大人も子どもも「相談」できる社会に~エースチャイルド社インタビュー

エースチャイルド SNS トラブル 子ども

マルチSNS相談プラットフォーム「つながる相談」や子どものスマホの見守りアプリ「Filii(フィリー)」を提供するエースチャイルド社の西谷雅史社長インタビュー後編。後編では、西谷社長の組織づくりについて聞いた。聞き手は、グロービス経営大学院教員でエースチャイルド社外取締役の梶井麻未。(全2編、後編。前編はこちら)【KIBOW社会投資投資先企業インタビューシリーズ】

相談が苦手な日本人

梶井:前編では、エースチャイルドの事業についてお伺いしましたが、西谷さんは一貫して、人との対話や相談することをとても大事にされていますよね。子どものスマホ利用を見守るFilii(フィリー)から、マルチSNS相談プラットフォーム「つながる相談」の開発に至ったのも、子どもたちに大人に相談してほしい、信頼できる大人に出会ってほしいという想いを感じます。

西谷:子どもはクラスの40人とかの狭い世界が全てになりやすいんです。LINEいじめも、最近増えているオンラインゲームでのトラブルも、ほとんどが顔見知りによるものです。リアルの世界の人間関係がオンラインに持ち込まれます。

ですので、子どもたちに相談窓口という形を通してでも、専門家や信頼できる大人と話し、さまざまな価値観があることを知ってほしいですし、そういう機会をできるだけ多く提供したいと思っています。個人的にも、子どものレジリエンス(困難な状況に対処する力や困難から立ち直る力)が大事だと思っていまして、そのためには、トラブルに対処する力を大人に相談しながらつけてほしいと思っています。

ただ、最近わかってきたのは、これは大人自身にも言えるということです。日本人、特に成人男性は、人に相談しません。相談しないで一人で抱え込む傾向があります。どんなテーマのSNS相談でも、7割、8割以上は女性からの相談です。自分の責任でやらねばという考え方があるのかもしれません。それはいいことでもありますが、もっとフランクに相談できるようにしたら、解決の糸口も見えるでしょうし、それこそ自殺者も減ると思います。日本という国において、大人も子どもももっと「相談」を身近にしていくことが必要だと思っています。

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梶井:子ども向けのSNS相談窓口は、今かなり広がっていますよね。

西谷:今や日本だけでLINEのユーザー数は約9000万にものぼります(2022年4月時点)。Instagramもユーザー数が増えてはいますが、そういう子どもでもLINEのアカウントはもっています。さらに文部科学省の「GIGAスクール構想」によって小中学生は一人一台端末を持てるよう環境整備が進んでいます。「つながる相談」はこの端末に対応できるようにしており、現時点でGIGAスクール端末を持っている小学生は100%、中学生の94%となっており、ほとんどの小中学生が端末を通じて相談ができる仕組みが整いました。

梶井:コロナ禍の影響で、この2年で教育委員会の「つながる相談」導入が増えましたよね。

西谷:導入はだいぶ増えました。GIGAスクール端末の普及率は高校はまだ30%くらいですが、これから3年くらいかけて100%を目指していくそうですので、そういう意味でも小中高校生すべてに相談できる端末が行き渡る状況になってきます。そこにしっかりSNS相談を提供していきたいと思っています。

梶井:エースチャイルドは新サービスとして、学校と保護者をつなげる「つながる連絡」事業も推進されています。これは例えば、保護者自身が普段利用しているLINEアカウントをそのまま使い、学校、教師と、個別にID交換をしなくても直接LINEで連絡をとりあえるサービスですよね。

西谷:そうです。個人情報を守りつつ、学校や他の保護者と連絡がとれるようになります。いまだに学校から保護者への連絡を紙で配布している学校も少なくないですが、LINEで連絡がとりあえれば、子どものカバンの底にお知らせの紙が眠っていたなんてことがなくなります(笑)

また、子どもがその日学校を休むという電話連絡対応や、コロナ禍で毎日の検温の確認などのために、学校によっては先生たちが朝早く出勤して交代で電話番をしたり、検温状況の確認に時間を割いているんです。そういった対応もLINEひとつで省略することができ、先生たちの過労問題も緩和され子どもに向き合う本業に集中できるようになります。

もともとは「つながる相談」を学校単位でできないかと思って提案したのですが、そもそも学校内のデジタル化が遅れており「連絡」にも課題があるということが分かって、開発しました。

「つながる連絡」LINE遷移のイメージ

エースチャイルド SNS つながる連絡

出典:エースチャイルド社資料 

梶井:そうしていくと、大人と子ども両方をサポートできるということですね。大人を助けることが子どもを助けることになりそうですよね。

西谷:はい、そう考えています。ただ、自治体とのご縁で例えば最近ですとコロナワクチン接種申し込みシステム構築など、相談に限らずさまざまなテーマのご依頼をいただけるようになりました。ありがたいことではありますが、我々の事業範囲が拡大しすぎていないか、飛躍しすぎていないか、という点は社内でいつも議論になります。会社のミッションと照らし合わせながら、常にメンバーと我々として何をやるべきか、やらないべきかを話し合っています。

フラットにとことん話し合う組織風土

梶井:今、会社のミッション、ビジョンと照らし合わせながら進む方向を決めるとおっしゃっていましたが、エースチャイルドのメンバーの皆さんはいい意味で西谷さんに対して遠慮がなく、フラットに意見を言い合って進めている印象があります。

西谷:今のところそうですね。以前、「(社長である)私の意見だからといって遠慮しないで否定していいよ」といったら、「そんなこと誰も気にしてません」と言われたので、そうだろうなと思います(笑)

梶井:すごく風通しのよい組織風土だなと感じています。今、十数名ほどの組織だと思いますが、組織づくりにおいて大事にされていることは何でしょうか?

