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ジュエリーの女性デュオが生み出す“igoにしかできない世界”

投稿日:2008/11/05更新日:2019/04/09

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社会人生活をやめて専門学校へ。そこで出会ったのは、自分と同じような行動を取る女の子だった。褐色の肌と白い肌の2人はシンクロし、やがて共作で“自分たちにしかできないモノ”を造りはじめた……。(このコラムは、アイティメディア「Business Media 誠」に2008年10月30日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)

2人だから、生まれるものがある。2人だから、世界を変えられることがある。

2人――音楽の作詞作曲での合作や二重奏は“デュオ”、バトミントンでは“ペア”、テニスは“ダブルス”、漫才は“コンビ”、企業経営にも“名コンビ”がある。いろいろな表現があるけれど、運命的な2人の出会いがあるとき、その創造の破壊力は計り知れない。

新進メタルアートデザイナー・デュオの1人、マロッタ忍(しのぶ)さんの指に見えるリング「marquise」は、平面からの立体造形がユニーク。地金から伸ばし、硬いのに柔らかく見える独特な質感を創る。マット仕上げの表現に、エッジをキラリと光らせる技。

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マロッタ忍さんが指に着けているのは「marquise」という作品

デュオのもう1人、山内芙美子(やまうち ふみこ)さんは地図好き。銀と銅の板を何層も重ねた“日本地図”。都道府県ごとのピアスやネックレスになる。大きな地図を部分スキャンし、各県を精密にトレースして抜き型を起こす。精密な境界の再現で問題になったのは“東京都”。

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“日本地図”と“デコトラ”

「埋め立て地、どうしよっか?」「省略する?」「でもお客さまが“そこに私住んでいるの!”と言うかも」――2人はそんな議論の結果、埋め立て地も精密に表現した。全国で東京都のタテヨコ比だけが黄金比率なので、曲げ加工のリングも似合う。地図の左上のペンダントは“デコトラ”だ。ニッポンを走るあっぱれな長距離トラックのペンダント。

“マットとキラキラ” “県民ジュエリー”ここにしかない存在感があふれる創作は、デュオの“igo(イゴ)”の発想と会話から生まれる。とっても仲のいい2人に、かわいい平屋の一軒家のアトリエで、相棒Cherryさんと私のデュオでお話をうかがった。(以下、本文中の写真撮影はすべて村山桜子さん)

2人の前の1人の頃

出会いの前に、それぞれをリワインドしよう。マロッタさんは美術系大学でグラフィックデザインを専攻。そのあとデザイン事務所で働いたが、1年で辞めた。グラフィックはPCの中だけ、もっとカタチのあるものに携わりたい。やりたいのはアクセサリー。ずっと趣味でやっていた彫金だ。東急ハンズに通っては、彫金の担当者にあれこれ訊いて作っていた。

「でも独学じゃだめ。ちゃんと学ぼうと思いました」そのとき24歳。運転免許を持っていた。

山内さんは美術系ではないフツーの大学でアジア研究を専攻した。アジア研究旅行をしてはシルバージュエリーを買い求めた。大学を卒業後、都内の百貨店に勤めた。売る仕事は自分のやりたいことじゃない、経験はなかったが彫金がしたかった。マロッタさんと同じく、1年で仕事を辞めた。

「版画や工作は得意だったんです」そのとき23歳。運転免許は持っていたが、ペーパーものだった。

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山内さん作のアトリエの白い工作台。さまざまな道具がぴったり収まる

山内さん作のアトリエの白い工作台。さまざまな道具がぴったり収まる

2人はヒコ・みづのジュエリーカレッジに入学した。ジュエリー専門学校では歴史もあるトップ校だ。1学年10クラス、1クラス30人だからおよそ300人。1年目は“年少”の基礎コース、2年目と3年目が本科の“年中・年長”だ。同じA-7のクラスだった。

年をくっていたからマロッタさんは2年で上がろうと思った(結局3年学んだ)。クラスには社会人が例外的に多かったとはいえ、ほとんどが18歳。こっちは四大出で社会人経験もある24歳。6つも違う。

「18歳の子から“成人式の写真、見せてくれない?”って言われたんですよ!」

けらけらと笑って話すマロッタさん。でも負けたくない一心で、あらゆるコンクールに応募した。同じクラスに、もう1人あらゆるコンクールに応募する人がいた。山内さんだった。

