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リテールでゼロからDXを成功させた舞台裏――カインズのデジタル戦略責任者に聞く Vol.1

投稿日:2023/09/26更新日:2023/10/18

企業が事業変革や構造改革を行っていくためには、もはやDXが欠かせない。そんな変化の中、2018年に「IT小売業宣言」を掲げた株式会社カインズは、ゼロから新たなデジタル体制を整備し、施策を実行。高成長を続けてきた。

このカインズのデジタル戦略を仕掛けたのが、執行役員CDO兼CIO兼デジタル戦略本部長兼イノベーション推進本部長の池照直樹氏だ。どのようにして「ゼロから」社内にDXを浸透させ、業績アップにつなげていったのか。成功に導いたデジタル戦術や組織づくり、育成方法などについて、グロービス マネジング・ディレクターの板倉 義彦が聞いた。

経営者の危機感から始まったカインズの「IT小売業宣言」

板倉 池照さんはそれまで日本オラクルやマイクロソフト、エノテカなどの企業を経てデジタルイノベーションに深い見識をお持ちです。そこから2019年、デジタル戦略本部長としてカインズに入社され、まずどんなことに取り組まれたのでしょうか。

池照 入社して最初にやったことは、シンプルに顧客戦略の立案と実行です。デジタルど真ん中の部署ですが、デジタルの話はほとんどせず、3~5年の中長期戦略を考え、取り組んできました。

板倉 デジタルの話を「あえて」しなかったわけですね。

池照 なぜかというと、会社には、それまで受け継がれてきたDNAがあるからです。カインズは、売上・利益の成長を毎年繰り返し、一度も減収減益のない会社です。将来の投資を削ってまでも当期の利益を出していく、昔の外資系企業にも多かったような風土があります。つまり、売上・利益の成長を目指すことが、従業員のDNAとして刻み込まれているため、ロードマップにその成長を実現できる戦略ストーリーが描かれていることが大切で、そうすれば従業員は燃えてきます。

だから、単に「デジタルマーケティングや、MA(マーケティング・オートメーション)が大切だ」とだけ言っても、誰もピンとこないわけです。売上・利益を伸ばすための施策や戦略ストーリーを型としてしっかりと作らないかぎり、デジタルは受け入れられない状況でした。

板倉 なるほど、従業員のDNAに響く戦略をまずは考えたと。

池照 やはり組織を変えていくためには、この組織のどこを変えれば従業員が動くのか、を常に考える必要があります。「このブループリント(設計図)に則って動いていけば、絶対成長できるんだ」と、皆が腹落ちしなければなりません。

板倉 池照さんがジョインする前は、カインズにはデジタル戦略の青写真はなかったんですか。

池照 何もなかったですね。元々、私がカインズの顧問をやっていた時に、カインズの土屋社長(当時)に誘われて、Amazonのイベントに参加しました。ちょうど、Amazonがリテールテックを打ち出していこうとしている頃で、一緒にイベントを回ったときに、土屋が「これはやばい」と言い出したんです。テクノロジーを持っている会社が、日本のリテール業界に入ってきたら、俺たちに勝ち目はない。それで、イベントが終わってすぐの年始の全社総会で「俺たちはIT企業になるぞ」と、話があって……。

従業員は「俺たちはリテール企業じゃないの?」と、一瞬ざわつきました。しかし、そのぐらい変わらなければならないという意識が土屋にはあったんだと思います。それが、「IT小売業宣言」で、私もその翌年入社して改革を行ってきました。

デジタルで「足し算から掛け算」の商売にシフトチェンジ

板倉 設立から30年以上もの間、増収・増益を続けてきたカインズなら、これまでもいろんな変革や転機があったのではないですか。

池照 そうですね。カインズは創業から今までに3つの転機がありました。カインズの前身は、いせやという地方の百貨店のような存在でしたが、規模の大型化を目指すだけでは成長に限界があると感じたようです。そこで、分社化してチェーンストアとして事業を拡大してきました。当時は、出店さえすれば、売上が増えるような時代でしたから。これが、1つ目の転機です。

しかし、景気が後退し、モノが売れなくなってきて、新店を出してもこれまでのように売上が伸びず、ROIが下がってきました。そこで売れる商品を開発して、収益性を高めていくSPA方式(製造小売)に事業を転換。カインズしかないオリジナル商品で、売上の4割を作ってきました。これが2つ目の転機です。

非常に苦労して作り上げてきたSPA化でしたが、競合が増え、競争が激化し、次第に収益性が落ちてきました。そこでデジタル化(IT小売業)を導入したのです。これが3つ目の転機です。

この3つ目の転機の特徴は、「足し算の商売から掛け算の商売」にシフトチェンジしたことにあると思います。デジタルはアンプのようなもので、小さな信号を増幅して、大音量にすることが得意です。0→1は難しくても、0.01→100はできます。それに、経営者の圧倒的な危機感もあったので、会社としても変わることには何の抵抗もなかったと思います。

