今回は、企業買収(M&A)に関連して新聞紙上でもよく目にする「のれん」について説明します。
のれん発生のプロセス
まず、のれんが発生するプロセスを見てみましょう。のれんはM&A、つまり企業の買収あるいは合併で発生しますが、ここでは企業買収の場合を前提に説明します。
A社がB社の株式の100%を買収により取得するとします。この時、B社の純資産(正味の資産)は100であり、A社がこれを200で買収するとします。
この時点では、A社のB/Sには子会社株式が200計上されるだけで、のれんは発生しません。次に、A社とB社を合わせた連結決算を行います。
連結決算プロセスでは、一旦A社とB社のB/S、P/L等の決算数値を合算し、その後両社に重複する部分を解消します。
先ほどの例では、A社が保有するB社株式とB社の資本金(株主はA社)はグループ全体としてみれば重複しています。そこで、この重複部分を消去しますが、A社が保有するB社株式200に対してB社の純資産は100なので、消去しようにも金額が一致しません。そこで、両者の差額に相当する金額100をバランサーとして連結B/Sに計上します。まずはザックリとこのバランサーがのれんだと理解してください(※)。
買収金額と買収先企業の純資産はなぜ異なるのか?
現在の会計ルールでは、会社に内在する人材、技術、各種ノウハウなどの無形の価値は資産としてB/Sには計上しません。一方、M&Aではこれらの無形の価値も含めてDCF法や上場類似企業の株価等との比較(マルチプル法)等により買収金額が算定されます。これは簡単に言えばそれぞれの算定ベースが異なるためですが、買収金額と買収先企業の純資産の差額であるのれんは、買収先企業が社内に内在する無形の価値が顕在化したものとも言えます。
大掴みとしてはこれで結構ですが、厳密には買収金額と買収先企業の純資産額の差額の全額がのれんとはなりません。差額の内、ブランド、顧客リスト、特許権などの個別に認識される無形資産はそれぞれの資産名で連結B/Sに計上されます。この場合、差額全体から個別に認識される無形資産を控除した残りがのれんとなります。
のれんは、買収先企業に現存する価値(B/Sに計上済み)+会社で培ってきた潜在的な無形資産価値を超える価値、つまりプラスアルファの将来期待される儲けという意味で「超過収益力」と言われます。
のれんはその後どうなるのか?
日本の会計ルールでは、のれんは会社が設定する20年以内の一定期間で償却されます。毎年の償却額は、販売費及び一般管理費として連結P/Lに計上されます。したがって、買収先企業の営業利益が買収で発生したのれんの年間の償却費を上回らないと、買収により却って連結P/Lの営業利益は減少することになります。
なお、「買収金額<純資産」となる場合もあります。この場合は、「負ののれん」として発生時に連結P/Lに特別利益として計上します。
また、買収先企業の業績が悪化すると「超過収益力」の価値が消失したと見なされ、のれんも減損損失の対象となります(参照:減損損失って何?)。なお、IFRS(国際財務報告基準)や米国会計基準ではのれんは償却しません。その代わり、毎年の減損テスト(減損損失の要否チェック)が必要になります。
※厳密には、B社の保有する土地などを時価評価した上で連結しますが、単純化のために割愛しました