手の中にはチームの広告塔としての役割も期待され、実質的に広告宣伝費的な性格も帯びていることは事実ですが、会計実務においては年俸(人件費)の一部または全部を広告宣伝費として処理することは一般的ではありません(※)。

また、仮に年俸の一部を広告宣伝費として処理しようとしても、広告宣伝費部分をどのように区分するかの合理的な基準を設定することは容易ではないでしょう。プロスポーツ選手に限らず、広告宣伝部門の人員の人件費も販売費及び一般管理費の人件費として処理されます。紙面広告、CM、キャンペーン活動等個別の広告宣伝活動に費やされた費用が広告宣伝費として計上されるのが一般的な取り扱いと考えます。

スター選手の年俸はチームの投資ではないか?

イニエスタとの契約期間は3年とされています。契約満了までヴィッセルでプレーすると、年俸総額は100億円以上とのこと。イニエスタによってヴィッセルのファンは増えるでしょうし、きっかけはともかくチームに対する愛着も芽生え、イニエスタとの契約終了後も継続してファンあり続けるでしょう。また、イニエスタの加入により、チーム総力のレベルアップも期待できます。ヴィッセルも親会社の楽天もイニエスタとの契約の効果は3年のみでなく、その後も継続して期待されると考えているのではないでしょうか。

また、グループ会社のヴィッセルでイニエスタがプレーすることは、親会社の楽天にとっても今後のグローバルでの企業ブランド価値の向上につながる期待もあるでしょう。そう考えると、イニエスタへの年俸はワンショットの費用ではなく、先行投資としてB/Sの固定資産に計上すべきという意見があるかもしれません。実は、これは以前説明した「研究開発費」の会計処理と同じ論点です(参照:会計では研究開発は投資とみなされないの?)。

会社は、将来の売上、利益の増加を期待して研究開発へ投資します。将来の成功が確実であれば研究開発費をB/Sに計上することも考えられますが、研究開発時点で将来の成功が確実とは言えません。このような状況で研究開発の成否を会社の判断に委ねると、場合によっては投資(B/S)と費用(P/L)の判断に恣意性が介入する恐れがありますし、会社間の決算数値の比較可能性が保てません(投資としてB/Sに計上されればその分費用が減少して利益が増えます)。

イニエスタに限らず、人件費も同様に考えます。会社は会社の将来への投資として人材の採用、教育研修等へ投資をしますが、投資の時点で将来の成果を確実視できるわけではありません。したがって、人件費は年度ごとに全額費用として会計処理されます。

なお、当コラムは会計ルールと一般的な会計慣行を基に記載しています。ヴィッセル及び楽天の実際の会計処理を確認したわけではありませんのでご留意ください。

※研究開発部門の人員の人件費は、研究開発部門で発生した他の経費等と合計して「研究開発費」として販売費及び一般管理費へ計上します

 

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