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こだわりと柔軟性 ―ホンダから考える「引力に負けない目的」によるマネジメント

投稿日:2016/12/28更新日:2021/11/24

あるやり方にこだわりながら物事を進めていると「あの人は頭がカタい」「柔軟性に欠ける」と言われる。かと言って、ころころ柔軟に変えていると「こだわりがない」「軸がぶれている」と言われる・・・。

事業の戦略レベルから、日々の組織マネジメントに至るまで、この「こだわり」と「柔軟性」のジレンマと向き合わなくてはならない機会は至るところに転がっています。

実はこのジレンマへの答えそのものはシンプルです。それは「目的には徹底的にこだわる」「その一方で手段は柔軟に変える」ということです。

たとえば、会議で議事録を取る必要はあるのでしょうか。もしその目的が「後で意思決定結果とそのプロセスを振り返るため」ということであれば、意思決定に関わる会議において議事録は必要になるでしょう。しかし、裏を返せば、意思決定に関係ない会議まで議事録を取る必要はない。さらに、会議の振り返りをするための別の手段があれば柔軟に手段を変えればいい。少なくとも議事録作成という「手段」にこだわる必要性は全くないのです。しかし、私たちは時として議事録作成という手段そのものに不要なこだわりを持ってしまいます。「議事録とはかくあるべし!」「こんな議事録ではだめだ!」・・・このように目的を見失って手段にこだわりだすと、マネジメントは迷走し始めます。

分かっていても陥る「手段の目的化」

「目的こそが重要」「手段の目的化には陥るべからず」という原理原則を、私たちは皆知っています。分かっていながらも、いざという場面では何にこだわるべきかを見失う。実際にはそのような組織や人は多いはずです。

ではどうすればよいのでしょうか。答えは、本田技研工業(以下ホンダ)の社員の方とのディスカッションの中にありました。ホンダは自動車や二輪のみならず、ものづくりの世界全般においてリーディングカンパニーとしてその存在を示し続けています。

ものづくりの世界では、言うまでもなくテクノロジーの進化が大きな影響を与えます。サプライヤーから提供される部品も日々進化していきますし、他方で顧客側の興味関心や感度の変化なども捉えていかなくてはなりません。関係者も多く存在し、利害関係も複雑に絡み合います。何が言いたいかというと、「目的を見失いやすい」環境にあるわけです。目的を見失えば手段が暴走します。テクノロジーを追求してしまう、社内調整の結果として誰のための商品かが分からないものが出来上がってしまう・・・このようなことは容易に想像できます。

では、この状況下で、現場のリーダーはどうやって目的を見失わずにマネジメントを行っているのでしょうか。どのように目的を押さえ続けているのでしょうか。そんな問いを持ちながら、複数の方にインタビューをさせていただきました。その中で、私たちが感じ取ったシンプルな原則を2つ紹介したいと思います。

時間をかけて議論するからこそ、こだわるべき目的に到達する

1つ目のポイントは、目的を生み出すためには時間をかける、ということです。

ホンダの社員の方とのインタビューで一番印象的だったのは、コンセプト(=目的)に対する時間の掛け方です。「何のためにこの商品を作るのか、喜んでほしい顧客は誰か、その顧客は何を望んでいるのか、その望みをホンダはどういう形で達成したいのか」というコンセプトを生み出すために、ホンダでは「階層を超えて、納得するまで時間をかけて議論を行う」、「敢えて当たり前のことを問い続ける」という言葉が何度も出てきました。

一見するとそれほど大したことがないように見えますが、私たちの身の回りには、「そんな青臭いことに時間をかけて意味があるのか」「まずは行動すべし」という圧力があることも事実。ややもすると目的というのは後回しになり、結果的に単なる「お題目」になりがちです。しかし、どれだけ素晴らしい目的を思いついたとしても、それが組織内で時間をかけて熟成していなければ、「手段の暴走」には勝てません。敢えて時間をかけて叩きあげていくからこそ、ぶれない目的に到達できるのです。

目的は「一般論」ではなく、自分たちだけが語れる言葉で表す

もちろん時間をかければどんな目的でもいいか、といえばそうではありません。出来上がった目的の良し悪しはどうやって判断すればよいのでしょうか。それは、「自分たちならではの言葉であるか」ということが一つのチェックリストになります。どこにでもあるような目的であると、ブレやすい。忘れやすい。そうならないためにも、自分たちならではの目的を作り出すことが大切です。ホンダで経営企画部長を務めた小林三郎氏は著書『ホンダ イノベーションの神髄』において、こう語ります。

「A00(注:本質的な目的を表すホンダ用語)で最も重要なことは、何が本質なのかを腹の底で理解し、魂の発する言葉として表現できるまで、とことん問い詰めることだ。」

このように、目的は借り物の言葉ではなく、自分の腹の底から出てくる言葉で表現することが大切です。

手段の引力に負けない目的を作る

目標を生み出すために時間をかけ、その言葉に魂を込めた結果として生まれるのは、目的に対する頑なまでのこだわりです。

インタビューにおいても、「納期やコストを優先してコンセプトをずらすことはしない」「目的で定めた顧客への提供価値を出せていなければプロジェクトそのものを止める。これに関しては、上の役職が何と言おうと変わらない」と言い切る一方で、「コンセプトを実現するためには、アンテナを立てて多くのやり方を柔軟にチャレンジしていく」と語る姿が印象的でした。

ここまで目的にこだわっているからこそ、優先順位が明確になり、手段を柔軟に検討することができるわけです。

今、私たちに求められているのは、手段が持つ「引力」に負けないくらいの目的を作ることです。こだわることができる目的を作ることこそが、仕事の本質なのかもしれません。

身の回りに溢れる手段の引力に負けない目的を作ろう――ホンダのインタビューを通じてそんな思いを新たにしました。

【今回の学びのポイント】
(1) こだわりと柔軟性のバランスが取れない原因には、目的を考え議論するための時間が不足していることが挙げられる。
(2) 目的を定義するために、一般論ではなく、「自分たちならでは」のこだわりのある言葉を使うべきだ。
(3) 手段の引力に負けない目的を作ることこそ、仕事の本質である。

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https://globis.jp/article/4721

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