ネットいじめに対処できる力を子どもと保護者に~エースチャイルド社インタビュー

エースチャイルド SNS トラブル 子ども

先行き不安な社会で孤立し問題を抱えている人が増えている。そうした問題を解決するために行政が取り組む相談事業にSNSで革命を起こしたエースチャイルド社の代表取締役CEO西谷雅史氏へのインタビューを行った。起業の理由や、次世代への想い、相談事業への想いを聞いた。聞き手は、グロービス経営大学院教員でエースチャイルド社外取締役の梶井麻未。(全2編、前編)【KIBOW社会投資投資先企業インタビューシリーズ】

行政の相談事業を変革した「SNS相談」のインパクト

梶井:エースチャイルドでは、2018年度から現在まで行政から相談事業※の委託を受け、LINE、Twitter、FacebookなどさまざまなSNSで相談を受けるプラットフォーム「つながる相談」のシステムを開発・提供しています。現在では日本中の自治体から多くの引き合いが来ていると思いますが、少し前まで行政の相談窓口といえば、電話相談がメインでした。どのような経緯でLINE相談が広がってきたのでしょうか。

相談事業…自治体等がさまざまなテーマに関する市民からの相談に応えるために設置している窓口事業。実際の運営は事業者に委託して行われていることが多い。厚生労働省の自殺対策相談や文部科学省が自治体に推奨する児童向けのSNS相談などがある。相談員を擁する相談事業者が請け負い、システム事業者がシステムを提供することもあるが、エースチャイルドのようにシステムを提供する事業者が請け負い、相談事業者が相談体制を提供することもある(下図)。

エースチャイルド 相談事業

出典:エースチャイルド社資料を基に編集部作図

西谷:そもそもは、2018年に長野県が、「電話相談」だけでなく「LINEで相談を受けてみる」という実証実験を行ったことがきっかけです。すると電話だけの場合、年間250件だった相談が、LINEで実施すると2週間で2500件に跳ね上がり、しかも相談内容の幅も広がりました。電話で相談となると、かなり切羽詰まった状況でないと電話はかけないでしょうが、日常的なコミュニケーションツールであるLINEだと相談することへの心理的ハードルが下がる。深刻な悩みだけでなく日常的な悩み、例えば学校での友達付き合い、学校の勉強や成績について、恋愛相談など、相談する内容も多様になりました。

これはすごい、ということで文部科学省が全国の教育委員会を集めて報告会をしたんです。その会で我々は類似する別のテーマの発表をしたのですが、終了後に参加者同士で話していたところ、独自アプリでの相談などは導入のハードルが高い。LINEを相談に使うのが一番スムーズでは、という話が出ました。弊社とLINE社はもともと関係があったこともあり、その場でLINE社の担当の方と話し、「それではエースチャイルドで裏側の仕組みをつくりますよ」という話になり「つながる相談」が生まれました。

梶井:最初に「つながる相談」を採用したのはどこだったのですか。

西谷:文部科学省と厚生労働省の案件で、最初は、教育や自殺に関する相談が中心でした。そこからいろいろな自治体のプロジェクトに携わるなかで評判が広がり、日本中の自治体からお声がかかるようになりました。最近では子育て、虐待、DV、性被害、男女共同参画、就労などさまざまなテーマの相談事業に参画しています。

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SNSを活用するメリットと社会貢献実感

梶井:従来の電話相談に対し、SNS相談のメリットにはどんなものがあるでしょうか?

西谷:具体的に何が違うかというと、例えば、ある自治体が1ヶ月間SNS相談を行う場合、期間中に何回も相談してくださる方がいらっしゃいます。その方をAさんだとすると、最初にAさんがされた相談内容がカルテとして「つながる相談」システム内に残ります。そうすると、2回目に相談してくださったときには、たとえ対応する相談員が違っても、カルテを見ながらこれまでの経緯をふまえて対応することができます。

これが電話相談だと、電話を受けて番号で、もしくは名乗っていただいてから、かけてきたのはAさんだとわかる…となると、電話で会話を続けながら過去の対応履歴が書かれた相談記録を探すことになりますがこれはかなり難しいんですよね。

また、SNSだと着信した瞬間すぐに返信しなくてもいいので、Aさんのカルテを読んでから対応を考えられますし、他の相談員に事前に返信の仕方を相談し意見をもらってから返信対応をすることも可能になります。

梶井:同様の他社サービスがあると思いますが、「つながる相談」が多くの自治体から選ばれているのは、なぜだとお考えでしょうか?

西谷:いろいろな要素があると思いますが、1つは、相談員が使いやすい仕組みになっているからだと思います。例えば、せっかく相談が来ても相談を受けきれない、過去の相談内容を把握していなくて利用者さんを怒らせてしまう、相談員が割り当てられるまでの待ち時間を有効に使っていただく情報提供といったことに配慮したシステムになっています。これらの機能は、相談員からの意見を受けて改修を進めていますし、相談事業の終わりには利用者アンケートを取り、その意見も反映させています。ずっと改修を続けていますね。

「つながる相談」は、相談に“親身に”のることに特化した「相談プラットフォーム」になっているので、それが強みだと思います。

梶井:SNSだと、相談するほうもハードルが下がりますし、相談を受けるほうも実はすごい使いやすいということですね。

西谷:そうですね。加えて、我々はシステムのご提案にとどまらず、ユーザーへの広報活動も重視しています。SNSですと相談するハードルが下がりますし、「相談先があるんだ」「一人で悩まなくていいんだ」と利用者に広く知っていただくことでさらに利用を促進することができます。

