楽天が6月にも社債を発行し、最大2,000億円を調達するとの報道がありました。目的は、2019年10月から開始する携帯電話事業に必要な全国規模の無線ネットワークなどの投資資金(合計約6,000億円)の一部を賄うためとのことです。今回、楽天が発行する社債は、「劣後債」という種類の社債です。
劣後債は、一般的な普通社債に比べて元本及び利息の支払い順位が低い(劣後する)社債を言います。社債の一種ですが株式に近い性格を有しています。例えば、自己資本規制が厳しい銀行などは劣後債で資金調達することが一般的ですが、これは銀行の資本を計算する際に劣後債の一部を自己資本と見なすことができるためです。また、投資家にとっては普通社債よりも元本及び利息を受け取れないリスクが高まる分、高い金利が設定されます。
劣後債の発行体(以下、企業)と投資家にとってのメリット、デメリットは以下の通りです。
【企業のメリット】
・資金調達コストが(新株発行に比べて)低い
・利払いを税務上費用に算入可能なため節税効果が期待できる
・(新株発行に比べて)経営支配権への影響が小さい
・(新株発行や転換社債に比べて)株式希薄化の影響がない
【企業のデメリット】
・(普通社債に比べて)金利が高い
【投資家のメリット】
・(普通社債に比べて)高利回りが期待できる
【投資家のデメリット】
・(普通社債に比べて)支払い順位が低いため、発行体の財務状況によっては支払を受けられない可能性がある
いずれも普通株式、普通社債と比べた場合の相対的なメリット、デメリットになります。このように、劣後債は普通社債と株式の中間的な性格を持つため、「ハイブリッド債」とも言われます。
楽天の資金調達の使途は携帯電話事業参入のための投資資金であり、投資資金の回収が長期にわたることを考えると、株式のような返済を必要としない安定的な資金で賄うのが財務安全性の面からは望ましいでしょう。
一方で、資金調達コストや経営支配権への影響の点から社債のような負債に利点があります。楽天は市場競争のための先行投資が嵩み、足元の自己資本比率が悪化傾向にあります。携帯電話事業への投資資金を全額負債で調達すると、さらに財務安全性の悪化となります。劣後債は、会計ルールでは負債に区分されますが、信用格付けにおいてはその一部を自己資本にカウントされます。今回の楽天の劣後債の発行は、以上を総合的に検討した結果ではないかと考えます。