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中国発、経営現地化の取り組み――いかに本社を巻き込み形にしていくか?

投稿日:2018/03/09更新日:2019/04/09

海外事業において、「どのように経営を現地化していくか」「現地で活躍するリーダー層をどう増やしていくか」「経営機能を現地にどう移管していくか」は、多くの日本企業が抱える主要テーマの1つです。しかしその具現化においては、多くの難所が存在します。代表的なものが「事業部とスタッフ部門の壁」と「日本本社の壁」です。駐在員が見えている現実に対して本社との温度感を埋めることができないことに、多くの駐在員が悪戦苦闘しているのが現実ではないでしょうか。今回この壁を越えて現地化を推進している住友電工管理(上海)有限公司 人事総務部長​の藤原知広氏にお話を伺いました。

対象者も、仕組みもないところからスタート

加藤:まず住友電工の中国展開の歴史と成果を教えていただけますか。

藤原:1991年に「駐在員事務所」という形で北京に出たのが最初です。以降、当初は人件費が安い製造拠点として進出。日本でもともと行っていた人手のかかる製造の仕事や日本からの製造委託業務が中心でした。現在、従業員数としては、中国エリアで4万8000人、グローバルでは24万8000人です。

加藤:中国で現地リーダーを輩出する取り組みを始めたきっかけは。

藤原:中国に進出してから20年以上が経過し、今や当時入った社員が会社の中心になっています。さらに、中国の市場としての価値が高まるのに合わせて営業拠点を増やしてきましたが、日本人だけが管理するのは限界であると。中国の人に管理をお願いするならば、個社や自分の視点にとらわれず、視野を広げて仕事をしてもらわないといけない。そういうタイミングでした。

一方で、住友電工グループ全体では「グループグローバル幹部」を認定しています。現在、全世界で35名が認定されていますが、中国は2名だけです。中国でその2名に続く人はどれぐらい候補者としていて、それは誰なのか、全く明確ではない状態でした。さらに、中国エリアの中で、グローバル幹部を計画的に育成していく仕組みもなかった。まずは対象を明確にし、計画的に育成活動をしていこうというのが始まりです。

現地の経営陣を巻き込みながら仕組みを具現化、実践活動にこだわる

エリアコミッティ加藤:取り組みの全体像を教えていただけますか。

藤原:この活動を始めるにあたって、人事の思い込みで進めてしまわないよう、まず中国の主だった主管者と総経理、15人にお願いをして「人材育成委員会」というものをつくり、意見をもらいながら施策を決めていく枠組みにしました。これが2015年です。

最初に中国の幹部には何が求められるのか皆さんの意見を聞き、中国版のリーダーシップ・アトリビュート(リーダーシップ指標)をつくりました。そして、各社で以前からやっていたコア人材の抽出をする評価の中に、「中国の幹部に求められるもの」という評価を入れることにしました。

結果、中国の中では三百数十人、コア人材のマネージャーがいることが分かりました。その中に、中国の幹部として育成していく対象の人はどれぐらいいるのか、リーダーシップ・アトリビュートと外部のアセスメントを参考にしながら、現地での幹部リーダー人材候補を決めました。

幹部人材育成プログラムの第1期は2016年の1月から実施をしており、今期で3期目になります。「知識教育」「マインドセット」「アクションラーニング」の3本立てになっていて、アクションラーニングの中では我が社が抱える中華圏の横断的な課題を彼ら自身に設定させます。そして、解決策を12月に日本から社長を招いて開催する主管者会議の場で提案してもらいます。さらに、その課題については提言して終わりではなくて、報告した人たちが研修後にそのままエリアコミッティーに属し、「エリアコミッティーの活動」の中で実践して解決していくというところまでやるのが、この枠組みの特徴の1つです。

加藤:実践にこだわった理由は。

藤原:リーダーシップ・アトリビュートをつくったときにいくつかの弱点が抽出できました。視野が限定されている、課題の抽出ができない、人材育成をするのが苦手、その3つです。人材育成については個社でやっていただくとして、1番2番についてはこの一連の枠組みを通して、実践しながら身に付けてもらおうということです。

加藤:エリアコミッティー活動というのは、もともとは御社の北米でやっていた枠組みとか。

藤原:北米はグローバル幹部人材が多数いるので、グローバル幹部人材だけでエリアコミッティーを運営しています。その下に、例えばものづくりでいいますと、各社の製造マネージャーをワーキングチームという形で取り込んで実践活動をやったりしています。これをエリアコミッティー活動と言っています。同じようなことを2015年に全世界でやりましょうという話が日本の本社で挙がりました。

