出光興産が公募増資を決定し、創業家が差し止めを申し立て話題となっています。公募増資によって出光株を持つ創業家の持ち株比率が下がり、支配力が薄まるのを嫌ってとのことです。出光のケースのように、増資が株主から賛同を得にくい要因として株式の希薄化が挙げられます。今回は、株式の希薄化について説明します。
株式の希薄化とは、文字通り株式の価値が薄まるということです。株式を保有する株主には2つの権利があり、株式の希薄化はその双方に影響があります。
共益権:会社の重要事項に対する議決権などの経営参加権
自益権:株主が経済的に利益を得る権利。配当請求権、残余利益分配請求権など
共益権に関しては、株主の持ち株数は変わらなくても、増資により自分以外の誰かが新しく株主となると相対的に持ち株比率が下がり、会社に対する支配力が薄まります。
例えば、Aさんはある会社の発行済み株式数100株の内10株(持ち株比率10%)を持っています。増資により新たに100株が発行されAさん以外の株主がこれを取得すると、Aさんの持ち株比率は5%(10株/(100株+100株))に低下します。出光の創業家は33.9%の出光株を保有しています。これはいわゆる拒否権(※)を発動できる水準です。創業家の持ち株比率は、公募増資によって約26%まで低下すると見込まれ、拒否権を失うことになります。なお、発行済み株式が増加すると1株の議決権は薄まりますが、例えば株式分割のように全体の増加と同じ割合で既存株主の持ち株数が増加する場合は、株主にとっての支配力(議決権比率)は低下しません。
次に自益権に関してです。
1株当たり利益について簡単な例を見てみましょう。当期純利益を100、増資によって発行済み株式が100から200に増加すると、1株当たり利益は1から0.5に低下します。1株を保有する株主の利益が半分に薄まったことになります。1株当たり配当金についても同様の影響があります。なお、
株価=EPS(1株当たり利益)*PER(株価収益率)
の関係から、PERを一定とするとEPS(1株当たり利益)の低下により株価が下落する可能性があります(この場合は、特定の株主だけが損失を被るわけではありませんが…)。
上記は、当期純利益や配当原資を一定としたため、増資による発行済み株式数の増加により1株の経済的な価値が薄まるとしました。しかし、増資により得られた資金を会社が有効に事業等に投資して見合ったリターンを得られるならば、当期純利益や配当金の増加の期待が出来ます。
例えば、増資により株式数100から120株に増加しても当期純利益が100から150へ増加する場合は、EPSは1から1.25に増加します。
自益権に関しては、増資によって常に株式の価値が薄まるとは限りません。したがって、増資によって得たおカネをいかに効果的に事業に投資してリターンを得るかが問われます。
※1人の株主が3分の1を超える株式を持つ状態。その株主が反対すれば株主総会の特別決議をも否決できるほどの強大な権利を言います。