ですから、自治体と組む際には、広報予算を入れていただくようにプレゼンしています。広報を重視しない自治体さんもいらっしゃるのですが、相談事業全体がうまくいくように、そこは我々が意識してお願いしています。どうしても予算が手当できない初年度の実施などの場合は、弊社が負担してでも「広報の重要性」をご理解いただき、次年度予算に組み入れていただくという取り組みもしています。

梶井:ユーザー目線と相談員の使い勝手の両側面をふまえて、システムの機能のみならず相談事業全体の活性化を意識してご提案できるのがエースチャイルドの強みということですね。

今、確実に多くの自治体からさまざまなテーマの相談に関する依頼が増えてきていますが、「つながる相談」が世の中に受け入れられている手応えを感じられるのはどのようなときですか。

西谷:相談員さんから「こんなに使いやすいシステムをつくってくれてありがとう」と言われたときは、社内皆で共有しています。また、先ほども触れた相談者へのアンケートの最後に「相談員さんに一言」という欄があるのですが、結構書いてくださる方がいらっしゃいます。「気持ちが落ち着いた」「救われた」「来年もやってほしい」と書いていただけると、事業が世の中の役に立っていることをすごく実感します。嬉しいですね。

次世代の子どもたちのために起業を決意

梶井:現在は、大人向けの相談事業も扱われていますが、エースチャイルドのミッションは「ITのチカラで、子どもの未来を明るく」です。話はさかのぼりますが、西谷さんが最初に起業されたきっかけを教えてください。

西谷:起業したのは2013年で、「LINEいじめ」という言葉が出始めた頃です。その頃、新聞などで「LINEいじめは周囲から中身(起きている状況)が見えない」という記事を見たのですが、エンジニアとしてはスマホの中身が全く見えないということはないだろう、と。自分の子どもが2歳だったのもあって、次世代の子どもたちの役に立ちたいと思って起業しました。

梶井:それでつくられたのがネット上の危険から子どもを守るWebサービス「Filii(フィリー)」ですね。Filiiについても2020年に内閣府に呼ばれて講演されていますよね。

西谷:2013年から初めて7年たって、やっと呼ばれました(笑)。「青少年ネット環境整備法」というものがあるのですが、その検討委員会に初めて呼ばれました。これは、子どものスマホにはフィルタリングをつけるようにとか、キャリアや学校でスマホの使い方について教えるように法律で決めているものです。任意ですが、家庭でも見守ることが推奨されています。今は、こういったことが当たり前になっていますが、2013年頃は、全然浸透していませんでした。

梶井:最初の頃は、Filiiの必要性をわかっていただけなかったとか。

西谷:そこが本当に苦労しました。「LINEいじめ」に関連したニュースがあると、さまざまなメディアから取材を受けるのですが、「技術でこんなことが可能です」といくら言っても、理解していただけなかった。リリースするのが早かったですね(笑)

子どもにも保護者にも「考えてもらう」ためのツール

梶井:Filiiは、具体的に何ができるのか、改めて教えてください。

西谷:Filiiは、子どものスマホのデータを分析して、スマホやアプリの使用時間やSNSでつながっている人を可視化できます。また、トラブルにつながりそうな危険なメッセージが出たら、保護者にアラートがいきます。ですが、アプリを使い過ぎたからといって、強制的にシャットダウンするようなことはしません。

梶井:強制的にアプリを停止する機能をつけなかったのは、なぜですか?

西谷:アプリを使うか停止するかの二択では問題が解決しないからです。起業した頃は、子どものネットトラブルの分野の素人だったので、さまざまな団体に参加したり、講演会などを聞いて勉強したりしました。ベストプラクティスを把握していくうちに、やっぱりどれだけツールで制限しても、子どもはどうしてもここは使いたいと思うところがあり、保護者がそこまでいうならと許可した後、野放しにしてしまうと問題が起きるということがわかりました。それに、使いたいのに制限をしてしまったら、子どもが学ぶ機会を失います。なので、家庭でルールを設定してもらって、それに対してFiliiは実際のところを伝えて、約束を守れていなかったら、再度家庭で話し合ってほしい、という思想で設計しています。

Filiiが提供する「使わせながらも守る」仕組みのイメージ

        出典:エースチャイルド社WEBサイト

西谷:もう1つ、子どものネットトラブルの最後の砦はどこかというと、保護者だと考えています。保護者がそのトラブルを知っていることが大事です。ネットは今やもう「社会」そのもの。そこに子どもが放り出されると、子どもだけでは解決できない問題が山ほどある。トラブルが起きた時には、保護者なり、周りの誰か大人が相談にのれる状態になっていないと、解消されないんです。なので、親子の対話というのは必須かなと思っています。

梶井:ツールを導入しさえすればトラブルは解決されるわけではないということですよね。今おっしゃった「子どもと大人で相談してほしい」という考えや「Filii」が実は「つながる相談」をはじめるきっかけなんですよね。

西谷:そうです。Filiiは「見守る」ものですが、トラブルのアラートを出すときに、そのトラブルがどういう類のものか、どういうことを確認したり話し合ったりすればいいのかということも一緒に伝えています。ただ、具体的な解決先も欲しいと思い、一定のアラートが出たときに、Filiiから教育委員会に電話ができるようにするサービスをつけ、2015年に千葉県柏市の教育委員会と実証実験を行いました。

先ほどお話しした文部科学省でのSNS相談についての会合では、実は我々はこの実証実験の報告をしていまして、それがきっかけで「つながる相談」事業をやることになりました。

後編に続く

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