ただ、中国ではグローバル幹部人材が2人しかいないので、北米と同じようなコミッティー活動はできません。そこで、この幹部人材育成プログラムの修了者をエリアコミッティーの中に入れて、一緒に活動していくことを思いつきました。米国とは少し違う形ですが、本社主導の枠組みにこちらが入ってしまい、その一連のものにすれば、活動にお金を使うことも、支援を受けることも、かなり容易になります。

例えばアクションラーニングもエリアコミッティーも、社長に中国に来てもらって最終報告を12月に毎年やるという枠組みにしています。そうすると12月までに成果を出さないといけません。ですから、みんなそのサイクルの中で活動をしようということになります。

全社もエリアコミッティー活動の一部だということで、この実践活動をやることによって、日本の関係部門、主管部門、ものづくりでしたら生産技術部とか、PRでしたら広報部とか、人事部も人材開発部も支援をしてくれています。

日本本社のイニシアティブ/枠組みにのせることで影響力を高める

加藤:他社でよく聞く難所として、「日本本社や現地事業部の巻き込みが難しい」という話があります。

藤原:日本、あるいはグローバルで認知をされている枠組みと連携した形に落とし込むと、日本側は公式な形で支援をしやすくなります。それができたのがポイントの1つだと思います。

もう1つは、幹部人材育成プログラムについては、個社が参加費用を払うということになるとコストがシビアで参加させられませんと。「うちは金ないから無理」とか、本当は2人出してほしいのに「1人しか駄目です」ということになる。そうすると、本来受けるべき人が受けられないということになります。そこで、グループの人材育成として住友電工本社に費用負担を要請しました。そうすることで、本社が費用負担することに正当性も出てきます。

WeChat実際、今回の取り組みでうまくいっているものに、中国での広報・PR活動の改善があります。これは、今回の中国主導での取り組みがあったからこそ改善できたものです。というのも、今まで中国の広報・PR活動は、日本のホームページの一部分を翻訳業者に頼んで中文訳してホームページに載せたり、問い合わせの対応をするぐらいしかやっていませんでした。しかし、幹部人材育成プログラムの1期生の人たちが、アクションラーニングの最終報告で「PR活動をやらなきゃいけない」「これは必ず商売に結び付きます」と言って、幹部の了承を得て中国版の独自のホームページとWeChatをつくったんです。

そういう元来は日本の広報部がやるべきことを中国人スタッフが自分達で考えて、企画して、毎月の原稿を出して、WeChatにどんどん新しい情報が入っていくと。2017年11月にスタートしたばかりですが、すでに12500人からフォローされています。

加藤:一般的に、日本本社に対して影響力を発揮するのが難しい、巻き込み切れないという話をよく聞きますが、そこに対する突破口はありますか。

藤原:本社の枠組みや目標にうまく乗って、そこで1回成果をだしてしまうと楽ですね。これまでの取り組みを通じて本社社長も来る主管者会議で、中国事業の関係者がこの報告の様子を見ています。そのため、2018年の第3期の幹部人材育成プログラムは20人の参加を見込んでいたところ、参加したいと言う声が多く参加者が28人になりました。成功の形を見てもらうのは、大きいと思いますね。別に何か認定書をもらうとかお金もらうとかいうわけではないですし、参加者は大変だとは思いますが、中国人スタッフはあの場でローカル幹部として認定をされたいですし、日本人もあの場にスタッフを出したいと思ってもらえているようです。

駐在員の最短任期3年で成果を出す目標を設定

加藤:3年で現地リーダー人材を輩出するというお話がありましたけど、藤原さんのミッションとしてもともとそれが強くあったのでしょうか。

藤原:住友電工が2011年に「Global Human Resource Management Policy」という、HRMポリシーを出しました。そこには定性的な文言だけが書いてあるので、それにのっとって具体的な施策を考えるというのが私たちの仕事です。

私は中国に来るときに「グローバルHRMポリシーの中国での具現化が君のタスクだ」と言われました。具現化するためには何をしたらいいか考えると、ローカル幹部の育成を目に見える形で推進していくことだと思いました。それを短ければ3年の任期の中で成し遂げるために、3年という期限を区切りました。

加藤:何が一番大変でしたか。

藤原:例えばアクションラーニングの活動とか、エリアコミッティーの活動も、1年間会議をやりました、みんなで一生懸命議論しました、けど成果は出ませんでしたっていうようなことには絶対したくなかった。実績や成果に結び付けていかないと後に続かないし、彼らの自信にも結び付かないので、とにかく目に見える成果に結び付けたいと。過程があれば成果はどうでもいいっていうことには、私の判断基準だと絶対にならないですね。

