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「under the weather」は、自転車メッセンジャーの自由の傘

投稿日:2008/06/05更新日:2019/04/09

街の中を颯爽と駆け抜けていく自転車メッセンジャー。彼らがタスキ掛けで背負っているメッセンジャーバッグ――その中でも人気があるのが「under the weather」だ。マーケティング・コンサルタントの郷好文氏が、自らもメッセンジャーとして働いた経験を持つ「under the weather」の作り手、アナイス・フリッツラン氏に聞いた(このコラムは、アイティメディア「Business Media 誠」に2008年5月22日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)。

都心を歩くと自転車メッセンジャーを毎日見かける。ハンドルも車体もユニークな軽い自転車を上手に乗りこなす彼らは、サイクルパンツにヘルメット姿。肩から無線機とA3の書類が折らずに入る大きなバッグをタスキ掛けで背負って走る。

バッグに収まるのは、荷主が当日中に届けたい3キログラム以下の荷物だ。彼らはもちろん“運送業者”だが、生き生きとした表情や交差点での早いダッシュから、「オレは単なる運び屋じゃないぜ」「走るのが仕事なんだ」という気概を感じる。でも雨が降り、風が吹きすさぶ天気では悲壮感も感じてしまう。

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まさにその天候、「under the weather」という名でメッセンジャーに絶大な人気を誇り、おしゃれなデザインが一般のサイクリストにもウケているバッグがある。「under the weather」の意味するところは、「具合が悪い」。“I was feelin' under the weather last week”(先週、体調悪かったんだ)、さらに「金欠」という意味もあるハンドメイドの作り手、カナダ・トロントのAnais Fritzlan(アナイス・フリッツラン)氏にインタビューした。

Hands-on businessで在り続ける

――なぜメッセンジャーバッグの事業を始めたのですか?

初めてメッセンジャーとして働いたのは2000年。トロントで数週間、ニューヨークでは数カ月走って、アムステルダムで半年かしら。前夫(オランダ人)がメッセンジャーをしていたの。その頃からたくさん縫い物をしていて、彼が「こんなメッセンジャーバッグがあればいいのに」と言い出して、私たちの経験を込めて、彼や自分のため作ったり、友人のために縫ったのが始まりね。

――メッセンジャーの経験がバッグに生かされているわけですね。

メッセンジャーとして働くのは楽しかったわ。とっても大切な仕事よ。でも私はバッグを作ることを選んだの。作ることが楽しいから。(メッセンジャーになった2000年頃から)バッグを作ってはCMWC(メッセンジャー世界選手権)やECMC(同欧州選手権)で売りました。2001年の秋トロントに帰り、グラフィックデザインの学校に行き、2002年半ばから「under the weather」の事業を始めました。

――1つとして同じものがないのが特徴ですよね。デザインにウィットがあり、色のコンビネーションも絶妙です。外側だけでなく内側にも配色の妙があって・・・。色や素材の組み合わせはどう決めるのですか?

ネットからの注文をベースにグラフィックを起こして、身の回りのモノから発想したり、手持ちの材料を組み合わせます。自然、花、木々のデザインも好きですし、都市風景も科学技術柄も好き。でもアートっぽいデザインが一番好きかしら。

――アナイスさんは幼少の頃から、お母様に縫製を教わり、服や小物を縫ったり、絵を描くのが好きだったと聞いています。デザインと印刷技術を学び、グラフィックのコースも通われましたが、デザインの技術を磨くのは、ほぼ独学だったそうですね。ところで、バッグの機能の特徴は、どんなところにあるのでしょう?

まずは耐久性。縫製ではいつも心掛けています。最近素材をPVC(ポリ塩化ビニール)からTPU(ポリウレタンエラストマ=軽量で耐久性・耐摩耗性に優れる高機能材料)に変えたのも、環境に優しいという理由だけじゃなくて、TPUの強度が高いからでもあるの。

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「under the weather」の日本代理店を営むサイクルショップ「Depot(ディーポ)」の湊誠也さんは、「メッセンジャーバッグはその土地ごとに、ご当地ブランドがある」と話す。その地で多い書類や物品、天候などによって仕様が決まるのだ。

「国際的なFame(名声)を得たのに、なぜいまだHands-onなのですかと聞くと、アナイスは「私が名声だって!? 笑わせないでよ」と言う。だが北米だけでなく日本でもunder the weather」のコアなファンは多い。

Messential bag ストラップが頑丈

どこの店でも入荷後すぐに売れてしまう。

事業が軌道に乗った今もHands-on――自分でデザインし、ミシンに向かい縫製する。出荷できるのは週にせいぜい20個。現在の夫・サムが手伝っているが、基本は独りの作業。バッグ以外にパンツやスカートも販売するが、それも地元トロントの小さな工場に発注する。小さいままでいることに価値があるという。

「好きな手作りで生計を立てられる私はとても幸運です。大きなビジネスを管理するのは好きじゃないし、ビジネスを大きくしたくもない。大きくすれば雇用も教育も品質管理も請求も気にしなくちゃならない。自分を表現できる規模に留めておきたいの」

――CMWC(メッセンジャー世界選手権)のエントリーリストにお名前があります。今年もメッセンジャー世界大会に出場されるのですか?

たとえ行かなくても、サムと私は毎年エントリーしています。彼は時々出場しますが、それはメッセンジャー・コミュニティを支えるために大切なことですね。

バッグを通じて自由を支援する

なぜ若者はメッセンジャーになるのか? 自転車さえあれば今日から働ける自由さゆえだろう。自転車文化の担い手という気概も持てるからだろう。

だが自由の代償は小さくない。請負の自営業というあいまいな労働契約。東京都心部でも年収200万円台、地方都市では100万円台という。自転車だから自賠責保険もなければ、医療も年金も自己責任。自転車自体はもちろんパンクしても自費だ。平均勤続年数は2年に満たず、会社の幹部にならなければ永遠にその境遇だという。

それでもお金を貯めてCMWCに行く日本人サイクリストも多い。アナイスさんは彼らを支えるため、2008年6月トロントでのCMWCでスポンサー協賛もする。

――夢は何でしょうか?

好きなモノ作りで過ごすことね。リラックスして自然と調和して暮らせれば環境にも良いの。あと、助け合うことを大切にしたい。メッセンジャーのコミュニティは私をとても支援してくれています。だからできることで恩返ししたいの。

under the weatherのロゴを見てみよう。厳しい気候を傘の下で助け合いことを象徴する。自転車の乗り手と用品の製作者。1人対1人。立場は違っても自由を持続させるために助け合う。アナイスさんは、世界でたった1つしかないバッグという個性で、自由を支援している。

▼「Business Media 誠」とは

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