女が「私のどこが好きなの?」と問い、男が「君のすべてが好きなんだ!」と叫ぶのには理由がある。それは、男女の心に住むものが違うから。そこに気付くと、商品の“性別”が見えてくる。マーケティング・コンサルタントの郷好文氏が、“男品(おとこじな)”と“女品(おんなじな)”の融合ポイントを探る(このコラムは、アイティメディア「Business Media 誠」に2008年6月12日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)。
算数音痴でも数字から答えが解けるときがある。理科系ビジネスマンならなおさら、「数字こそ答えを解くためのものさ」と口をそろえる。ところが感覚的文科系の私は、年を取れば取るほど数字(データといってもいい)の世界から遠ざかり、売れるも売れないも消費心理も、せいぜい足し算と引き算に還元する。割りきれない小数点以下の心理は、きれいすっぱり切り捨てている。
そんな単純還元マーケティング脳の私だが、先日ふと「男と女は数学が根本的に違う!」と、ひらめいた。消費心理をワシづかみにできた!と思った。
男と女で数学が違うとは・・・? ワシづかみのきっかけは、5月11日に東京ビッグサイトで行われた「GEISAIミュージアム#2」でAKB48(エーケービーフォーティーエイト)を観なかったことだ。
男はプリンアラモード
AKB48とは秋葉原48劇場で毎日ステージを行う、女子48人のアイドルユニットだ(デビュー当時はもっと少なかったらしい)。
AKB48は「Aチーム」「Kチーム」「Bチーム」合計で48人のメンバーで構成されている
(AKB48公式サイトより)
GEISAIミュージアム#2はプロアーチスト登竜門の展示イベントなのだが、その併催イベントのメインを務めたのがAKB48。そんなわけで、その日のビッグサイトには、芸術はともかく女子目当ての男子来場者が多かった。私はそもそも「AKB48」をどう読むのかさえ知らなかったくらいだから、彼女たちのことは眼中になかった。だから観ずに帰った。
もう1つ理由がある。その日の私のターゲットが1人の女性(若きイラストレーター)だったのだ。1人の女性に心を集中させて「知りたい」と思ったから、48人の女の子は私には多過ぎた。
AKB48は「Aチーム」「Kチーム」「Bチーム」の3グループからなり、トータルで48人(だそうだ)。入脱退がありメンバーには変動がある。男子ファンは48人全員がお目当てではなく、ユニットの中の特定の女の子のファンなのだろう。48人もいても、1人を好きになるファン心理という点では私と同じかもしれない。
だが待てよ。マーケティング目線で考えた。集団で売る意味はある。AKB48は“ユニットの中でお目当て探し”をさせるのが狙いだ。最初から1人ではなくて、プリンアラモードのように「プリンがメインだけど、ホイップもイチゴもバナナもいいな、どれから食べようか」という、“目移りさせるユニット効果”がウリである。
バナナから食べる。食べだしてバナナとホイップを合体させる。ホイップとプリンもいいな、プリンとイチゴはどうかな・・・と味の相乗効果にハマってゆく。ユニットの中の1人へ、1人からユニットへ――アイドルユニットとは、プリンアラモード好きの男性心理を狙い撃ちする仕掛けだ。
女はキムチひと筋
一方、男のプリンアラモードと対照的なのが、女の“キムチひと筋”。
ペ・ヨンジュンさん狂想曲である。2008年5月30日、関西空港に2年ぶりに来日した韓流スターの到着を待って、なんと1000名ものオバサマ方が空港ロビーで徹夜した。到着時刻にはオバサマは3000人にふくれあがり、警備員も400名近く動員された。
アシアナ航空から降り立ったヨン様が、入国ゲートから黒のジャケットにジーパン姿で表れると、旅客機の着陸のような、地鳴りのごとき歓声と悲鳴で空港が揺れた。ヨン様人気が衰えたと思っていたのは男だけだった。オバサマのファン心理はキムチを漬ける壷の底で、フツフツと発酵し続けていたのだ。
キムチの壷(ハンアリ)。Wikipedia「キムチ」より
2年間も漬けたら生キムチは腐りそうなものだが、腐らずに待つのが女性心理。唐辛子のような熱い想いをじっと1人に沈殿させることは、プリンアラモード好きの男にはとても真似できない。48人のユニットと1人の韓流、そこからフトひらめいたのが、小学校で習った算数のアレだった。
男は公倍数、女は公約数
男の心には“公倍数”があり、女の心には“公約数”がある。
公倍数とは2つの数字に共通する倍数。男の“好き”には、あれも好きになれば、これも好きになるという“好きの掛け算心理”がある。倍数のようにどんどん拡張する。コレクターに男が多いのは偶然ではない。
公約数とは2つの数字に共通する約数、割り切れる数だ。女の“好き”は、それだけを好きにツボにはまる“好きの割り算心理”がある。自分と相手の約数が“1”になるまで、じわじわ絞り込んでゆく。幼少からのぬいぐるみをずっと愛でるのが女である。
男は世界中の女を欲しいと思い、女は1人の男を制覇したいと願う。男は浮気をし、女は男を縛るワケである。
だから男は「君のすべてが好きなんだ!」と愛を広げる。女は「わたしのどこが好きなの?」と絞り込んでくる。男が恋文を捨てられないのは、広げた恋をたたむのに時間がかかるから。女がスパッと断ち切れるのは、最初からたたんでいるからだ。
48人の追っかけか、1人の追っかけか。その違いから商品を見ると、“商品の性別”がくっきりと見えてくる。
男品と女品の“感性融合ポイント”に活路
“鉄っちゃん”と言えば男。鉄道ファンは日本全国の網羅性があり、電車なら津々浦々どこまでも追いかけて、好きをどんどん連結する。“鉄”はまさに男商品。
同じ“鉄”を使うのでも、女は自分を線路に乗せ、旅という体験の上で自分を追い求める。女はレールの上の自分の体験を主役に据える。“旅”は女商品である。
バッグで比較してみよう。女モノのバッグはポケットが少ない。それは化粧道具など出し入れする“分身バッグ”があるから。女のバッグは“自分パーツ入れ”である。逆に男モノのバッグはポケット数を競う。整理をするための道具入れが基本。バッグにも“男品(おとこじな)”と“女品(おんなじな)”がある。だが、最近、トートバッグを使う男が増えてきたのはなぜだろうか――。
今どきは、商品開発もデザインも“女の世界観”がテーマだ。機能よりもテイスト。ロジックより直感。盛りだくさんより絞り込み。マスブランドよりコアブランド。女品が売れる。
ただ男目線の“女性専用商品”はダメだ。女性仕様のミラーや化粧ボックスを付けた軽自動車がさっぱりだったのは、“女性仕様=女性向きの機能を付ける”という男目線の開発だったから。女性専用機能ではなく、男品と女品の“感性融合ポイント”を探すことが必要なのだ
だから課題はこうだ。“男と女がいかに交じりあうか”。うふふな交じらいだけでなく、女性の世界観を商品にいかに取り入れるか。
理想的なのは“両性具有”。女もすなるネイルケアを、男もすなる時代である。消費のジェンダー境界線は消滅しつつあるのだから、開発者もジェンダーを捨てないとダメだ。女性の商品開発者に男モノを、男性の商品開発者に女モノを開発させて境界線を波立たせるのもいい。
最後にひと言。男が忘れてはならないのは“1人”を追うこと。どうもこれは課題というより“原罪”なのかもしれないのだが。
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