加藤:アクションラーニングの今回の成果は発表しておしまいではなく、その後の部門横断のエリアコミッティーという目に見える活動につなげることだと定義したのですね。

藤原:そういうことです。アクションラーニングで本社の社長に「やるべき」と提案したものを、1年かけてエリアコミッティーで形にして、次の年の12月に報告すると。彼らは結構大変だと思うんです。先ほど紹介したPR活動の件は、主管者会議の前に必ずリリースすると言ってリリースして、フォロワーを集め始めて、どんなに忙しくてもやってくれるんですね。今までは個社の仕事をしていた、広報なんか全く関係なかった中国人スタッフが、それを一生懸命勉強してやるというのは実践活動としてはすごく自信になる。本社とのつながりもできますよね。

事業への直接的な貢献の創出のために全体パッケージを描く

加藤:結局のところ、続く上でのポイントは何でしょうか。

藤原:意味のあるものでないと駄目だってことですね。「なるほど、この活動はいいね」とか「こんなことやってるのか」と、みんなに認知し、評価してもらう、それから、エリアコミッティーでも、うまくいっているコミッティーと、そうでないコミッティーは実際にはあります。できるだけ全部が成果に結び付いていくようにして、最終的には事業の役に立ったと皆さんから言ってもらえるようなものになると、もっといいですね。

加藤:成果に結び付けるために、本社の仕組みと現地の仕組みをつなげてパッケージをつくり、その仕組みを機能させるために、関係する人と人、分散する情報と情報を統合していくように意識していらっしゃる。

藤原:それぞれの施策がぶつ切りになっている状態よりも、全てのものがパッケージになっているほうが成果としても出やすいですよね。「全部これはセットです」「この話はこの全体の中の一部分です」とメンバーにも繰り返し言っていました。それぞれが違うものだと思っているのか、それが全部つながっていると思うのかで、だいぶ発想が変わってくると思うんですよね。

今後の課題は、商売につなげるところですね。アドミだけの話に終わってしまうと、賛同を得られるのは一部分の人に限られてしまいます。事業に対して、商売に対してのプラスが出てきた段階で、また1段、社内のサポーターも活動の意味も、大きなものになると思っています。

インタビュー後記:

私は現在、中国の日系企業の経営陣や企画部の皆さんを対象に現地化推進のお手伝いをしています。そこで異口同音に出てくるのが、「多くの関連会社があって足並みがそろわない」「日本本社が現地のことを理解せず動きが遅い」というものです。

今回藤原さんの話を伺って、成功のカギは以下の3点であると感じました。
1) 現地経営陣メンバーの会議体を組成。定期的な意見交換を通じて問題意識レベルを共有化する
2) 本社の巻き込みは、トップを巻き込みながら本社のイニシアティブ、戦略に乗せる形で具体化する
3) 個別施策ではなく、全体パッケージとして提示することで、コミュニケーション効率を上げ、勢いを作る

1は言わば仲間作りです。ポイントは、まずは誰もが納得、共感する問題意識の共有化から始めることでしょう。逆に言うと、打ち手の詳細や制約条件となる費用の話は一旦置いておく。「人材の現地化を進める必要がある」ということを共有し、その解決をしていこうというムーブメントを現地サイドでつくることが重要と感じました。

2の本社の巻き込みは、多くの駐在員の方が難所にあげる点です。藤原さんのお話からは、本社の視点から「現地化をどのように位置づけたら本社にとっても意味があり、動くインセンティブになるのか」を考え抜いていることが伺えます。本社と現地は対立構造になりがちです。そうではなく、相手の文脈で共通の目標を設定し、協力構造を作ることがカギです。そうすると、平たく言えば、お金や人といったリソースを引き出しやすくなると感じました。そのためには、本社の中期戦略、今年の重点目標、それを推進する部署のキーマンやトップとの関係構築、情報収集といったことが求められます。加えて、藤原さんには本社で藤原さんをサポートする上長の存在も大きいと感じました。

3の全体パッケージで推進していくことによって、都度都度のコミュニケーションが不要になります。今回も、現地経営メンバーの巻き込み、現地リーダー人選の基準つくり、アセスメントによる選抜、育成、実践活動へのつなぎこみ、その活動の日中各事業部からのフォロー、活動の本社社長に向けたプレゼンテーション、そこでの成果の認証と推進へのお墨付き等それぞれの施策と巻き込みが個別ではなく、パッケージとしてきれいにつながっているのが確認できます。

最後に藤原さんから「3年で成果を出す」という話がありました。短い任期を嘆く駐在員もいますが、目標を立てて巻き込んでいけば3年で1つのことを形にするのは不可能ではないと、私自身も駐在員として士気を鼓舞されたインタビューでした。

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