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【田村耕太郎氏インタビュー】政府も企業もエース級の人材を海外へ送るべき(2)

投稿日:2017/04/13更新日:2019/04/09

前回のインタビューでは、実業家であり、元政治家であり、シンガポール・リークワンユー政治大学院で地政学の教鞭も取る田村耕太郎氏に、日本企業が直面している地政学リスクについて語っていただいた。今回は、政府や日本企業はどう対応すべきか、さらに話を伺った。

政府が進むべき道は何か? 

=長期的には米中の接近がより大きなリスクへ=
東アジア情勢の緊迫度合いは、第二次大戦直前に勝るとも劣らない状況だと思う。つまり80年ぶりに、貿易や経済ではなく、地政学が主役となりそうだ。日本にとっての潜在的脅威は北朝鮮情勢と中国の台頭である。それゆえに、トランプ大統領誕生直後、果敢にトランプ大統領との関係作りに動いた安倍総理の行動力は高く評価したい。いまや日本に残された現実的で戦略的な外交戦略は「さらなるアメリカへのヘッジ」しかないと思う。今から中国へのヘッジはできないし、先方も受け入れないだろう。狡猾なロシアや外交力がまだ構築途上のインドを中国へのカウンターバランスに使うのは、まだ容易ではない。

今のところ、トランプ大統領に最も重視される同盟国は我が国であるといっても過言ではない。日本にはトランプ政権が短命に終わるとの見方もあるが、アメリカ大統領が弾劾された例は過去にないし、私はアメリカの景気循環や民主党の現段階での次期大統領候補者のラインアップを見れば、トランプ大統領が短命に終わるどころか、2期8年勤め上げる可能性さえあると思う。最重要国アメリカの、最高実力者と関係を築くのは最も望ましいことであり、それができた安倍総理の行動力とライカビリティ(トランプ大統領から見ての好感度)は日本にとって貴重な資源である。

北朝鮮情勢は過去最高レベルに差し迫った状況であるのに、国会論戦はスキャンダルに終始している。これはあきれるばかりであると同時に、日本政治がいかに喫緊で目の前にある地政学的危機にマヒしているのかを示している。北朝鮮では約700発のミサイルが、在日米軍関連施設や大都市圏等を標的にしているといわれる。最新のミサイル防衛システムをもってしても、7分から10分で着弾する日朝の距離では完璧に防御できるとはいかないだろう。ハワイ、アラスカ以遠のアメリカ本土に到達できるICBM(大陸間弾道ミサイル)の完成を恐れる米軍が、北朝鮮に先制攻撃をかける可能性も高まっている。

しかし、日本にとっての真の課題は、北朝鮮現体制崩壊後にあるとみる。想定できないほどの大量の難民、そのうち一部は偽装した武装難民が、日本にやってくるかもしれない。また新体制で現状維持なのか、朝鮮半島統一なのか等々、今からいくつものシナリオを想定してそのコストを計算しないといけない。どれをとっても日本は、資金面を含めて大きなコストを負担せざるをえないだろう。

北朝鮮情勢を終息させるコストはそれだけではすまないのかもしれない。北朝鮮情勢の管理のためには米中の協力が不可欠だ。先の米中首脳会談で詳細を話し合ったとみられるが、北朝鮮情勢が深刻化すればするほど米中の緊密な連携が進展する可能性がある。トランプ氏と習近平氏は共通点が多い気がする。独裁的で、二国間取引を好み、不動産開発的発想をする点がそれだ。似た者同士の相性とは、ものすごく気が合うか、敵対してしまうか、どちらかだと思う。

もちろん、北朝鮮情勢の管理や世界の経済・貿易スキームの安定のためには、良好な米中関係が望ましい。しかし、米中関係が緊密で強固になり過ぎるのも日本には厳しい。ここも“オクシモロン”なのだ。日本にとって最悪のシナリオは、「米中お互いの経済的・安全保障的国益が確保されるなら」と、太平洋を米中2人で分割統治するような着地点が双方で合意されることである。強固な米中関係が構築されてしまうと、日本そして日米関係はその中の1つのカードになり下がってしまう可能性がある。

もしそんなことになれば、仮に北朝鮮情勢を米中の連携で管理できたとしても、その後の中国のアジアでの台頭はアメリカに黙認されることになるかもしれない。この場合、日本そして東南アジア諸国は、厳しい対応を迫られるだろう。現時点でシンガポールにて痛切に感じるのは、ASEAN10カ国のうち、日米とともに、中国に嫌われても同盟関係を維持しようと明確に態度で示しているのはシンガポールだけだ。温度差はあれど、ほかの9カ国、中でも中国との国境越しに中国の圧力を常に感じている大陸ASEAN諸国は、すべて中国にヘッジを始めている。

