8月29日「飲むべきか、飲まざるべきか、それが問題だ」
ハムレットよろしく悩んでいるのは禁酒の話ではない。禁酒など、悩むまもなく、朝に誓ったその夜には破ってきたのが、成人してから20余年の人生である。
水。
当然、毎日水を飲む。どんな水を飲むかが問題なのだ。
研修の際に、「マーケティングとは価値の交換活動である」と説明する時に、ペットボトル入りのミネラルウォーターを例にする。
「タダとは言わないが、極めて安価であるはずの水。主に水道水のことであるが、それを飲用せずに、ペットボトルの水を買うのはなぜか」という話。まず、水を買う人がどれくらいいるか、挙手を求める。都内だと約8割。地方に行くと少し比率が下がるが、過半の手は挙がる。
そして、買う理由を聞くと、「美味しいから」「身体に悪い成分が入っていないから」という答えがだいたい出る。どうも、味や安全性という価値があるから、商品と対価の交換が成立しているようだ。
しかし、ペットボトルの功罪として、環境負荷が高いという側面もある。採取地から運搬する(海外からも!)。ボトリングして配架する。店頭に並べ、冷却しておく。どれだけのCO2が排出されているのだろう。今、そんな問題意識を背景に、ミネラルウォーターを飲む習慣を見直そうという動きが、世界各地で起こっている。
今年の2月、ロンドン市長が「水道水を飲もう」と呼びかけた。ロイター通信の報道「ロンドン市長、ボトル入り飲料水のボイコットを呼び掛け」によると、ボトル入りの水は水道水に比べて価格が500倍、環境への悪影響は300倍、と市長は主張している。
一方、エキサイトニュースの記事「水道水の利用が復活!?@シカゴ」によると、シカゴでは今年の4月からプラスチックボトル入りの水に5セント(およそ5円)の税金がかかるようになった、という。そして、その効果で水道水利用が復活していると。
アメリカのボトルリサイクル率は20%未満で、他80%はゴミとして埋め立てされ終わってしまうということと、水道法と食品衛生法で定められている基準で見ると、水道水の方が安全という結果も出ているということで、「ボトル水じゃなくて、水道水がいいわ」と言うのがエコを意識している人にとってはとってもクール、というムーブメントも起こりつつあるという。
水道水を楽しく飲むための道具も増えてきている。象印マホービンは「マイボトルを持とう」と呼びかけている。ベネトンジャパンも力が入っている。同社のリリースでは、もちろんベネトンが作るから、おしゃれなデザインで、色鮮やかなカラーバリエーションを豊富に用意しています。あなたも「MYCUP&MYBOTTLE」で健康的で経済的な生活を始めませんか、と訴えている。
冒頭で、ペットボトルの水を「飲むべきか、飲まざるべきか」という問いをたてた。どうやら、世の中的には、「飲まざるべき」なのだろう。水道水が形成優位になって、「水道水を(浄水して冷やして)飲むべき」と、なりそうだ。環境だけでない。経済的にもエコなのだ。シカゴの例では、食料品やガソリンの値上げ。市民の財布のヒモはきつく、かたくなってきている、という背景があるという。日本でも同じだろう。
「どんなマイボトルにしようかな」と悩むのも、楽しそうだ。
最後に、「浄水・冷却した水道水をマイボトルで飲む」の普及をロジャースの普及要件で整理してみよう。
■相対優位性
ペットボトルに比べると安い。味・安全性はデータによれば大差ない(雑菌混入などのリスクは水道水が少ない。消毒の薬剤はかつてより極めて微少とされている)。
■両立性
ミネラルウォーターが飲みたい時や、マイボトルが邪魔な時は、ペットボトルを買えばいい。両立性は確保されている。
■複雑性
複雑さは全くない。ただ、単に買えばいいペットボトルと、浄水・冷却やボトルのメンテナンスはちょっと面倒かも。ただし、「どんなボトルを選ぼうかな」という選択の楽しみはあるように思う。
■試行可能性
マイボトルをまず買わなくてはならないというのは、ちょっとしたハードルになるだろう。まずは、空きペットボトルに浄水器から水道水を入れて、冷蔵庫で冷やして飲んでみることから始める感じだろうか。試してみると、やはり、シカゴの例ではないが、驚くほど抵抗はなかった。
■観察可能性
「効果の観察・実感」はなかなか難しいが、完全に実行すると、週に一度、たまったペットボトルを踏みつぶして、回収ボックスに持って行く時の量を見て良心の呵責に苛まされることはなくなるだろう。それは確かに観察可能な効果であるといえる。
……さて、週末にマイボトルをちょっと物色してみようかな。