「マロッタって、ここまでやるんだ」色白の彼女はマロッタさんを意識し、褐色系のマロッタさんも山内さんを意識をしだした。

ちょうど神戸の百貨店で学校とタイアップの展示販売企画があった。出品できるのは本科の生徒で、年少の基礎コースは対象外。でも出品したかったマロッタさんは学校に掛け合った。むりやりお願いしてネジこんだ。ふと気付くと、そこにまったく同じことをしている人がいた。山内さんだった。

神戸旅行での心が響きあう出会い

2人は一緒に神戸に行くことにした。本科の生徒は学校費用の参加だったが、ネジこんだ2人は自費参加。それでも、自分たちの作品が売れるかどうかをどうしても確かめたくて、もう1人の生徒と一緒に、自動車で8時間かけて神戸に行った。ハンドルを握ったのは、運転に慣れていたマロッタさん。

京都で途中下車し、観光をして、さらに夜も遊びまくった。ジュエリーを語り合った。ほとんど寝ずの2泊3日の旅で、お互いを心から知り合えた。百貨店ではマロッタさんはチョーカーを、山内さんはバングルを出品。1つずつ売れたな? という感じだったが、気にならなかった。デュオの運命を感じた、それがもっと大きな収穫だった。

帰りもマロッタさんが運転したが、さすがに眠い。山梨でペーパードライバーの山内さんが「替わろうか」と言うので運転を交代した。これがヤバかった。

「アタシを殺す気!」マロッタさんが叫んだ。すっかり眼が覚めて、次のサービスエリアで交代。デュオは死なず、igoを生んだ。

ネタ帳で相棒関係を深めた

そこから共作が始まった。授業で「自分のネタ帳を作りなさい、文字でも絵でも何でもいいから、発想を書き留める習慣を持ちなさい」と教わった。それで毎日のように学校帰りに渋谷で、ご飯を食べながらネタ帳を見せあった。発想を見せっこして、「もっとこんな表現できない?」「こうしたらいいのよ」と意見をぶつけ合った。相棒関係が深まり、自分たちらしさが分かってきた。

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2人のネタ帳

制作表現上の共通項も分かってきた。2人とも糸ノコやボール盤が得意で、加工作業系に強い。表現では、グラフィック(二次元系の平面描写)に強いが立体(三次元の造形)に弱い。ワックスのブロックを加工して型を作る“ロストワックス製法”が苦手なのも同じ。ワックス科目では2人とも合格点を取ったことない。ジュエリーで立体造形が弱いのは致命傷。しかしこう考えた。

“立体が弱いのを認めて、平面からの立体造形を創ろう。それがigoにしかできない世界”

平面から立体の“グラフィックな感覚”、「ハエのカタチのピアスなんて!」など“会話が生まれるジュエリー”、そしてマットとキラリ、もう一味の質感を出す“金属の表現力”。igoの3つのコンセプトが固まった。描いてスキャンする。トレースしてPCから出力する。金属のシートに貼って抜く。まるでオクターブが重なる歌手のデュオのように、同じ響きを2人で高めるスタイルが定まった。

igoのブレイク・イヤー

2008年2月に開かれた展示会「rooms」をきっかけに、ファンも販売の場も広がった。起点には2人の“がんばり”がある。学校もそろって皆勤賞だ(ダイヤがもらえるご褒美ゆえもあり)。

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ところが卒業間近のある日、皆勤が危うくなった。2人、まったく同じ症状で高熱を出した。マロッタさん、これはヤバいと・・・意識もうろうで早朝何とか起きあがり、這うように病院に行った。インフルエンザだった。「シメタ!」インフルエンザなら公休扱いだ。病院から山内さんに電話した。

「あなたもインフルエンザだから、早く病院に行って診断書ゲットしなさい!」

こうして2人とも皆勤賞とダイヤをゲット。2人で山も谷も乗り切り、加工道具や小次郎(彫金専用机)を持ち寄り、igoの予算で素敵なアトリエを運営できるようになった。折からの金融恐慌のあおりで金価格が急騰し、最近は材料仕入れにも悩む。でもデュオの創造のチカラで、igoの価値はもっと急騰している。

▼「Business Media 誠」とは

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