まずは従業員のDNAに刺さる戦略・戦術を描くこと。そうすればデジタルが自走し始める

板倉 掛け算のビジネスに乗せていくため、作られたのが(成長戦略)チャートなわけですね。

池照 カインズには約2万人の従業員がいます。その中には、ITに詳しくない者や、興味のない者もいるわけです。しかし、成長に向けてアクションを起こしてもらうために、彼ら彼女らにとって、分かりやすく、伝わるメッセージが必要でした。そこで余計なものを削ぎ落とし、たどり着いたのがこのチャートでした。

板倉 このチャートの具体的な部分について、簡単に説明してもらえますか。

池照 カインズには、ポイントカード会員(以下、カード会員)とデジタル会員、2種類の会員がいます。そのうちカード会員の売上が全体の7割を占めているので、大目的としてはカード会員を増やしていくことを考えました。

ただ、カード会員は来店時にしか接点がありません。そこで戦術としては、デジタル会員へリーチしていきます。 それぞれの会員の購入額(試算)を比較すると

  • 来店頻度の高いデジタル会員の購入額は11万8000円
  • 来店頻度の高いカード会員の購入額は9万5000円

このように、カインズの会員でも購入額が2割ほど異なるわけです。これはマーケティング活動ができるか、できないかの違いだと想定し、カード会員をデジタル会員に集めてくれば、ざっくり売上が2割ほど伸ばせるという、仮説を立てました。

板倉 「カード会員」を「デジタル会員」へと顧客化していくわけですね。

池照 そうです。それともう1つ取り組んだのが、「未認知→認知」に変えていく施策です。カインズは群馬県で誕生したため、北関東での知名度は高いのですが、まだまだ、カインズを知らない「未認知」の人が多いです。

それで、まず「どういう会社なのか」「何をやっている会社なのか」を知ってもらうためにオウンドメディア「となりのカインズさん」で情報を発信しました。そのかいあって現在は月間約500万PVを達成しています。このオウンドメディアにアクセスしてきた人のうちユニークビジターを、Googleアナリティクスなどを活用して、会員化につなげていきます。

板倉 具体的にはどんなアプローチを行うのでしょうか。

池照 例えば、DIYの記事を読んだ人には、裏側で「DIYの人」というパッチを付与し、その人に対してWeb広告でDIYに関する商材を表示して、店舗への集客に結びつけます。そして店舗で初回購入したお客様に対しては、その場で会員登録を勧めてもらいます。 これら一連のデジタルマーケティングについては、チャート図の流れで捉えています。

  • 未認知→認知→購入は「外から中」
  • カード会員→デジタル会員(非会員から顧客獲得)は「左から右」
  • 低頻度→高頻度への顧客獲得は「下から上」

という流れを意識して、「来店頻度の高い」「デジタル会員」を増やしていこうとしているのです。  そのためにデジタルで何をするのかというと、次のような取り組みを行っています。

  • オウンドメディア で 「未認知を認知」 に変え、
  • Web広告 で 「認知から初回購入」 に変え、
  • 店頭キャンペーン で 「会員化」 し、
  • 会員になった方 には 「MA で購入頻度高」 にしていく

これによって、売上を増やすことができるわけです。

池照 カインズでは、これまで効果の小さい戦いを行ってきました。

というのも、当時はデジタル会員として登録されていた13万人に対してメールマーケティングなどのMAをやっていたんです。

13万人の会員が10回来てくれると130万回のレジ通過になります。ただ、年間の総レジ通過回数は1億5000万回ですから、130万回は約0.87%です。この0.87%の人に対してMAをしていると思うと、そもそものターゲットが狭すぎるのではないかとなります。そこで、より効率的なターゲットに向かうことで、もう少しポジティブに取り組めないかと考え始めました。

そこで、購入頻度の高いデジタル会員を増やしていく、先ほど紹介したチャートで言えば右上に人を集める「外から中」「左から右」のアクティビティをやると、たった2カ月間で会員が約50万人増えました。そして、右側の売上も伸び、目に見える形で結果が出てきたんです。

こうなると、みんなが「また店頭キャンペーンをやりましょう」と言い出し、乗ってくるわけです。デジタル戦略が、目の前の売上・利益の向上という従業員の関心に大きなインパクトを与えうることが見えたからです。このように、デジタル戦略を推進していく上では、まず従業員のDNAに刺さる施策を打てるかどうかが、大事なポイントになってきます。困難を突破しようとするとき、みないろんなことをやりがちなのですが、最初にグサッとDNAに刺すことができれば、従業員はみなやる気になって自走してくれるんです。

次回に続く

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