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『崖の上のポニョ』の大成功にマーケティングの整合を見る

投稿日:2008/08/22更新日:2019/04/09

8月20日『崖の上のポニョ』の大成功にマーケティングの整合を見る

「公開から31日で100億円を突破!」が報じられたポニョ。歴代宮崎アニメの中でも大ヒット作品の一つと言って間違いないだろう。前作『ハウルの動く城』以来4年ぶり。宮崎駿監督が熱いハートで取り組んだ作品に対し、マーケティング的評論をするのもはばかられるが、その成功のヒミツを少しだけ読み解いてみたいと思う。

「シネマトゥデイ」によると、31日間で100億円突破の記録は、『千と千尋の神隠し』の25日間には及ばなかったものの、『ハウルの動く城』の33日、『もののけ姫』の43日を上回るハイペース、ということである。

かくも人々に愛されるのは、作品自体のすばらしさにあることは間違いない。筆者自身も夏休みに家族で鑑賞し、10歳の娘共々、夢中になった。

映画作品そのものは、マーケティング的にいえば、「製品(Product)」にあたり、いわゆる「4P」の一要素だ。その中身を云々すると、ネタバレにもなるので詳細には踏み込まないが、例えばCG全盛の昨今、丁寧に手書きで書き込まれた作画、背景は作品全体でテーマとなっている「海」の魅力を、余すところなく演出している。また、一度聞けば忘れられず、うっかりするとアタマの中で無限ループをし、思わず口ずさんでしまう「ポーニョポニョポニョさかなの子・・・」のテーマソングをはじめ、音楽も印象的だ。ストーリーもファンタジーでありながら、実は様々な物語が下敷きになっていたりと、知れば知るほど、「もう一度観たい」と思わせる魅力がある。

・・・と夢中になって「製品(Product)」を語ってしまったが、マーケティングで大切なのは、「良い製品」であることだけではない。他の要素との「整合」が大切なのである。

まず、ターゲットとポジショニングだ。映画の場合、ポジショニングは取り上げるテーマそのものでもある。

過去の宮崎作品を思い起こすと、『風の谷のナウシカ』と『もののけ姫』は、メインターゲットを大人向けとした「問題提起型」の作品と言えるだろう。少々ポジショニングの表現が難しいが、「環境と共生」が大きなテーマであるこということである。

次に、『天空の城ラピュタ』と『ハウルの動く城』、『魔女の宅急便』と『千と千尋の神隠し』。前者が「冒険スペクタクル」であり、後者は「子供(少女)成長の物語」というポジショニングであるが、共に大人と子供の双方をターゲットとしている。

さて、今回のポニョは、『となりのトトロ』と同じく、メインターゲットは子供だが、親子で楽しめる、そしてポジショニングは、「ファンタジー」だ。

上記のように、宮崎作品は似たテーマの作品が繰り返し制作されており、同じターゲットとポジショニングの作品であれば、前作を元に期待が高まるのは必定だ。トトロは1988年公開であり、実に20年ぶりのテーマである。トトロは20年経ってもその魅力が色あせていないのだが、やはり新作が待ち望まれていたカテゴリーである。そこにきれいにはまったのが、今回の「ポニョ」であるのだ。

外部環境との整合もいい。子供をメインとして、親子で楽しむ作品の公開時期としては、夏休みはベストだ。ロングランを期待するにしても、立ち上がりで動員数を大きく稼ぐことができる。

時期だけではなく、昨今のシネコンの隆盛も追い風だ。館内がきれいで、事前に座席を取ることもでき、背の低い子供向けの補助シートなども整備されている。既にシネコンは過当競争に入っているので、サービスが非常によい。小さな子供を連れて行くのにはベストな環境である。

経済環境にも適合している。物価高にあえぐ今日の消費生活において、夏のレジャーは「近場で済ます」傾向が顕著であった。映画に流れた部分も大きかっただろう。

外部環境の機会を捉え、ターゲットに最適な、ポジショニングの優れた作品を提供できていることがここまででわかるが、4Pの残る要素もうまく整合している。「価格(Price)」「チャネル・販路(Place)」「プロモーション(Promotion)」も、ここまでの要素と関連している。

まず価格だが、昨今、定価で映画を観る層は少なくなっている。話題の映画であれば前売りを入手するのは昔から変わらないが、前述の通り、過当競争にあるシネコンは、各種の独自の割引プログラムを用意している。つまり、平均価格はずいぶんと安くなっているのだ。

チャネル・販路は外部環境で触れたとおり、シネコンが大きく寄与し、利用しやすくなっている。ターゲットとの適合もいい。

プロモーションは、今回実にうまく計算されていたと言えるだろう。映画ファンということもあり、筆者は映画情報には比較的耳の早いほうと自認しているが、「ポニョ」の作品内容、ストーリーなどは全く事前に漏れてこなかった。一般にもあの「ポーニョポニョポニョさかなの子・・・」のテーマソング以外、「どうやら子供向けのファンタジーらしい」ということしか公開されていなかった。つまり、一種の「ティザー(teaser:じらし)広告」として事前の盛り上げに大きく寄与していたのは間違いない。

以上のように、『崖の上のポニョ』は、成功すべくして成功しているのだとわかる。アニメーションはもはや芸術であるが、ビジネスでもある以上、成功法則を踏襲することも、また重要だ。宮崎アニメのような、製品(作品)の完成度が大きな地位を占める場合でもそれは同じだと言えるだろう。

  • 金森 努

    グロービス経営大学院 教員

    東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道四半世紀以上。コンサルティング事務所、広告を経て、2005年独立起業。 青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。著書「図解 よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)「”いま”をつかむマーケティング」(アニモ出版)。共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。監修「実例でわかる!差別化マーケティング成功の法則」(TAC出版)。雑誌への連載、講演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。

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