2023年の注目トピック――戦略・マーケット編

グロービス経営大学院教員が2023年の注目トピックを取り上げるシリーズ。今回は「マーケット・事業戦略」編です。今年もテクノロジーの成長やコロナ禍あるいはZ世代らによる新しい価値観などにより、企業活動においては様々な新しい潮流が訪れています。次の1年の事業環境を展望するうえでのキーワードは何でしょうか? グロービス経営大学院で「マーケティング」や「マーケティング・経営戦略基礎」、企業研修において経営戦略などの講座を担当する教員2名に聞きました。
スーパーアプリの普及
嶋田 毅

2023年は、数年前から注目されつつあったスーパーアプリがますます普及を加速させる1年となるのではないでしょうか。
スーパーアプリとは、アプリでありながらプラットフォームのように機能し、複数のアプリケーションを包含するものです。
既に多くのユーザーが利用しているスーパーアプリのわかりやすい例はLINEでしょう。LINEはメールや通話といったコミュニケーション目的のアプリのほかに、決済アプリやニュースアプリとしても機能します。こうしたアプリがどんどん増えていくわけです。
その背景にあるのがアプリのワンストップ化ニーズです。ユーザーからすれば多くのアプリをいちいち開いて使いこなすのは面倒です。パスワードの管理だけでも大変かもしれませんし、ポイントの共有などもできません。複数のサービスを跨げばレコメンデーション機能も弱くなります。よく使うアプリにはワンストップでアクセスできる方が便利であり、顧客体験価値も高まるというわけです。
ただ、1社でこれらを提供するのは容易ではありません。ユーザーからは見えない裏側で、企業のアライアンスや吸収・合併が加速する可能性もあります。
ただ、いったんスーパーアプリとして存在感を確立すれば、これまではAppleやGoogleなどのプラットフォーム側に取られていた市場での支配力が、アプリ側に移行するかもしれません。
その意味でスーパーアプリが普及していく流れは、デジタル化に伴うレイヤー構造化における、レイヤー同士の戦いともいえるのです。レイヤー構造の時代には、どのレイヤーを自社が担い、好ましいエコシステムを構築するかが非常に大切となります。2023年は新しい構造が徐々に固まり始める1年となるかもしれません。