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2023年の注目トピック――戦略・マーケット編

投稿日:2023/01/05

グロービス経営大学院教員が2023年の注目トピックを取り上げるシリーズ。今回は「マーケット・事業戦略」編です。今年もテクノロジーの成長やコロナ禍あるいはZ世代らによる新しい価値観などにより、企業活動においては様々な新しい潮流が訪れています。次の1年の事業環境を展望するうえでのキーワードは何でしょうか? グロービス経営大学院で「マーケティング」や「マーケティング・経営戦略基礎」、企業研修において経営戦略などの講座を担当する教員2名に聞きました。

スーパーアプリの普及

嶋田 毅


2023年は、数年前から注目されつつあったスーパーアプリがますます普及を加速させる1年となるのではないでしょうか。

スーパーアプリとは、アプリでありながらプラットフォームのように機能し、複数のアプリケーションを包含するものです。

既に多くのユーザーが利用しているスーパーアプリのわかりやすい例はLINEでしょう。LINEはメールや通話といったコミュニケーション目的のアプリのほかに、決済アプリやニュースアプリとしても機能します。こうしたアプリがどんどん増えていくわけです。

その背景にあるのがアプリのワンストップ化ニーズです。ユーザーからすれば多くのアプリをいちいち開いて使いこなすのは面倒です。パスワードの管理だけでも大変かもしれませんし、ポイントの共有などもできません。複数のサービスを跨げばレコメンデーション機能も弱くなります。よく使うアプリにはワンストップでアクセスできる方が便利であり、顧客体験価値も高まるというわけです。

ただ、1社でこれらを提供するのは容易ではありません。ユーザーからは見えない裏側で、企業のアライアンスや吸収・合併が加速する可能性もあります。
ただ、いったんスーパーアプリとして存在感を確立すれば、これまではAppleやGoogleなどのプラットフォーム側に取られていた市場での支配力が、アプリ側に移行するかもしれません。
その意味でスーパーアプリが普及していく流れは、デジタル化に伴うレイヤー構造化における、レイヤー同士の戦いともいえるのです。レイヤー構造の時代には、どのレイヤーを自社が担い、好ましいエコシステムを構築するかが非常に大切となります。2023年は新しい構造が徐々に固まり始める1年となるかもしれません。

ゼロパーティ・データ マーケティングが活性化する(AIを活用したマーケティングの可能性)

溜田 信


2008年に米国で誕生し、2022年6月にPinterestが買収したTHE YESは、AI技術を駆使する新しい形のECサイトでした。

従来型のECサイトでは、一連のファッション商品の中から、ユーザー自身が検索するのが普通です。しかしこのTHE YESを使うと、ユーザーはアプリで自分の美的嗜好を判断するための一連の質問に答えるだけで、あとは自分の好みにピッタリの商品やプロによるコーディネートの提案をしてもらえるのです。
仕組みとしてはまず、あらかじめTHE YES側で様々な商品情報をAIにより解析し、各種特徴量をリストアップしておきます。特徴量とは分析対象データの中で予測の手掛かりとする変数を指し、この場合は色・サイズ・素材・スタイル・他の商品との組み合わせの相性・呼び名などを指します。例えば同様の商品の呼び名にしてもブランドごとで異なる言い方をしている可能性があり、ひとつの商品でさえ保持する特徴量は数10種類に及びます。

実際リアル店舗の世界では、優秀な店員は、お店に入ってきた顧客を見て、瞬時にその体形・髪の色をチェックし、当日の装いからファッションに関する嗜好を読み取り、適切な提案ができます。またそんな提案をされたら、その顧客もその店に通い続けることになるでしょう。

THE YESは、EC上でそんな経験を実現しようとしていた訳です。

しかしこのAI技術の最大のポイントは結局のところ、商品情報をいかにそろえるかというよりも、その個人にピッタリとくる商品を選択するための多岐にわたるパーソナルデータの入手に掛かっています。場合によっては、その日の心理状況、さらには誕生日だったりデートだったりという着用したい日のイベント情報も加われば、さらに精度の高い提案ができるでしょうし、ユーザーの満足度も上がることになるでしょう。

ここで重要になってくるのが、ゼロパーティ・データと呼ばれる、顧客の同意を得たうえで直接取得する個人情報です。2022年4月に施行された改正個人情報保護法により、個人を識別可能なデータを取得・利用する場合、消費者から同意をとることが義務付けられました。ChromeやSafariなど主要なブラウザは、すでにサードパーティCookiesを規制する機能を実装しています。そうするとますます、顧客データは、「気づかないうちに収集されてしまう」ものではなく、顧客の同意を得て取得するものへと変わっていくはずです。

顧客が抵抗なく自然な形でデータを提供するには、THE YESに見られたように、「情報を提供すれば、自分にピッタリのものを提案してくれる」というメリットを感じてもらうことが欠かせないでしょう。

AIを駆使したマーケティングの一つの形は、恐らくこういったゼロパーティ・データを活用したものであると考えます。単純に顧客にデータの提供を求めるのではなく、顧客の方から、積極的にデータ提供を行いたくなるようなマーケティングということになります。

AI技術が各方面で応用され始めた今、個人情報の扱いが難しくなった2023年だからこそ、起こりえるマーケティングだと思います。

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