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礼儀作法と躾の子供囲碁合宿〜3)囲碁の「研修」

投稿日:2009/08/26更新日:2019/08/21

スケジュール表には、「研修」と書いてあるのが、囲碁の学びの場なのである。この研修の時間がやたら長いのである。一日目が午後から6時間、二日目は9時間、そして、三日目も7時間強打っているのである。文字通り、朝、昼、晩打ち続けるのである。その間15時には、お菓子の「配給」があり、おせんべいやバームクーヘンが配られるのである。皆静かに座って、ささやかな休息を楽しむのである。ペットボトルなどの飲み物は、持ち込みが禁止されている。唯一ゆるされるのは、水筒に入ったお茶だけであった。

肝心の「研修」の中身であるが、今回の合宿ではリーグ戦を行うことになっていた。「今回の合宿では」、というのは、毎回違うらしいのだ。以前は合宿中ずっと「詰め碁」をやらされて、対局をできなかったこともあるのだという。

今回は、A、B、Cの3つのリーグに分かれて総当たり戦で戦うのである。僕は初段程度ということで、四男と一緒にBリーグに入った。次男と三男は、Aリーグに入った。二人とも6段程度であったが、リーグの中には、彼らよりも強い人が何人かいた。

Bリーグには、14名が所属していたので、合計13局打つことになる。リーグ戦を二巡したので、合計26局。そして、その合間に指導後を3局打つのである。そして最後に連碁(全員が二つのチームに分かれてリレーのように各自が一手ずつ打つ碁)を行うので、合計30局前後を3泊4日で打ち切るのである。

「子供と同じ行動をしてもらいますよ」というコラム1)の冒頭の言葉の意味は、僕にも「全ての対局を子供に混ざってしてもらいますよ」ということを意味していた。特別扱いは無いのである。

持ち時間は各30分ずつである。対局時計を使っての総当りのリーグ戦なので、サボろうにもサボれないのである。対局が終わる前に、次の対局予定者が、「次、お願いします」と頭を下げてくるのである。強制的に全員と打たなければならない。終わったらすぐに次の子供との対局である。子供は、基本的に早碁なので、テンポが早い。なかなか読みのスピードに付いていけないのである。2、3局打つと、頭が朦朧としてきた。4、5局目になると負けが先行しているせいもあって、精神的にも打ちひしがれいていく。7、8局目になると、今度は腰や背中に疲労がたまってくるのである。今度は体力との勝負である。「何でこんなことをしているのだろうか」とさえ思えてきてしまうのである。

この囲碁合宿に参加しているのは、原則子供ばかりであった。未就学児が1人、小学生が20名強いて、中学生が数人いて、高校生が1、2名であった。参加者が33名で、スタッフが11名の総勢44名の陣容であった。大人は、僕以外に1人だけ参加していた。この方は途中で帰られてしまったので、結局最後まで「完走」した大人は、僕1人である。

今分先生が、二日目に「きついスケジュールですけど、結構大丈夫なんですね」と僕に声をかけられた時に、何て答えるべきかとふと考えてしまった。そして、僕の口から出た答えが、「意外に適応力がありますから」であった。確かに適応力が無ければやっていけない。先ずは、宿泊施設である。参加費が3泊4日で4万円程度と格安だったので、たいした宿ではないと理解していたが、やはりひどかった。電波も届かないから、仕事もできない。インターネットにダイヤルアップしようかと思ったけど、そんなことができるような環境ではないのだ。そもそも部屋には電話もトイレも無いのだ。6畳間に4人で泊まるような、公営の山村体験施設なのである。こんな宿に個人でも社用でも泊まることは先ずないのである。

しかも、対局相手は原則全部子供である。囲碁は決して強い方ではないので、負けが続くと泣きたい気持ちになる。さらに、この過酷なスケジュールである。一生徒として全て参加する合宿なのである。学長や経営者の立場では、考えにくい待遇なのである。「適応力」が無ければできないのである。でも、僕のこの「適応力」のお陰で、海外でも、ベンチャーの世界にでも、リーダーが集うコンファレンスにも迷わず飛び込んでこられたのであろう。

3日目の午前中にリーグ戦の一巡目が終わった。僕の戦績は、5勝8敗のボロ負けであった。二巡目は、3日目の午後から始まり、その夜遅くにほぼ終了した。二巡目は、勝ち越すことができて、上位の対局者にはことごとくリベンジすることができた。この合宿中に少しは強くなったようである。そりゃあそうである、これだけ打っているのだから。思い起こしてみると、40歳で囲碁を始めて、一年間で初段となって以来あまり囲碁を打ってこなかったのである(コラム:「囲碁と経営」その1参照)。41歳から47歳までは、囲碁の側面では適当にしかやって来なかったのである。これを機会に、もう少し強くなって段位を上げたいという気持ちがもたげてきていた。

Aリーグの一巡目は、次男は8勝4敗の同率優勝で、三男は7勝5敗の一勝違いの3位であった。二巡目は、次男が一つ級(段)を上げたので、勝ちにくくなったが、三男は再度7勝して、またまた惜しくも一勝違いの2位となっていた。僕と同じリーグに所属する四男は、かなりボロボロだった。

4日目の朝からは、表彰式であった。室長である今分先生に向かって全員畳に正座をしている。目の前には背の低い折りたたみ式の机である。昔の寺子屋がそうであったかのような雰囲気を彷彿させた。

先ずは、Aリーグの成績発表である。次男が優勝の賞状と副賞をもらいにいく。先生の前で正座をして、一礼をしてから賞状をもらうのである。三男が3位の賞状と副賞をもらい、そして、二巡目には、再度呼ばれ2位の賞状を受け取っていた。四男は、敢闘賞であった。確かに、「敢闘」していたと言えよう。

僕は、最後の最後に呼ばれた、「いっぱい子供と打ったで賞」というものであった。思わず笑みがこぼれてしまっていた。僕は、「ハイ」とキチンと返事をして、室長の前に正座をして、賞状を受け取った。そして一礼をして席にもどった。確かに、いっぱい子供と打ったのである。

「子供とあれだけ多く打ちながらなかなか健闘していますね。普通、子供のペースにかき回されて対応できない人が多いんですが」と褒められたときに、僕は、こう答えた。「あれだけボロボロに負かされたから、少しはリベンジしたいですからね」、と。

「リベンジ」という言葉が適切だったかどうかはわからないが、僕なりに気合を入れて、頭を働かせて打ち続けてきたのは、事実である。「いっぱい子供と打ったで賞」というのが、僕には、適切な賞であるように思えていた。

その4)につづく

2009年8月23日
自宅にて執筆
堀義人

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