犬と猫の数は合わせて約2500万匹、15歳未満の子どもは1750万人――。すでに日本は子どもより、ペットの方が多いのだ。ならばどうやって“共生”すればいいのか。そのヒントはお風呂にある……?(このコラムは、アイティメディア「Business Media 誠」に2008年10月23日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)
私の母はかつて自宅でトリマー、犬の美容師をしていた。ちっちゃいトイプードルもでっかいスタンダードプードルも我が家にやって来た。お風呂場に連れ込み、トリマー専用台にのせる。犬は早々に観念する。専用の浴槽もシャワーもなく“人犬兼用”。濡れ犬にすると体毛がペタンとして、想定外に細いカラダになる。ヨソの家での寂しさも手伝って、キャイ~ン……とかぼそく鳴くワンコもいた。
トリミング前のプードル(上)、トリミング後のプードル(下)
ペット入浴施設付きマンション
そんな幼少の記憶を呼び覚ましたのは、ペットマーケット会社のペイクが展開する「ペット入浴施設付きマンション」。賃貸マンションにペット専用の入浴施設「PeikuBATH」を設置することで、ペットを飼う入居者がいつでもシャンプーやカットができる。また設備は、近所のペットオーナーに有料で解放できる。ペット好きを満足させることで、マンションの付加価値をアップさせる好企画である。
PeikuBATH
大型犬がすっぽり入る浴槽には、小型犬用にせり上がる台座もあり、ブラシ付きシャンプーや乾燥機能、使用後の自動洗浄機能を備える。利用は携帯電話またはPCでネット予約し、暗号解錠で入室、料金は提携先のオリコカードで支払う。無人運用が可能で、料金制度も居住者には無料(賃料に含むなど)、外部者には有料などオーナーの意向などに合わせられる。
トリマーに頼めば4000円から5000円するシャンプー、財布の事情を考えて月に1回くらいが平均。しかし無料なら月に2.7回は洗ってあげたいと飼い主は考えているそうだ(いずれもペイク調べ)。駐車場1台分のスペースで設置できるペット共生システム(初期費用500万円)を考えたのはペイクの野中英樹社長。事業のきっかけは不動産だった。
不動産開発からペット事業モデルへ
「家主のお父さん、お母さんを何とかしてあげたいと考えたんです」
野中社長は1980年代後半まで、不動産開発会社の営業として土地の仕入れや企画提案で活躍した。バブル崩壊以後は賃貸マンションの営業に転じて、これも成功。だが不動産不況が深まり、賃貸マンションは空室率が増え、借金をして建てたオーナーのお父さん、お母さんたちが苦境に立たされた。マンションの付加価値を上げるにはどうすべきか? そんな時代の曲がり角で、野中社長は仮説を立てた。
「家主のお父さん、お母さんを何とかしてあげたいと考えたんです」
野中社長は1980年代後半まで、不動産開発会社の営業として土地の仕入れや企画提案で活躍した。バブル崩壊以後は賃貸マンションの営業に転じて、これも成功。だが不動産不況が深まり、賃貸マンションは空室率が増え、借金をして建てたオーナーのお父さん、お母さんたちが苦境に立たされた。マンションの付加価値を上げるにはどうすべきか? そんな時代の曲がり角で、野中社長は仮説を立てた。
自らの経験(賃貸住宅に入居しようとしてペットを断られた)から、ペットと住宅がテーマだと感じた。預貯金80万円をはたいて、ペット先進国である米国に行き、ペットビジネスについて調べた。
そこではペットが家族の一員であり、まさに生活の一部となっていた。ドッグラン(犬をつながせずに遊ばせることのできる広場)で面白いビジネスモデルに出会った。電気料金の領収書を示せば、ドッグラン施設を無料で楽しめるというものだった。それは電力料金の徴収促進や高騰した電力料金を補てんするためのサービスだった。電力会社+ペットオーナー+ドッグラン施設を結びつけるビジネスモデルにうなった。
いずれ日本でもペットブームがやってきて、こんなビジネスモデルが可能になるはず。それには何が足りないだろうか? ボトルネックは住宅だ。賃貸住宅のペット可の比率は、東京都区部で8%(不動産経済研究所調べ)。ペットと共生できるマンションを造ろう。生来の犬好きも手伝って、事業の軸が定まった。
ペイクの前身となる事業体でフットシャワー(散歩後の足の洗浄)、うんちダスト(砂利や小石とうんちを一緒に流せる)などを備えた賃貸不動産を開発。集合住宅の8割がペット可になる貢献をしてきた。日本のペット数は犬・猫だけで約2500万匹。なんと子どもの数より多い(15歳未満の子どもの数は1750万人)。日本はすでに“少子・多ペット社会”に突入しているのだ。
ペットを真ん中に、みんなを巻きこむ
ペットビジネスというとたいていは“擬人化ビジネス”。ペットシッター、ペット保険、ペットカフェにペットレストラン、ペットアパレルにペット肖像画など。捜索願いを出せばペット探偵、落命すればお葬式やお墓。人様にしてあげたいことがビジネスになる。
だが野中社長は米国のビジネスモデルを見た体験から、ペットオーナーや事業者を巻き込む社会型ビジネスモデルを展開する。フリーペーパー『Peiku Magazine(ペイクマガジン)』がその中核にある。
Peiku Magazine
ペイクマガジンの最近のコンテンツを見ると、「ワンコとリゾート(ワンコも一緒に滞在できるリゾート)」「ドッグナビ(街のドッグ関連ショップの紹介)」「ペットにやさしい不動産」「ワンコとドライブ(読者モデルとペット起用)」「カリスマトリマー選手権」など盛りだくさん。そこにコンテンツ同士の相乗効果がある。
ワンコが住みやすい街は人も住みやすい
カリスマトリマー選手権を例にとろう。優秀なトリマーに腕をふるうチャンスを与え、所属店舗はPRできて、オーナーには自分の犬が表紙を飾るという名誉がある。「ウチの犬が表紙を飾る」となれば冊子をたくさんの友人に配るだろう。友人は「ウチの犬もぜひ載せたい!」と願う。ペクマガの設置店舗が増えれば、読者増につながり広告も増える。当のワンコは、たぶんおいしいエサにあずかれるだろう。
“犬も歩けばビジネス相乗効果”。なぜか? それはワンコが住みやすい街は、人にも住みやすいからだ。
ペット設備付きマンションは、立地が悪くても入居率がアップする。ペットに強い不動産会社も潤うし、ペットがらみのお店も増える。地域にペット散歩道が造られ、公園の公衆トイレにうんちダストが配置される。野中社長は「地方の廃校を活用して格安で泊まれるペットリゾートを造りたい」と話し、私は「都心の廃校や閉鎖保育園にドッグランを造ればいい」と返した。
ワンコで街おこし。お風呂好きのワンコが増えれば、街も人も生き生きとする。
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