この情勢下、引き続き日本の将来、安全保障は米国にかかっていると言わざるを得ないであろう。安倍政権はコンスタントにトランプ政権とコミュニケーションをとり、より深い関係の構築を目指す姿勢は正しい政治判断だと捉えている。われわれ日本人は世界に認知され、強いリーダーとしてトランプ大統領から好感をもたれている安倍総理を支えないといけない。

日本としては、トランプ政権に対してしたたかに恩を売る形を作っておく必要があるだろう。トランプ政権の支持率向上のために、アメリカで雇用や投資を作る努力こそ、軍事力を持たないが巨額の資金を持っている日本が最も貢献できる点だ。また、トランプ政権には閣僚やホワイトハウスのスタッフにアメリカ財界から多くの要人が起用されているので、これまでの政府ルートでの人脈構築のみならず、日米の財界ルート等を使った関係構築が急務である。私自身、アメリカの財界、つまりトランプ政権に太いパイプを持つミルケンインスティテュートの唯一の日本人フェローなので、その立場を使って日米関係の進化に微力ながら貢献していきたい。

日系企業が進むべき道は? 

= 自分の力で仕事ができる優秀な人材を海外に送り込め=
アジアで成功するだけでなく、国内海外を問わず企業が地政学やテクノロジーの変化に対応するためには、真の意思決定者を育てるのが急務だ。自分で情報を収集し、自分の頭で仮説設定し、検証していくような作業を日々積み重ねる経験を幹部候補生にさせるべきだ。そういう意味で、地政学的変化にもまれ、日本よりテクノロジーが社会や経済に与える変化を肌身で感じられる、アジアを含めた海外に若いうちからエース級の人材を送り出すべきだ。

そして、日本企業の人事としては容易ではないが、2~3年のスパンではなく、10年くらいのスパンで、現地経営をまかせるべきだ。東京本社のご機嫌をうかがわなくてもいい体制で、現地のトップはローカル人材にまかせるくらいにしないとローカルのいい人材を高いモチベーションの採用し活用することは難しい。当たり前のことばかりだが、これくらいやらないと現地の活きた情報とネットワークは手に入らないし、変化の激しい時代に対応できる経営人材も育たたない。

日本企業はアジアをはじめとした海外で積極的にM&Aを行っているが、多くの事例を見て心配になる。相手先の選定や買収価格の適正さに、同業の欧米企業幹部らからも「間違った相手を過剰な高値で買収しているように見える日本企業は大丈夫か」と言われているものが珍しくない。さらに、日本企業を見ていると、M&Aが完了した時点で息切れしている光景をよく目にする。クロスボーダーのM&Aは資金調達からデューデリジェンスまで大仕事ではあるが、そこで息切れしていたら本末転倒である。M&A完了はスタート台に立っただけなのだ。もっと大事なことは買収後のPMI(経営統合)だ。これをやり遂げられる人材は日本企業には少なく、ローカルでPMIができる人材の採用や育成をやっている企業も見当たらない。M&Aは時間を買う戦略でもあるが、それを活かすには、当たり前だが長い目でみて地道にPMIができるような人材を真剣に育成すべきだ。

= アジアのキーとなる50万社・50万人を網羅するDatarama =
かかる状況下、私は自身がアドバイザーを務めるブティック型投資銀行と連携してDataramaという会社を立ち上げた。中国&ASEANの主要50万社、キーパーソン50万人の最新データを、AIを使って定量・定性分析し、意思決定者が一目で経営判断に行かせるようにデータ・ビジュアル化するサービスだ。アジアに特化して、これだけの企業とキーパーソンを常に機械学習で分析しているサービスは他にはないだろう。しかも通常のリスクコンサルティングが書くような冗長な文章ではなく、マッピングされたデータなので、多忙な意思決定者でも、アジアにおいてその企業や人物と組むべきか否かのバックグラウンドチェックやブラックリスティングが一目でできる。

取り扱うデータは、財務情報、過去の裁判記録、資本関係の詳細、収賄など腐敗に関する警察情報、オンラインオフラインでのメディアによる評判等々だ。実際のビジネスでは、リークワンユースクールで教えている「マクロを学んだ」上で、Dataramaで提供するような「ミクロへのアプローチ」がさらに重要となる。その双方を提供して、日系企業のさらなるアジアでの成功のためのインテリジェンスを高めるお手伝いをして行く計画だ。期待して欲しい!

【ポイント】
・地政学的には、東アジア情勢を考えれば、引き続き米国との関係強化が重要
・中長期的には、米中が接近した場合のリスクに備えよ
・企業では、早めに幹部候補生を海外に送り出し、自分で意思決定に必要な情報収集し、その情報をもとに自分の頭で仮説検証できる人材の育成、それを支える仕組みを作れ

 

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