昔、録音したカセットテープが山のように積まれていないだろうか? 好きな歌手の歌声を録音したものや、彼女からもらったカセットテープだったら、なかなか捨てられないはず。そこでカセットテープからさまざまな形で保存する方法を紹介しよう(このコラムは、アイティメディア「Business Media 誠」に2008年8月7日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)。
30歳以上の読者の皆さんは、棚の奥に眠っているカセットテープをどうしているだろう? 正確には「コンパクトカセットテープ」。1970年代から90年頃まで、音楽を聴くメディアといえばカセットテープだった。ラジカセ、カセットデッキ、そしてカセットウォークマンがオーディオの3大ギアだった。
持ち運びOK、落としてもめったに壊れない丈夫さ。空テープは1個100円という安さで、レコードやCDを空カセットに録音するのが音楽文化だった。好きな曲を録音して、1曲ずつ手書きで曲名を書いて、女子と交換したっけ。手持ちの古いカセットのパッケージラベルに女子の文字を発見してニヤリとする。デジタルでファイル交換することしか知らない“子ども”たちには、カセットに収録するメモリーの味わい、分からねえだろうな。
Mix Tape USB Stickで“手書き愛”のメモリー交換を
カセット・メモリーを呼び起こすリバイバルグッズが、最近いくつも出てきている。その1つは英国のデザイン会社suckUKの『Mix Tape USB Stick』。これはカセットの真ん中をくり抜いて、USBメモリを装着できるようにした音楽ギフトパッケージだ。
suckUKの『Mix Tape USB Stick』、20ポンド(約4300円)
カセットケースのパッケージに“手書き愛”をしたためることができるが、実はUSBメモリというグッドアイデア。64メガバイトのメモリへの録音形式はMP3やWAVでもOKだが、なぜ64メガバイトなのか? それは一般的なカセットが片面30分、両面で60分だったのをもじって、MP3の“high quality Music”で60分の音楽が入るのが64メガバイトだから。そこまで凝りますか!
カセットウォレット
イタリアのチャーミングなデザイナーmarcella foschiさんはカセットテープをリサイクルして“カセットウォレット(財布)”を作っている。廃棄されるカセットからテープメカニズムを取り出し、お財布にしてしまうというデザインアイデアが斬新。
以前日本の展示会でも販売していたカセットウォレット
カセットも一点ならデザインも一点モノ。カセットという音楽文化をアイコン(象徴)にしてしまった“メモリーリサイクル”の商品化好事例だ。
(出典:カセットウォレット)
ささいなことで別れたが、今も忘れられない彼女からの贈り物のカセット。あいにくテープもプッツンしてもう聴けない。それならカセットを2つに割ってお財布にしますか? う~ん微妙だ。彼女に送ったカセットと、彼女からもらったカセットをバラして、表と裏にして“ペアカセットウォレット”を作りますか? う~んさらに微妙。
カセットの中身を取り出したい人に
メモリーの詰まったカセットに穴を開けたり2つに割たっりする前に、中身を取り出しておきたいと思う人は多い。某大手レコード会社の取締役も「私もまだたくさんカセットを持っています」と話していた。アナログ磁気テープのカセットをデジタル録音する2つのデバイスを紹介しよう。
ION Audioの『Tape2PC USB Cassette Archiver』
まずION Audioの『Tape2PC USB Cassette Archiver』。録音・再生・ダビングのできるダブルカセット・デッキから、USBケーブル1本でMacでもPCでも音楽ファイルとして保存ができる。パソコンからiPodに取り込み、またCD-Rにして保存もできる。
『Plusdeck 2c PC Cassette Deck』
『Plusdeck 2c PC Cassette Deck』はPCの5インチベイに設置する、昔のカーステレオっぽいデザイン。これもカセットテープを取り込んでMP3やWAVに変換できるデバイス。カセットにオートリバース機構が備わっているのも親切だ。デスクトップPCで夜な夜な“カシャッ、ジーッ”と音楽メモリーの再インストールができる。
ノスタルジービジネスの2つのカイコ
カセットテープビジネスにまつわるもの、それは“ノスタルジー”。USBスティックは昔の恋の音楽物語、カセットウォレットは音楽文化のアイコン、そしてカセットのデジタル化デッキは、昔の音楽体験をリワインドして「ボクって誰?」の原点探しをいざなう。
ただUSBスティックやカセットウォレットは、今どきのクリエイティブであるのに、アナ/デジ転換はどこかセンチメンタルが匂う。どちらもノスタルジーだが狙いが違う。ノスタルジービジネスには“2つのカイコ”があるのだ。それは“回顧と懐古”である。
回顧とは自分の体験を振り返り、出発点を忘れまいとする欲求。自分探しをしたい消費者がターゲットになる。それに対して懐古とは、昔のモノや出来事を知り、共感し、新しい価値を付加したい欲求。昭和や大正を新しく感じる“昔リメイク”が好きな消費者がターゲットである。
回顧ビジネス例:私の履歴書(日本経済新聞)、回顧録出版、大学再入学、PlusDeck 2c、Tape 2 PCなど
懐古ビジネス例:紙ジャケットCD、映画リメイク、和柄、USB Stick、カセットウォレットなど
回顧ビジネスでは、時代背景や史実を忠実にリスペクトし、懐古ビジネスでは今どきの視点から大胆にクリエイトする。ノスタルジーの商品化はこの2つを明確に切り分ける必要がある。
回顧すべきであって、悔恨すべきではない
カセットにちなんで、ソニー「ウォークマン」の誕生秘話を思い出した。カセットケースを2つ重ねて「このサイズの携帯音楽プレーヤーを作ろう」という逸話だ。ウォークマンという文化はそこから生まれた。
フィリップスが1962年に開発し、互換性を条件に基本特許の無償公開をしたからこそ、カセットは世界中に浸透し、ついに文化アイコンになった。今、音楽媒体の規格争いばかり考える日本の産業界には、カセットを文化にした“ビジネスメモリー”はないようだ。一方iPhoneのソフトウエア規格を無償公開したアップルにはそれがある。優れたビジネスメモリーはいつも回顧すべきである。
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