西谷:私がもともとエンジニアなので、エンジニアが働きやすい環境にしようというのがスタートになっています。

まずほとんどのメンバーがコロナ禍前からフルリモート勤務ですし、PCなどのハード面は好きに選んでもらうようにしています。また、エンジニアの多くは、新しいことがやりたいので、保守運用が大変なときには別の案件では新しい技術を試せるようにしたり、あと、どうしても深夜対応とかが発生するので、そういうところはしっかり評価するように気を配ってます。

以前はエンジニアだけでしたが、今は職種が増えてきたので、営業や財務の方も働きやすい環境をどうやったらつくれるだろうか、と働きやすい環境を広げて考えています。

一方で組織風土という意味で大事にしているのは、皆の意向を聞いて話し合って決めるということです。案件ごとに、関わるメンバーと「やるか、やらないか」「エースチャイルドとしてやるべきかどうか」という話を基本するようにしています。もちろん私がやりたくてもメンバーが反対する場合もありますが、意見が分かれる場合でもできるだけ話し合って理解納得してもらえるようにしています。

梶井:西谷さんは、本当にフラットでいらっしゃるんですよね。例えば、子どもを下に見たり軽視することが全くない。子どもを一人の人格としてとらえていて、困っている人だから助けたいという動機で始められている。だから、多くの人に響くんだと思います。

西谷:なるほど。確かに、「子どもだから下に見る」ということはないですね。

極論かもしれませんが、世の中の煩わしいことは全て人にかかわることだと思うんです。人間関係ですよね。だから、話し合ってできるだけお互いが納得したうえで「一緒にやっていける/一緒にやっていこう」というスタンスをいかに築けるかが、長期的には大事ではないかと思っています。

仕事でも、私生活でも、子どもと親でも、そこを話し合うというのが一番大切です。話そうとすると揉めることもありますけれど、話さなかったらもっと揉めるので、話したほうがいいんじゃないかと思って、話しています。

梶井:例えば子どもは経験不足のところはありますが、そこは話しあって周りが補ってあげればいい、困ったときに頼れるところをつくって相談できるようにしたらよい。でも、最終的には自分で考えて判断する。そういう考え方が、会社の組織運営にも反映されているんでしょうね。

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西谷:そうですね。でもこれは考えようによっては、厳しいかもしれません。話し合うということは、お互いの意見を聞くということなので、自分の意見がない人にとってはむしろ上から一方的に指示だしされるほうが楽かもしれませんね。でも私はそれぞれがよく考えて意見を持ち、話し合って進めていくことが大事だと思っています。もちろん相手の個性や経験値によって接し方は工夫していて、例えば、段取りが苦手な人がいたら、8割段取りをこちらで考えて、あとの2割を自分で考えてもらう、というように配慮はします。

梶井:相手のことを尊重して接していらっしゃるんですね。相手が自分をリスペクトしてくれているのかは、感覚ですぐに分かりますよね。西谷さんは社内外問わず接する相手の方を公平に扱い、リスペクトしている。そういう姿勢が会社経営の原点な気がします。

エースチャイルドで働きたいという方は、理念に共感される方が多いですか。

西谷:昔からいるメンバーは、ベンチャーでトライしてみたいとか、これから組織をつくるところに入って自分たちの働きやすいように組織をつくっていきたいとか、あとは私の考えに共感してくれて入ってくれた人が多かったです。

今は、ミッション、ビジョンへの共感と、さきほど話したように皆で話し合って決めるとか、社内で活発に議論するといった社風に興味をもって入ってくれるという、その2つが多いと感じています。

梶井:子どもの未来を明るくするために、もっともっとやりたいことがありますから、これからもミッション、ビジョンを一緒に実現していく仲間を増やしたいですね。

西谷:そうですね、メンバーの採用には力をいれています。今のところ私は基本的にSlackとメール、Backlogなどの通知を全部見てメンバーの日々の活動状況を把握していますし、3~4カ月に一度は全員と面談もしています。これからメンバーがもっと増えると階層化も考えなければいけないですが、できるかぎり今のようなフラットな組織でいたいと思っています。

ベンチャーらしくトライアンドエラーを続ける

梶井:最後に、これから社会をもっとこうしていきたいというお考えがあれば教えてください。

西谷:もともと次世代のためになることをやりたいと思って起業して、それは全く変わっていません。選択と集中みたいなことはあまり考えていなくて、現場で拾ったニーズを元にベンチャーらしくトライアンドエラーで広げていくことをやりたいと思っています。今、「Filii」「つながる相談」「つながる連絡」で、子どものネットの見守りと、相談と、学校のデジタル化みたいなところを軸にやっていますが、常に次の一歩となる製品をつくっていける組織にしていきたいと思っています。

梶井:広く社会で「相談すること」が身近になって子どもが安心して大人になっていけるような社会を実現したいから、そのためにはいろいろなことをやりたいということですね。

西谷:その方が相乗効果があると考えています。見方を変えたら、今やっているSNS相談というサービスも、あと10年とたたずに全部使えなくなっているかもしれないわけですよ。LINEなどのSNSというツールがなくなっているかもしれませんし。だから、今あるものだけをやっていこうとは思わないですね。一方でその頃には、メタバースなど、また違うコミュニケーションツールが普及するでしょうから、その時にはその時で、また相談のハードルを下げ、多くの人が相談できるような仕組みを提供していこうと考えるのだと思います。

梶井:人の悩みはなくならないですし、誰かに相談したりコミュニケーションするということ自体もなくならないでしょうからね。

西谷:そうですね。時代の1歩、0.5歩先くらいのマイルストーンを見据えてやっていきたいと考えています。

梶井:本日はどうもありがとうございました。

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